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■元国連査察官スコット・リッターがイラクの悪路を見通す。
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昨年3月の侵攻前、ほとんどただ一人、イラク国内に脅威となるほどの大量破
壊兵器が存在しないことを的確に分析して、ブッシュ政権と米マスコミから徹底
排除された元国連大量兵器査察官が、90年代の現場体験を踏まえて、イラク反
米レジスタンス運動の実像を描き出します。03年2月の来日や邦訳『イラク戦
争――ブッシュ政権が隠したい事実』で熱く語った内容は、ほぼすべて正しかっ
たことが判明したいま、彼の言葉には重みがあります。
星川/TUP
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■サダムが仕掛けた反占領の方程式
by スコット・リッター
インターナショナル・ヘラルド・トリビューン
2004年7月22日
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【ワシントン発】
主権国家としてのイラクの将来は、イラク人の心をつかむ戦いにかかっている。
いまのところ、勝利はイラク社会の現実をもっともよく把握した陣営、つまり反
米レジスタンスのリーダーたちのものとなりそうだ。
先頃、米主導の暫定占領当局(CPA)によって据えられたイヤド・アラウィ
の政府は、ほぼ10年前に消滅したバース党ナショナリズムへの対抗を目的とし
ている。第一次湾岸戦争(91年)後のサダム・フセイン政権は、イラクの政治
的現実に合わせ、イスラム原理主義と部族主義とナショナリズムの混合物へと衣
替えした。サダムの入念な計画と予測のおかげで、その部下たちはいま、イスラ
ム諸派を含むイラクのレジスタンスを率いている。
1995年8月、サダムの娘婿にあたるフセイン・カマルがヨルダンに亡命し
た。アメリカの占領開始から14ヶ月たち、依然として大量破壊兵器が見つから
ない事態に、イラクの大量破壊兵器は91年の夏に廃棄したというカマルの証言
が、新たな信憑性を帯びてきた。一番重要なのは、カマルがみずから語った亡命
理由である。サダムの命令により、バース党上層部は全員、コーランの学習を義
務づけらることになったというのだ。サダムにとって、この思いきった戦略転換
は、湾岸戦争後の新しいイラクの現実のもとで生き残るために必須だった。
イラク中心のアラブ・ナショナリズムにもとづく伝統的なバース党思想は、そ
れに先立つ10年間のような力を持たなくなっていた。新たな権力基盤を築くに
は、91年に反乱を起こしたシーア派主流だけでなく、イラク西部のスンニ派諸
部族など、従来の同盟相手が傾倒するイスラム原理主義も懐(ふところ)に引き
込む必要があった。イスラム教を容認するサダムの方針転換をもっとも如実に表
わしたのは、イラク国旗に「神は偉大なり」という言葉を書き加えることだった。
しかし、イラク国内のこうした政治力学の変化に、西側はほとんど気づかなかっ
た。ブッシュ政権が見落としたのは間違いないだろう。そして、先日行なわれた
アラウィ政府への「政権移譲」は、この無理解を反映している。前CPAトップ
のポール・ブレマーが最初に出した指令のひとつは、サダム後のイラクの日常生
活で元バース党員が要職につけなくする「脱バース化」法の制定だった。この法
律は、サダムに忠誠を誓うバース党の残党こそ米主導の占領に対する最大の脅威
だという、イラク占領当局者たちの予断を浮き彫りにしていた。
ブッシュ政権上層部も、少々遅すぎたとはいえ、この過ちに気づく。2004
年4月、ブレマーは「脱バース化」指令を撤回した。現在、ペンタゴン(国防総
省)は、イスラム原理主義者とフセイン政権の元メンバーたちが「便宜上の結託」
をしたと論じ、アメリカの反抗勢力狩りで弱体化したバース党細胞を、イスラム
主義者が乗っ取っているとさえ推測する。しかし、ペンタゴンはあいかわらず誤
解している。アメリカのイラク政策はいまなお、現場にいる敵の現実を直視でき
ないか、さもなくば直視を避け続けているのだ。
イラクのレジスタンスは、「便宜上の結託」で生まれたものというより、長年
にわたる計画の産物である。知ってか知らずか、もう何年も前にイスラム原理主
義者を取り込んだサダムの元部下たちは、幅広いイスラム主義運動に吸収される
どころか、黒幕としてイラクを仕切っている。フセイン政権中枢の“お尋ね者”
カード55枚のうち、未拘束の顔ぶれを見れば、現在のイラク・レジスタンスの
指揮命令系統が想像できる。これもまた、バース党イデオロギーから距離を置く
という、10年近く前のサダムの決定が正しかったことを浮かび上がらせる。ア
メリカがバグダッドを押さえたあと、公式の降伏調印など一度もなかったのを忘
れてはいけない。サダム政権の各種治安部門は、けっして解体されたわけではな
い。必要な時と場所を選んで活動を再開すべく、イラク国民の中へ溶け込んだだ
けなのだ。
いわゆるイスラム抵抗勢力は、ほかでもない、元副大統領イザット・イブラヒ
ム・アルドゥーリに率いられている。彼は熱烈なナショナリストであり、スンニ
派アラブ人にして、イスラム神秘派スーフィ教団の実践メンバーでもある。その
右腕ラフィ・ティルファは、かつて総合治安理事会(DGS)のトップを務めた。
DGSはサダム政権下で、国中に協力者と情報提供者の網を張り巡らせ、イラク
社会を完全に把握していた。
国連の兵器査察官時代、私は実際にバグダッドのDGS本部と、ティクリート
のDGS支部を査察したことがある。部屋という部屋は、DGSのために動く人
びとの情報ファイルで埋め尽くされていた。イラク国内に、DGSが熟知してい
ない個人、家族、部族、イスラム主義運動など存在しない。こうした情報は、大
衆基盤のレジスタンス運動を遂行するうえで、かけがえのない資産となる。
私はまた、1997年から98年にかけて、私の査察妨害を担当した特別治安
機構(SSO)の元長官ハニ・アルティルファとも、何度となくやりあったこと
がある。現在、彼は当時とまったく同じ手下を使いながら、イラク・レジスタン
スの作戦調整に一役買っている。いっぽう、タヒール・ハブシュはイラク諜報局
(IIS)のトップだった。この組織は、新手の爆発装置を考案し、暗殺を実行
する技を磨き抜いていた。ハブシュは米主導の侵攻より何ヶ月も前、占領軍に見
つからないよう配下の工作員たちをイラクの一般国民に溶け込ませよとの命令を
受けた。
ファルージャとラマディにおける最近の反米攻勢は、よく訓練された兵士が結
束力のある部隊を組んでしかけたものだ。おそらく、サダムの共和国防衛隊から
引き抜かれた軍人たちだろう。彼らの洗練された戦闘ぶりは、共和国防衛隊の元
隊長サイフ・アルラウィがアメリカの侵攻前、まさにこのような目的のため、選
り抜きの部隊を密かに解散させていたことを知る者なら、驚くに値しない。
イヤド・アラウィ率いる新イラク政府への主権移譲という茶番は、今後数週間
から数ヶ月にわたり、悲劇的結果を見せながら展開していくだろう。国外追放さ
れた反サダム勢力からアメリカが一本釣りしたアラウィ政府は、国内の支持基盤
を欠いているばかりか、イラクの一般市民から見て正統性を持たない。実際、も
ともとイラク国内には、ブッシュ政権がサダムにすげ替えて政府を任せられるよ
うな、大衆基盤を持つまともな反対勢力など存在しなかった。アメリカが、外国
の諜報機関とつるんだ人物や、サダムの治安部隊出身者ばかりの反対勢力に頼ら
ざるをえなくなったのは、そのためなのだ。
アメリカがどれだけ多くの兵士をイラクに送り込もうと、彼らをどれだけ長く
駐留させようと、アラウィの政府はかならず破綻する。破綻すればするほど、ア
メリカに後ろ盾を頼らなければなるまい。アメリカがアラウィを支えれば支える
ほど、彼はイラク国民の信頼を失う。その結果、イラクのレジスタンス勢力のつ
け入る隙が、ますます増えるのである。
この悪夢は今後10年続き、さらに何千というアメリカ人の死と、何万という
イラク人の死をもたらすだろう。イラクには危険で有力な反米運動が生まれ、
米兵たちはいつの日か、イスラエルがレバノンから引き揚げたときと同じくらい
屈辱的に、イラクから一方的撤退を余儀なくされることだろう。
方程式は単純だ。米軍の撤収が早ければ早いほど、レジスタンス運動は弱まる。
そしてもちろん、逆もまた真なり。われわれが長居すればするほど、ブッシュの
選挙向けのイラク戦争が生んだこの副産物は、もっと深く根をおろす。
イラクにおけるアメリカの大失態に、体裁のいい答えはない。もはや問題は勝
利ではなく、いかにして敗北の傷を軽くするかである。
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■スコット・リッター:
1991年から98年までイラクで国連兵器査察官を務めた。近著に
"Frontier Justice: Weapons of Mass Destruction and the Bushwhacking of
America"、邦訳にW・R・ピットとの共著『イラク戦争』(合同出版)がある。
■翻訳:星川 淳/TUP(筆者よりTUP配信許諾済み)
【原文】
Saddam's People Are Winning the War
By Scott Ritter
International Herald Tribune
Thursday 22 July 2004
http://www.truthout.org/docs_04/printer_072504D.shtml
【この記事と同趣旨の長文バージョン】
Facing the Enemy on the Ground
By Scott Ritter, AlterNet. Posted July 9, 2004.
http://www.alternet.org/module/printversion/19190
【参考:来日時の講演ほか資料集】
スコット・リッター招聘実行委員会
http://www.ribbon-project.jp/ritter.html
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