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比軍撤退――アロヨ氏の苦しい決断(朝日新聞)
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投稿者 彗星 日時 2004 年 7 月 21 日 07:10:35:HZN1pv7x5vK0M
 

社説
07月21日付

■比軍撤退――アロヨ氏の苦しい決断



 イラクの武装勢力に自国の民間人を拉致され、駐留部隊の撤退を迫られていたフィリピン政府が、要求期限を前に51人全員の撤退を完了させた。

 それを受けて、人質は解放された。しかし、「テロとの戦い」で米国と足並みをそろえ、イラクに派兵したアロヨ大統領にとっては苦しい決断だった。

 3カ月前、複数の日本人が同じように人質に取られ、自衛隊の撤退を要求された。小泉首相はそれを拒み、交渉によって人質の解放を図る道を選んだ。幸い、人質は無事解放された。

 その時、朝日新聞の社説は「脅迫を受け入れて撤退することはできない」と主張し、要求を拒絶したことを支持した。人質を取って他国の国民と政府を脅すような卑劣なやり方を認めるわけにはいかない。脅しに屈してしまえば、新たな犯行を誘発する恐れがあるからだ。

 その原則に立てば、フィリピンの対応は人質を取った武装グループを勢いづけることになりかねず、賛同できない。

 しかし、フィリピンが置かれている状況を考えるとき、ただ「テロに屈した」と非難するのもフェアではあるまい。

 米英の要請に応えてイラクに派兵した30余りの国々のなかで、フィリピンはとりわけ弱い立場にあった。

 職がないフィリピンを出て、海外で働く人は800万人を超え、全人口の1割を占める。イラクでも、米英軍や外国企業のために運転手やコックなどとして働くフィリピン人が4千人もいる。

 武装勢力に拉致された運転手も、その一人だった。事故で目にけがをした子供の治療費を稼ぐためにイラク入りしたと伝えられている。

 イラクに派兵したのは、米国と良い関係を保ちたいという政治的な理由に加えて、労働者が占領軍関係の仕事を得やすくなるだろうとの思惑もあってのことに違いない。

 一方、アロヨ氏は5月の大統領選挙で、テロとの戦いや貧困の撲滅と並んで「海外労働者の保護」を公約に掲げた。それもあってか、国内では事件が起きると「撤退して人質を救え」という声がわき上がった。

 米国に同調してイラクに派兵した国のうち、スペインが撤退した。マドリードの鉄道爆破テロ直後の総選挙で、イラク戦争に反対の野党が政権を奪った結果だ。ホンジュラスなどがそれに続いた。

 ノルウェーは先月末、法律で定められた任務期間を終えて引き揚げた。ニュージーランドも9月の撤収を表明した。

 フィリピンを批判したオーストラリアにしても、年内の総選挙で野党が勝てば、撤退が現実の課題となろう。

 イラクでは占領が終わり、暫定政府もできた。しかし、戦争の大義の乏しさが次々に明らかになり、派兵当時に期待された秩序の回復もおぼつかない。国際社会が結束してテロに立ち向かえる状態にはほど遠いのだ。フィリピン軍の撤退は、そんな中でのことだった。


http://www.asahi.com/paper/editorial20040721.html

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