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Re: スカーフ規制を許してはならない民族衣装の禁止である。【それほど単純な話ではありません】
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投稿者 ロヒアリム 日時 2004 年 8 月 30 日 10:06:51:zfvKk4KS9xhSM
 

(回答先: スカーフ規制を許してはならない民族衣装の禁止である。 投稿者 木村愛二 日時 2004 年 8 月 29 日 23:35:51)

私も、フランス国内におけるいわゆる「スカーフ規制」は、イスラム教徒に対する人権抑圧として機能していると考えますが、「スカーフ規制は、フランスの多いユダヤ人の要求であって」というふうに単純化はできません。

問題となっているの法律は、「公立の小、中、高校において児童・生徒が宗教的帰属をあらわに示すような標章、服飾を着用すること」を禁じるものであって、イスラムのスカーフだけではなく、ユダヤ教徒のキッパ(丸帽)、キリスト教徒の大きな十字架なども禁じられているのです。(仏教徒が大きな数珠を携えることも禁じられるのかどうかは確認していません)
キッパを禁じる法律を「ユダヤ人が要求する」とは、常識的に、考えられません。

欧米におけるさまざま政治的動向を、詳しい分析や調査をせずにおしなべて「ユダヤ」の一言で切り捨てていっては、見えるものも見えなくなってしまうのではないでしょうか。

「公立学校において児童・生徒が宗教的帰属を露骨に示すような標章、服飾を着用することを禁じる」というのは、大革命後のフランスが長期にわたって実現させてきた、そしてフランスの社会システムの柱の一つとなってしまった、「公共分野における徹底した政教分離」の原則に基づいています。この原則はフランス国民の間でも幅広く指示されており、世論調査では国民の57%、教師の78%が「あらわな宗教的標章」の着用規制に賛成していたという数字があります。

大革命以降、政教分離の完全な法制化まではなんと100年以上を要したのですが、その結果フランスでは「宗教は個人の領域の事柄であり、公の領域はフランス共和国の原則に従う」という社会意識が確立しました。東洋の某国のように、宗教法人に支配されている政党がのうのうと「公」の領域をしきっていることなど、フランスでは想像を絶したできごとです。

したがって、この規制はあくまでも「公立学校」においてのことです。なぜなら、フランスにおいては「公」とはすなわちフランス共和国の理念であり、フランス共和国の理念なくしてフランスは存在しえない以上、「公」の場では社会の原則を受け入れるべし、という議論が成立してしまうからです。ですからどうしても宗教的標章を着用したい児童生徒は私立に転校するは自由に着用できる、ということになるわけです(むろん、原則無料の公教育から私立に転校するというのは、一般に所得の低いフランス国内のイスラム教徒にとって、たやすいことではありません)。

しかしながら、ある程度フランスに親しんでいるとはいえ外国人である私から見ると、極めて疑問な点が2つあります。
第一には、自らの宗教的所属を公然と服飾において表明することも個人の表現の自由に帰属する以上、このような規制法案は、フランス共和国の根本理念である「自由・平等・友愛」に抵触しないのか、ということ。この点については、フランスでもかなり議論が行われていたようですが、自由原則と政教分離原則とのこの矛盾を解決できているとはとても言えません。フランス社会の「のどにささったトゲ」と感じられます。

第二点は、政教分離は、長年のカトリック教会による社会の支配からフランス社会を「独立」させる、一種の抵抗運動であり、かつ、フランス市民の意識改革運動であったということです。その限りにおいて、政教分離原則は共和国の理念と合致していたわけです。しかるに現在、カトリック教会はもはやフランス社会が抵抗する大将などではなく、政教分離原則を教条的に適用する結果、この原則が公立学校に通うイスラム教徒の子弟に対して抑圧装置として機能してしまっているということです。カトリック以外の宗教はほとんど考慮せずに成立した政教分離原則を、それ以外の宗教、しかも国内少数派である人々の宗教に機械的に当てはめるというのは無理があるはずです。

残念ながら、この第二の矛盾については、フランス社会がきちんと認識しているとは思われません。また、この規制を通じて、数的には規制の主たる対象になってしまうイスラム教徒の子弟とその家族に対して、どの社会でも見受けられる、「多数者による少数者に対する隠微な抑圧の願望」を実現させている、という面も否定できないでしょう。

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