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世代と国境超え、後世に託す思い…59回目原爆忌
59回目の夏を迎えた6日、広島市の平和記念公園は犠牲者への追悼と平和の願いに包まれた。慰霊碑に水をささげ、水を飲みたいと亡くなった人たちをしのぶ行事を、被爆3世の若者に譲った被爆女性、義弟の遺骨を捜し出した遺族、新たな創作を試みる被爆2世……。それぞれの胸に刻み込まれた「8・6」の記憶。「平和の願いを引き継ぎたい」。高齢化が進む被爆者だけではなく、世代や国境を超えた人々の思いは、「被爆60年」に向かう
◆85歳が25歳に献水譲る◆
広島市の平和記念公園で、宇根利枝さん(85)(広島市南区)は、この日、慰霊碑前のおけに水を注ぐ被爆3世・谷安啓(やすひろ)さん(25)(同区)を見守った。49年間、慰霊碑に水を置いて回った宇根さん。献水が公式行事になった30年前から宇根さんが務めてきたが、体験談に共感した谷さんに、今年、その大役を譲った。
あの日、宇根さんは広島陸軍兵器支廠の託児所で保母として勤務中に被爆。行方不明の子供たちを捜すため、近くの防空ごうに行くと、顔が2倍に膨れあがり、皮膚が焼けただれた人たちがいた。両手で何かをすくうようなしぐさを繰り返す。「水が欲しいんだ」とわかった。
だが、「爆弾の毒が水に入った。飲ませたら死んでしまう」と聞かされ、あげられなかった。「一滴でも飲ませてあげたかった」と、後悔の念は続いた。
10年後に趣味の山登りで出かけた広島市の峡谷で、滝の水を飲んだ。そのまろやかさにあの時の光景がよみがえった。「犠牲になった人たちにも飲ませてあげたい」。当時、広島市と周辺にあった原爆犠牲者の慰霊碑約120か所すべてに水を入れたコップを置いて回った。
2年前、活動を知った谷さんが「一緒に回りたい」と訪ねてきた。耳にはピアス。「被爆者の思い、平和の大切さ、わかってくれるかなあ」
3年前から清掃ボランティアグループのリーダーを務めてきた谷さん。宇根さんが献水しながら「もう1度、平和な広島に生まれ、命の続きをしてください」と語りかける姿に、同じ言葉をつぶやくようになった。
この朝。宇根さんは谷さんと一緒にあの滝で水をくんだ。式典後、宇根さんは「私の思い、被爆者の思いをわかってくれる。私も体が続く限り回る」と思った。谷さんは「献水を続けて被爆した人たちの気持ちに少し近づけた。風化させないよう力になりたい」と誓った。
◆弟の遺骨、兄の元に◆
「やっと家族がそろいました」。死没者遺族の北海道代表で式典に参列した札幌市中央区の主婦、新保邦子さん(69)は昨年5月に73歳で亡くなった夫、照(あきら)さんの弟、直(ただし)さんの遺骨を今夏に、59年ぶりに見つけだし、照さんが眠る広島市内の墓に納めた。
照さんは原爆投下時、広島陸軍幼年学校生で県北部に疎開。母親と当時14歳の直さんを捜しに広島に戻って被爆。全壊した自宅に2人の姿はなく、母の入れ歯だけが見つかった。
邦子さんとの結婚後、照さんは「せめて直の遺骨が見つかれば……」と、言葉少なに話していたという。
その後、照さんはパーキンソン病を患い、亡くなる2年前の夏、「8月に思うこと」とのタイトルで2人の息子あてに、病の影響で震える手でメールを何度も送った。「弟は一緒にスケートをしていた時に骨折した影響で同じ学校に行けなかった」。そこには弟への思いがつづられていた。
邦子さんは7月初旬、国立広島原爆死没者追悼平和祈念館に3人の遺影を登録する申請書に、「義弟の遺骨を捜すすべはないでしょうか」と書いた。同館の担当者から、遺骨が残り、遺族の見つからない約800人の名簿が北海道庁にもあることを聞き、すぐに電話した。
「神保正」の名前。弟の新保直と2文字違うが、「間違いない」と直感、供養塔を管理する広島市役所を訪れた。当時の住所、被爆場所、年齢がすべて一致。名前は、混乱の中、誤記されたらしい。その日のうちに遺骨を引き取り、照さんや両親が眠る墓に納めた。
◆「平和」テーマ、日米共同制作へ◆
式典の終わった平和記念公園で、現代芸術家田中勝さん(35)(広島市西区)は参列者に、被爆2世として取り組む自分の作品づくりへの協力を訴えた。
田中さんは6年前、米・ワシントンで開かれた国際美術展の前夜祭で父の被爆体験をスピーチした。
この話を聞いた米在住の画家ベッツィ・ミラー・キュウズさん(59)が駆け寄ってきた。米の原爆開発「マンハッタン計画」に加わった物理学者を父に持つことに苦しんでいたキュウズさんは「一緒に平和に貢献する作品を作りましょう」と言い、新しいパートナーが誕生した。
2人の創作は田中さんが撮った風景写真を基に、キュウズさんが絵を描き、再び田中さんが、パソコン上で絵と写真を合成する。2人は被爆60年の来年、広島で平和をテーマに2人展を計画している。
(2004/8/6/14:28 読売新聞 無断転載禁止)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20040806ic11.htm