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終章 タンク・レディ
砂まみれの体でバグダッドに戻る。ほとばしる水のシャワーで砂を落とす。乾燥しきった体と心に水がしみこんでくる。ロビーのボーイと雑談する余裕が出てくる。
「タンク(戦車)・レディは元気かい」
「ミスター、最近は見かけない」
「それはさびしいね」
去年の春から夏にかけて、イラク人娼婦の彼女はがんばっていたのだ。米軍兵士とイラク自警団が幾重にも取り巻く厳重な警備網を突破して、パレスチナホテルに侵入していたのだ。そして、ホテル構内の暗がりの米軍戦車によじ登っていたのだ。
時には戦車の上から米軍兵士が手を差し伸べていた。暗がりの中で赤いネッカチーフがひらめいていた。戦車の横でガマン強く順番を待つ兵士も見かけた。戦車の大砲は頑丈にできている。狭いスペースで120ミリ砲をぶっ放すのだから。
タンク・セックス・・・・イラク戦争取材を始めてもう1年以上になるが、唯一感動したのはこのシーンだけだった。
感動のあまり思ったものだ。
戦車よ揺れろ、月も風も揺れろ、生きとし生けるものすべて揺れろー。
でも今はそれもない。現場で見せられるのは、あの悪名高きアブグレイブ刑務所での強姦写真だけ。3、4人の兵士が1人のイラク女性を輪姦している、頭を押さえつけられてフェラチオを強要している、どれもこれも新聞やテレビで紹介できないおぞましいものだ。
考えてみれば、去年のあのころは米軍兵士とイラク国民の間にはそれなりの交流があったのだ。でも、今はそれも遠い夢。イラクレジスタンス勢力は米軍をたたき出すまで、大量の血を流し続けるだろう。
(終わり)
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「特集 イラク戦争と報道 戦場カメラマンの掟
白髪振り乱し、61歳、イラクを走る」
わしズム 夏季号 幻冬社 より
他の内容は、1章 白髪カメラマン、チャンス到来
2章 「日本人3人釈放の真相」(釈放の真相を読めば、政府もドタバタ・無能ぶり がわかります)
3章 砂嵐のサマワへ
(終章 タンク・レディ)
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ひとは死んでも、その精神は生き続ける。
タンク・レディを読んで、映画「キャッチ22」のラストシーンを思い出しました。
個人的には、タンク・レディが、最も橋田さんらしい文だと思いました。