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ナベツネ氏の不可解な辞任に沈黙するメディア(1)
2004年08月20日(金)
萬晩報通信員 成田 好三
http://www.yorozubp.com/0408/040820.htm
NHKの海老沢勝二会長と並ぶ日本メディア界の「ドン」であり、プロ野球界の「ドン」でもあった、読売新聞グループ本社会長のナベツネ氏こと、渡辺恒雄氏が8月12日、突如として読売巨人軍オーナーを辞任した。今秋のドラフト有力候補選手へのスカウト活動でルール違反の行為があったとして、この問題の道義的責任を取ったというのが理由である。
■不可解な渡辺氏の辞任理由
しかし、渡辺氏のオーナー辞任の理由ほど不可解なものはない。辞任に関する読売の説明はもちろん、アマ球界も含めた野球界の対応は、不可解なことばかりである。当事者である読売、アマ・プロ球界、それに野球界を監視する立場にあるはずのメディアでさえ、渡辺氏辞任の理由を明らかにするのではなく、事態を可能な限り矮小化しようと、「共同作業」をしているとしか思えないからである。
渡辺氏の読売巨人軍オーナー辞任の理由について、読売は13日付の紙面でこう説明している。
今秋のドラフト自由枠での獲得を目指していた明治大学の一場靖弘選手(投手)を巡り、球団社長、球団代表の許可を得て編成部長が現金200万円を一場選手に手渡した。一場選手への現金授受の事実は、最近になって読売新聞グループ本社に外部から情報が寄せられ、巨人軍に調査を指示した結果、判明した。この問題の道義的責任を取って、渡辺氏はオーナーを辞任した。
読売新聞は、外部から情報が寄せられたとしているが、外部からの情報とは、誰からの具体的にはどんな情報なのか、何も説明していない。さらに、その情報が何故、日本を代表する巨大メディア・読売新聞の最高経営責任者である渡辺氏のオーナー辞任に直結したのか、これについても何も明らかにしていない。
■「たかが野球選手」と「たかが200万円」
読売新聞の説明する渡辺氏の辞任理由は納得できるものではない。記者会見には本人は出席していない。紙面を通して「メッセージ」を伝えただけである。日ごろから饒舌な渡辺氏だが、この問題に関してだけは、沈黙を守り通している。
渡辺氏が推し進めた球界再編に関して「蚊帳の外」に置かれたプロ野球選手会の古田敦也会長が球団オーナーとの直接会談を求めたのに対して、「たかが選手の分際で―」との暴言をはいて会談を拒否した渡辺氏が、「たかが200万円」程度の現金供与でオーナーを辞めるはずはない。
渡辺氏の辞任には、表向きの理由とは別の理由があるのではないか。選手はもちろん、ファンや世論の声を無視して強引に進めてきた1リーグ化、古田氏への暴言を機に巻き起こった「反ナベツネ」「反読売」の世論のうねりは拡大してきた。
渡辺氏に無視された古田氏は、テレビ朝日の討論番組「朝まで生テレビ」に出演して選手会の主張を訴えた。連合の笹森清会長との会談を実現させた。笹森氏も古田氏の立場に理解を示した。こうした動きを読売新聞としても無視できなくなったのではないか。
■裏金を認める「内部文書」が存在する
仮に、辞任の直接の理由が「200万円供与」事件だったとしても、ドラフト有力選手への現金供与、裏金の実態は、今回発覚したような大学生への食事代など小遣い程度の供与であるはずもない。ドラフトでの有力選手獲得を巡っての裏金の存在は、プロ野球界の常識にすらなっている。8月17日付朝日は、西村欣也氏のコラム「EYE」で、裏金の存在を認めるプロ野球界の内部文書の存在を明らかにしている。
西村氏はこう書いている。「過去の問題については、01年1月18日の開発協議会で12球団代表に配布された内部文書を読んでいただきたい。 『契約金を1億円+出来高5千万円と申し合わせたが、現実は裏金と言われる金員がかかり球団経営を圧迫する事となった』 多額の裏金の存在を機構内部が認めている文書が存在するのだ」
その上で西村氏は「裏金が(球団)経営を圧迫し、球界再編の流れとなった」と指摘している。
■「調査せず」「過去は問わない」プロ・アマ球界
「200万円供与」に関しては、関係団体に共通する「項目」がある。どの団体も当事者である一場選手への事情聴取は行わず、過去の事実の確認も行わないということである。「加害者」である読売巨人軍は8月16日、新球団社長が会見して、「(過去に)さかのぼって調査することはない」と明言した。
一場選手が所属していた日本学生野球連盟も同日、一場選手と明治大学野球部に対して処分を科さない決定を下した。既に野球部を退部した一場選手も明大野球部も被害者であり、処分の対象にはならない、という理由からである。一場選手に対する事情聴取は行わない。
「被害者」であるアマ球界も沈黙した。裏金の実態を明らかにする意思などまったくないのである。多くのアマ球界の関係者、指導者が裏金に染まっているとするならば、彼らは沈黙するしかないからである。(2004年8月20日記)
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ナベツネ氏の不可解な辞任に沈黙するメディア(2)
2004年08月21日(土)
萬晩報通信員 成田 好三
http://www.yorozubp.com/0408/040821.htm
プロ野球界全体を統括する立場にある根来泰周コミッショナーは同じ日(8月16日)にこんな発言をした。裏金問題の調査に関して、「調査能力に限界があるし極めて難しい。過去は過去としてそのままにしておく」。渡辺氏の「たかが選手の分際で―」をはるかに超える暴言である。
根来氏は、極めて政治色の強い法務・検察官僚だった。プロ野球界にも、渡辺氏の傀儡として送り込まれた人物である。そうだとしても、現実に起きた裏金事件を調査せず、過去の調査も行わないと即座に断言するとは、いったいどんな見識をもった人物なのだろうか。過去を(現在も)清算せずに、どんな未来をつくろうと考えているのだろうか。自らの地位の安泰以外は何も考えない人物なのだろう。渡辺氏が球界の表舞台を去った後も、この人物は渡辺氏の傀儡であり続けるつもりだろう。
■メディアの不可解な沈黙
渡辺氏のオーナー辞任発表は実に絶妙なタイミングで設定された。球界再編を巡る混乱の中で、1リーグ制の旗振り役であった渡辺氏の辞任は、当事者である読売を除く全国紙各誌がトップニュースとして扱った。読売は1面左肩で4段見出し扱いにした。TVでもNHKはニュースのトップに位置付けた。
長年にわたるプロ野球界の病巣であった裏金の事実が発覚したことによる、球界の「ドン」の辞任である。球界再編の帰すうを決する9月8日のオーナー会議まで1か月を切っている。1面トップで扱う価値のある重大ニュースだとの認識があってのことだ。しかし、彼らに価値判断はたった1日で変わった。翌日から彼らの関心は別のテーマに向かったからである。
渡辺氏の辞任が発表用されたのは8月12日である。翌13日にはアテネ五輪の開会式が行われた。新聞やTVはアテネ「狂想曲」を激しく奏で始めた。柔道の野村忠宏、谷亮子、競泳の北島康介、体操男子団体の28年ぶりの金メダル獲得と、メディアはアテネに照準を絞ってしまった。誰も渡辺氏の辞任とその背景にある問題など気にしなくなった。渡辺氏の辞任は、アテネ五輪での日本選手の金メダルラッシュの中で忘れられた。各メデイアとも読売のメディア戦略に乗ったようである。
現実は、アテネ狂想曲の陰で忘れられてしまう程度のニュースではないことを、読売自身が自ら行った人事で示している。読売は事件の責任を取らせるとして球団社長、球団代表を解任したが、球団代表の後任は、東京本社運動部長を充てた。アテネ五輪の開会式前日に、読売五輪取材の現場指揮官を交代させたのである。イラク戦争開戦前日に、米国が現地司令官を解任したようなものである。
読売は、アテネ五輪に社運をかけて取り組んでいる。JOCの公式スポインサーになり、印刷工場を各地に新設するなど巨額の設備投資を行っている。その読売が、アテネ報道の現場指揮官を直前に交代させてまで、球団体制の建て直しを図っている。
読売のライバルである朝日は、渡辺氏が押し進めてきた球界再編・1リーグ化に異議を唱えてきた。その朝日は、先の西村氏のコラムで、球界の内部文書で裏金の存在を暴露している。しかし、朝日や西村氏は何故、この事実をストレートニュースとして扱わなかったのだろうか。その理由が分からない。
渡辺氏の辞任と「200万円供与」事件の意味は、球界で常識になっていた裏金の存在を、当事者、しかもプロ野球界の盟主を自認する読売自身が認めたことである。その事実を読売はもちろん、アマ・プロの野球界ばかりか、メディア界までもが加担して矮小化しようとしている。アテネ五輪に出場しているプロ選手24人にしても、ドラフトに関して裏金とは無関係だと言える選手はどれだけいるだろうか。
■国税庁に「保護」させてきたプロ野球界
裏金についてはもう一点だけ指摘しておく必要がある。球団と選手との入団契約の過程で、正規の契約金以外の金品が存在することは、違法行為に当たる。双方とも税金の申告などしようもない金品であるからである。
読売は7月27日付の連載「野球再生」(1)「パ・リーグ 補填も限界」の中で、近鉄の40億円など親会社が球団の赤字を補填している実態に触れた中で、こう書いている。
「こうした補填は本来なら、子会社への寄付金とみなされ、親会社は補填額の大半を課税される。ただ、プロ野球の場合は(19)54年の国税庁通達で、赤字(欠損)補填金が広告宣伝費の性質をもつ場合は全額経費として認められている。」
プロ野球界は、国税庁から税金面で特別な保護を受けている業界なのである。戦後、国民的娯楽を提供する業界として認められ、さらに当時の業界人の強い政治力によってこの「保護通達」ができたのだろう。そうした特別扱いを受けている業界が、赤字で球団経営が成り立たないと言いながらも、巨額の裏金を横行させているとしたら、これは間違いなく悪質な犯罪行為である。
■辞任カードですべてを矮小化、隠蔽するのか
読売自身が明らかにした裏金の存在という球界の病巣を、手術で除去することではなく、メディアも含めた関係団体がよってたかって隠蔽し、少なくとも矮小化している。渡辺氏の辞任カードとその絶妙なタイミングは、それでだけ効果的だった。しかし、そんなことをしているプロ野球界は、現行のままの歪な構造の2リーグ制を維持しようが、1リーグ制に変わろうが、展望ある未来など切り開けるはずもない。(2004年8月20日)