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(回答先: 空耳36板にも書いたが、いつもの田中宇氏らしからぬ切れ味ない文章【憶測と伝聞だらけで取材なし>スランプか?田中宇氏】 投稿者 一市民 日時 2004 年 7 月 17 日 21:01:01)
「国際ジャーナリスト」として活躍されている田中宇氏が
「謀略をやっているのはムーアの方ではないか」との見出しで、
「『華氏911』は、タカ派やイスラエルが有利になるような配慮を持って制作された可能性が大きい」
と書いています。
http://www.tanakanews.com/e0716moore.htm
これはもう大変な国際的なスクープ、スキャンダルです。
ムーアが宿敵のはずのネオコンに実は協力していたというのは、
ジェームズ・ボンドは実はKGBのスパイだったみたいな大事件です。
これが本当なら、『華氏911』を観てムーアに共感した全世界の数百万人の人々はみんなだまされていたことになります。
私もガルマみたいな気持ちになりましたので、
田中氏の記事はさっそく英語に訳して全世界に知らせないといけないと思いました。
そして記事をよく読んでみたのですが、どうも変です。
ムーアが「タカ派やイスラエルに有利になるよう」に『華氏911』を作ったとしながら、
なんで彼がそんなことをしたのか、理由がどこにも書いてありません。
それによってムーアがどういう利益を得るのか、その動機も書いてありません。
もちろんネオコンと彼のコネクションを裏付ける事実も書いてありません。
そこで、田中氏がその説のソースにしているネット記事を読んでみたら、
「『華氏911』を観たらアメリカのイスラエル援助への批判が出てこないし、サウジを批判しているので、ネオコンにとって得な内容だと思う」と書いてあるだけでした。
つまり、ムーアがネオコンとつながっているなんて、どこにも書いていないんですよ。
それなのに田中氏は、ムーアがイスラエルとネオコンの利益になるように「華氏911」を作ったという「陰謀説」を展開しているのです。
田中氏は、ムーアが常日頃からイスラエルへの支援に激しく反対していることを知らないのでしょう。
ムーアは『アホでマヌケなアメリカ白人』でアメリカのイスラエル援助を徹底的に批判しています(P208〜)。
そこではムーアは「オレが払った税金がイスラエルに送られて、パレスチナの子供を殺すのに使われてるのは許せん!」と激怒し、
「アメリカはイスラエルに援助するなら、その倍をパレスチナにも与えろ!」とまで書いているのです。
これを読んいたら田中氏はあのような陰謀論を展開できなかったはずです。
田中氏はおそらく『アメリカ白人』も『おいブッシュ、世界を返せ』もちゃんと読んでいないのではないでしょうか。
なぜなら、どちらの本にもちゃんと、バカなブッシュは傀儡で、その背後のタカ派と財界が本当の悪だと書いてあるからです。
田中氏は、おそらく『華氏911』を見てないと思います。
だって映画を観れば、「イスラエル援助を批判してない理由」はすぐわかるはずですから。
理由は「とりあえず関係ないから」。
これは同時多発テロとイラク戦争についての映画であって、
たった二時間の映画だから、論旨を絞っているのです。
それに『華氏911』は北朝鮮問題についても言及していません。
理由は「とりえあえず関係ないから」です。
それに『華氏911』はブッシュと一緒にイラクを攻撃したブレア首相についても言及していません。
ムーアの目的はブッシュ再選阻止だから、それに集中しているからです。
ブッシュの環境問題政策やエンロンとの癒着についても触れてません。
「『華氏911』はイスラエル援助について言及してないからネオコンの味方」という田中氏の理論に従うと、
「『華氏911』は北朝鮮を批判してないから北朝鮮の味方」ということも言えるし、
「『華氏911』はブレア首相を批判してないからブレアの味方」ということも言えるし、
「『華氏911』はエンロン疑惑を追及してないからエンロンの味方」ということだって言えてしまいます。
どうにもムチャな論理だと思いませんか?
たしかに「イスラエル支援批判がない」と感じた人も少しはいたようです。
私が参加した7月6日のマイケル・ムーアの記者会見でも
アラブ系の女性記者が、「イスラエル支援を批判していない」と抗議しました。
するとムーアは「ゲイ結婚についても言及してないよ。二時間しかないから何もかも盛り込めないよ」と言った後、はっきりとこう言ったのです。
「僕にはパレスチナの人たちの悲劇についての映画を作る計画があります」。
そのアラブの女性記者は、それをムーアの約束と受け取ったようで、満足気に微笑んで着席しました。ちょっと感動的な光景でした。
それに「華氏911」では、ネオコンのウォルフヴィッツは誰よりもヒドイ扱いを受けています。
どのくらいヒドイかは観てのお楽しみ(ゲロゲロです)。
それを見てもムーアがネオコンの味方だと言うのはかなり難しいでしょう。
以上を読んでいただいた方にはおわかりだと思いますが、
つまり田中氏は、ムーアの映画や著作に直接あたらずに、ネットで拾った記事だけを元に『華氏911』をネオコンの陰謀と決めつけたと思われます。
それは自分ではレコードを聴かないで、他人のレコ評読んで、それだけを元にレコ評書くのと同じです。
しかし、「ムーアがネオコンの利益になるよう映画を作った」と書くのは、レコ評と違い、世界的な大問題です。
それを「国際ジャーナリスト」を名乗る人物が何万人もの人々に向けて配信するということは
大変な責任を伴う行為で、ちゃんとした証拠も無しに安易にやることではないと思います。
今まで「アカだ」「売国奴だ」と言われても笑っていたムーアも、敵であるはずのネオコンの手先だと書かれたら、さすがに抗議せざるを得ないのではないでしょうか?
ムーアが、彼の観客を騙していたということになるからです。
ムーアは「僕とネオコンがつながってるとする論拠を示せ」と田中氏に迫るかもしれません。
そしたら田中氏はどう答えるのでしょう?
「ネットでそういう記事を2,3本読みました。論拠はそれだけです」で許されると思っているのでしょうか?
あまりに無責任だと思います。
やはり田中氏の記事は英語に訳して海外に配信すべきだろうと考えています。
陰謀論は『華氏911』の前半でムーアもやっています。
ブッシュ&サウジ陰謀論を展開しているのですが、
正直言って、この部分は論理が曖昧で説得力がなく、
『華氏911』のなかでは一番つまらない部分になっています。
しかし、ムーアはいちおうプロを使って事実調査させているし、あくまで疑問として提出して、断言を避けているので、ネットで拾った2,3の短い記事を読んだだけで陰謀論を語る田中氏よりはちゃんとしていると思います。
せめて映画を論じるなら映画をまず観てから、本を論じるなら読んでから、が最低のモラルではないでしょうか?
それに自分の足で海外に取材に行って人に会ってこそ国際ジャーナリストだと思います。
ネットで読んだことを調査なしで書くだけなら、それは「ネット読み」と名乗るべきでしょう。
ちなみにムーアは「プレイボーイ」のインタビューで「イスラエルのモサドにオサマ・ビンラディン狩りをやらせるべきだ」とバカげたことを言ってる。
その真意をイスラエルの記者が記者会見で質したら、
「いやあ、イスラエルはアメリカから30億ドルも援助してもらってるんだから、それくらいタダでやらなきゃドロボーだ」というジョークだったよ。
http://d.hatena.ne.jp/TomoMachi/comment?date=20040716