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6月29日最高裁に上告理由書提出[テロ特措法・自衛隊海外派兵は違憲市民訴訟の会]
http://www.asyura2.com/0406/war57/msg/1032.html
投稿者 なるほど 日時 2004 年 7 月 24 日 22:32:16:dfhdU2/i2Qkk2
 

平成16年(行サ)第88号 損害賠償等請求上告事件
上 告 人  尾形 憲 外81名
被上告人  国 外1名

上 告 理 由 書
平成16年6月28 日
最高裁判所 御中
上告人ら訴訟代理人 弁護士  須賀 貴 訴訟復代理人  弁護士  古川 健三上告人ら訴訟代理人 弁護士  一瀬 敬一郎
同   弁護士  内田 雅敏 同   弁護士  大久保 賢一 同   弁護士  鍛冶 伸明同   弁護士  設楽 あづさ
 
T 上告理由第1点(審理不尽ないしは理由不備)
本件においては、テロ特措法に基づく自衛隊の協力支援活動が、憲法第9条の禁止する「武力の行使」に該当するか否か、審理し判断すべきであったにもかかわらず、審理を尽くさず、証拠調べを行わなかった原判決には、審理不尽ないしは理由不備の違法があるので、原判決は直ちに破棄されなければならない。

第1.  本件訴訟の性格及び目的と憲法判断の必要性
1  本件訴訟で上告人らが求めていることは、テロ対策特別措置法に基づく「協力支援活動」として行われているアフガニスタンで軍事作戦を展開している米軍等に対する自衛隊による給油活動や物資の運搬が、憲法9条1項にいう「武力の行使」に該当するか否かの司法判断である。
 米軍等が軍事作戦を展開していること及び自衛隊による給油活動等が行われていることについては当事者間に争いがない。
 これらの活動についての憲法上の評価が問題なのである。仮に、これらの「協力支援活動」が「武力の行使」にあたるということになれば、政府は憲法9条1項が禁止する行為を行っていることになる。「政府の行為によって、再び戦争の惨禍が起きること」(憲法前文)になるのである。
 現実に、アフガニスタンにおいて、多くの民衆が、米軍等の武力攻撃によって犠牲となっている。戦争の惨禍が既に生じているのである。もし、司法が、この自衛隊の活動が「武力の行使」にあたるか否かの判断を回避することになれば、政府は、司法の抑制がないままに自衛隊を展開することが可能となる。自衛隊の活動が、司法のコントロールの枠外に放置されることになるのである。そのような事態は、憲法秩序の下で到底許されることではない。
ところが、原審及び原々審は、その判断を回避してしまったのである。

2 本件提訴後の自衛隊の海外派兵の進行と憲法判断の必要性
 米英の戦争は、アフガニスタンにとどまらず、2003年3月からはイラクに対する戦争、占領統治に発展した。テロ特措法に基づく海上自衛隊の給油活動はイラク侵略戦争においても行われている。イラク戦争に対する米英軍への自衛隊の給油活動はテロ特措法の立法範囲にも違反する新たな事態であり、憲法9条を踏みにじる海外派兵の危険性を如実に示している。
 さらには、イラク特措法による米英軍のイラク侵略戦争、占領統治への陸上自衛隊の派兵、航空自衛隊の米軍物資輸送と、戦時下への自衛隊の派兵が行われ、憲法の基本原理の破壊が行われている。
 さらには、国会において、2003年6月の武力事態法、2004年6月14日の「国民保護法案」など有事法制関連7法案・3条約承認案件が可決成立するなど、憲法違反の法案がまかり通っている。
 また、小泉首相は自衛隊のイラク多国籍軍への参加を表明した。
 国会は、憲法9条等に違反する法律を制定し、政府はその違憲の法律を執行している。国民が裁判所に対し、国政における政治部門の行為の憲法適合性の判断を求めた場合、裁判所はその審理を回避すべきではない。

第2.  給油活動は「武力の行使」である
 上告人らは、第一審及び控訴審において、テロ対策特別措置法の違憲性を一般的に問うだけではなく、同法に基づく「基本計画」や「対応措置」、とりわけ「協力支援活動」として行われている、アフガニスタンで武力行使に従事する外国艦船への自衛艦による給油活動の違憲性を問題にしていた。(インド洋等に自衛隊の艦船が派遣され、米軍などの艦船に対する燃料補給や補給艦の護衛などが実施されていることは、そもそも争いのない事実である。)
それは、この給油活動は違憲の公権力の行使であり、それによって上告人らは、間接的にではあれ、アフガニスタンの民衆の殺傷に加担させられており、またこの加担を拒む術もないので、「自らが殺されることも、自らが他人を殺すことも拒否する」という、上告人らの思想・良心の自由を侵害されている、という国家賠償法1条の要件との関係での主張であった。
上告人らは、この給油活動について、概略次のように主張した。
戦闘行動に従事する軍艦への燃料の給油は、典型的な兵站活動であり、「武力の行使」に該当するか、少なくも「武力の行使」と一体とみなされるものである。
日本国憲法9条は、国際紛争を解決するために、武力による威嚇と「武力の行使」を禁止しているところであり、政府解釈によっても、集団的自衛権の行使は禁止されている。
アメリカは、アフガニスタンでの武力行使は、個別的自衛権の行使であるとしており(ちなみに、イギリスは、集団的自衛権の行使としている)、我が国が、アメリカと共同して武力行使を行えば、これが集団的自衛権の行使にあたることは明らかであり、憲法の許容せざるところとなる。
上告人らは、このように主張して、この給油活動が憲法9条にいう「武力の行使」に該当するかどうかについて、裁判所の判断を求めたのである。
然るに、原審は、この点についての被上告人らに認否を求めることすらせず、この点に関する判断を回避したのである。原審は、テロ対策特別措置法の制定行為、基本計画と実施要領の策定、自衛隊の協力支援活動の実施とそのための防衛庁予備費からの支出について触れてはいるが、この給油活動が「武力の行使」に該当するかどうかなどの問題意識は全くもたなかったのである。
自衛隊が海外に派遣された実例はこれまでにもあったが、現実に戦闘行動に従事している外国軍隊に給油という形で「協力支援活動」を行うことはなかった。その意味では、テロ対策特別措置法に基づく自衛隊の給油活動は、自衛隊の海外での活動に大きな質的転換をもたらすものであった。戦後憲法史の上で画期をなす事態なのである。従って、この給油という「協力支援活動」が、憲法9条にいう「武力の行使」に該当するかどうかは、本件の最も重要な論点なのである。この点について全く判断をしようとしなかった原審の姿勢は、国政が、憲法秩序の枠内にあるかどうかを審査すべき司法の役割を没却したものと断ぜざるを得ない。
ゆえに、「協力支援活動」が憲法9条にいう「武力の行使」に該当するか否かを判断せず、この点についての証拠調べすら拒否した原審は、明らかに審理を尽くしておらず、またこの点についての判断をしない原判決には理由不備の違法があり、破棄を逃れない。

U 上告理由第2点(憲法違反)
第1.  本件テロ対策特措法の制定が日本国憲法に違反し無効であることを確認する請求は不適法であるという原判決の誤り

 1 原判決の判示とその誤り
 原判決は、上告人らが請求の趣旨第1項で、「テロ特措法が日本国憲法に違反し無効であることを確認する」ことを求めたことに対し、「本件確認請求に係る訴えは,具体的事件を離れて,抽象的に法律の違憲,無効の確認を求めるものであり,裁判所法3条1項にいう法律上の争訟には当たらず,そのような訴えの提起を認める法律の定めもない以上,不適法なものといわざるを得ない。」(原判決10頁)と判示する。
しかし、日本国憲法81条は、全ての憲法規定に対する違憲審査権を最高裁判所に付与しており、具体的・付随的審査権と並んで一定の抽象的・独立的審査権も含まれている。本件のような違憲性が明白な確認請求については、裁判所は憲法判断をなすべきであり、上記判断が可能であるにもかかわらず、意図的に憲法判断を回避したことは、憲法81条で定めた違憲審査権を放棄し、憲法99条に定める裁判官の憲法尊重・擁護の義務に違反したものである。

2 日本国憲法81条等における違憲審査権
 すなわち、日本国憲法81条は、「最高裁判所は、一切の法律、命令、規則及び処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。」と規定して、憲法76条の規定と併せて、最高裁判所に司法裁判所と憲法裁判所の両方の性格を認めている。そのため、特定個人の具体的で主観的な権利利益の保護という私権保障機能と同時に、憲法秩序自体を保障する機能という違憲審査権の2つの機能を発揮できるような付随的審査と抽象的審査が複合した制度を想定している。
 したがって、具体的な法益侵害のない段階での抽象的違憲審査を排除するものではない。また、憲法76条の司法権の及ぶ範囲は、事件・争訟に限定されていない。憲法保障機能を含む違憲審査権と裁判所が有する伝統的な司法機能との調整、そして、三権分立の原理、国民主権原理、民主制の原理等と法の支配の原理に基づく違憲審査権との調整を図りながら決められるべきである。そのため、抽象的審査に関する詳細な手続きのないことが抽象的違憲審査の権限のないことを意味しない。
 原判決は、最高裁昭和27年10月8日判決(警察予備隊違憲訴訟)及び最高裁28年4月15日判決(吉田内閣抜き打ち解散違憲訴訟)を引用して、「裁判所は,法律が特に定める場合は別として,具体的事件を離れて抽象的に法律,行政処分又は政府の行った行為の違憲,違法を判断する権限を有しないものと解される」と判示する。
しかし、原判決が引用する両判決は、警察予備隊の設置の無効や内閣の国会解散について、直接最高裁判所に提訴した事例であり、事案が異なっているといわねばならない。
 むしろ日本国憲法は、憲法81条以外に、@憲法98条1項が憲法の最高法規性を規定することにより法の支配の原理を明示し、A憲法41条が規定する国会の立法権限も憲法の制限に服し、かつ裁判所の憲法判断が最終的なものであるため、国会の国権における最高機関性も違憲審査権に服すること、B憲法79条2項の最高裁判所裁判官の国民審査制により、最高裁判所の民主的正当性を高める手段を規定していること、C憲法制定過程で人権規定に関する最高裁判所の憲法判断以外は国会の再審査に服する規定が削除され、最高裁判所のすべての憲法判断が最終的であることが確定したことなどから、憲法81条の最高裁判所の違憲審査権を中心とする憲法保障体制を採用していると解することができる。

3 本件訴訟は付随的違憲審査の対象として無効確認の利益を有する
  (1) 原判決は、上告人らが平和的生存権や納税者基本権を侵害されたことを根拠に違憲無効確認請求をしている点について、「 控訴人尾形ほか3名が,その主張するとおり,『平和のために活動してきた者』であるとしても,それによって被控訴人国との間において具体的かつ個別の権利義務関係又は法律関係を有しているとも,法律上の争訟が生じているともいうことはできず,上記の結論を左右するものではない。」と判示する。
 (2) しかし、上告人ら4名はいずれも市民運動等を通じて、「平和のために活動してきた者」であり、自己の支払った租税によって維持されている自衛隊が戦争状態にある海外に派兵されるなどして、自己が戦争に加担させられ、極度の平和的生存権を侵害されている場合、裁判所に対し違憲確認を求める利益を有する。
このような原告らの平和的生存権及び納税者基本権は、憲法が保障した実定法的権利であり、裁判規範性を有する権利である。
 平和的生存権及び納税者基本権の具体的内容、効果として、国が憲法の禁止規定に違背して平和的生存権及び納税者基本権を侵害したような場合には、上記行為の違憲ないし違法の確認請求権が発生する。
また上告人らは、本件違憲無効確認を求める訴えを行政事件訴訟法3条4項、36条所定の無効等確認訴訟として提起する趣旨であるから、同訴えは、抗告訴訟に該当し、法律上の争訟性を具備している。
即ち、本法は、国民の平和的生存権、日本国民たる名誉及び良心に対する権利並びに憲法秩序を保障される法律上の利益ないし権利を侵害するものであるところ、およそ国民であれば誰もが上記権利を侵害されるのであるから、本件違憲無効確認の訴えを提起する法律上の利益を有するというべきであり、上記訴えは裁判所法3条1項にいう法律上の争訟に該当する。
また、本件において確認判決を求めることは、被告による憲法9条、本法の恣意的な解釈の違憲性、違法性を法令解釈の最終的有権的判断権者であるべき司法裁判所が明確に判断することを求めるものであり、今後、起こり得る更なる憲法の潜脱解釈の歯止めをかけるもので、原告の基本権の救済に有効、適切である。
 そもそも、判決主文で法令の文面上違憲ないし法令違憲の確認をするということは、憲法上も法律上も何ら禁止されているものではない。
(3) したがって、本件訴訟は付随的違憲審査の対象として無効確認の利益を有するというべきである。

 4 抽象的違憲審査権は是認されており、本件訴訟は適法である
(1) 憲法の制定過程における抽象的違憲審査
裁判所が抽象的違憲審査権を有することは、憲法の制定過程において、典型的な私権保障型の具体的・付随的違憲審査以外の形態の違憲審査権行使が否定ないし排除されてこなかったことからも明らかである。以下で、憲法の制定過程を検証する。
a 日本政府の憲法改正草案
 昭和21年2月13日、マッカーサー草案が日本政府に交付された。
 日本政府では、審議の結果、「日本国憲法(3月5日案)」がまとめられた。その77条は、審議を経て、「最高裁判所ハ最終裁判所ニシテ一切ノ法律、命令、規則又ハ処分ノ憲法ニ適合スルヤ否ヲ決定スルノ権限ヲ有ス」と規定する。
3月5日案からは人権以外の憲法問題に対する最高裁判所の判断を国会が再審査する規定が削除され、憲法の最終的な解釈権が最高裁判所にあることが明らかになった。
 このことは、憲法改正草案は、人権規定はもとより統治規定に関する憲法問題も、原則として、裁判所によって審査されうることを前提とし、かつ、すべての憲法問題の最終的解釈権すなわち憲法保障の最終的な責務を、原則として、最高裁判所に課し、裁判所の違憲審査権を中心とする憲法保障制度を採用したことを意味する。
b 枢密院における審議
 帝国憲法改正案は、昭和21年4月17日に枢密院に諮詢された。枢密院では、潮恵之輔顧問官を委員長とする帝国憲法改正案審査委員会を設置し、諮詢案を審議した。
まず、違憲審査権の性格に関し、松本国務大臣は、具体的な事件の解決に関連して違憲審査が行われるという見解を示している。しかし、松本国務大臣は、その問題は立法の際考えるとも答弁している。
この点、入江法制局長官は、「考慮中ではあるが、やはり具体的なケースが出た場合であると考えている。しかし、抽象的に法令の有効無効をきめるようにすることも不可能ではないと思う」という注目すべき見解を示している。
c 第90回帝国議会における審議
 帝国憲法改正案は、昭和21年6月20日、衆議院に提出され、改正案は8月24日、衆議院本会議で修正のうえ可決された。衆議院を通過した改正案は、同日貴族院に送付され、10月6日、貴族院本会議で修正可決された。
貴族院で修正可決された改正案は、その日のうちに衆議院に回付され、翌10月7日、衆議院本会議は、それを可決した。
一連の審議の中で、最高裁判所の違憲審査権と国会との関係に関する政府側の見解とし.て、以下の点を確認することができる。
@ 政府は、国会が国権の最高機関であることから、具体的な法的効果を導き出すことをしていない。そして、国会が常に最高機関であるのではなく、法律の合憲性を判断する場合には、最高裁判所が最高機関として機能することは憲法自身が明示的に認めている、という立場をとる。
A 国会の国権における最高機関性を侵害することなく行使できる違憲審査権の具体的な形態としては、付随的な審査で、かつ、違憲判決の効力として違憲の法律を廃止する効力をもたないものがあげられている。これに対し、法律それ自体の合憲性を一般的・抽象的に審査すること、最高裁判所が、具体的事件が提起されていないにもかかわらず、自ら法令等の合憲性を審査すること等は、国会の権限を侵害し、三権分立の原理に反すると考えられていた。ここでは、最高裁判所が行使できる違憲審査権の形態を具体的に決定するためには、憲法41条と81条とを調整しながら、解釈すべきことが示唆されている。
B 新憲法が採用する三権分立の原理は、三権が独立し、互いに不可侵の権限を認めるものではなく、三権の間の「チェック・アンド・バランス」を前提としたものである。
d まとめ
上記の憲法制定過程から、具体的な訴訟事件の提起に伴って違憲審査権が行使されることを原則に考えていたが、一般的・抽象的な違憲審査も憲法上可能であるという柔軟な考えに立っていた。
また、とくに指摘しておきたいのは、日本政府3月5日案からは人権以外の憲法問題に対する最高裁判所の判断を国会が再審査する規定が削除され、憲法の最終的な解釈権が最高裁判所にあることが明らかになったことである。このことは、憲法改正草案は、人権規定はもとより統治規定に関する憲法問題も、原則として、裁判所によって審査されうることを前提とし、かつ、すべての憲法問題の最終的解釈権すなわち憲法保障の最終的な責務を、原則として、最高裁判所に課し、裁判所の違憲審査権を中心とする憲法保障制度を採用したことを意味する。
すなわち、憲法9条などの統治規定に関する違憲審査を、人権規定と同様に扱うことにしたことである。これは、統治規定に関する違憲審査が一般的・抽象的な違憲審査になることから、抽象的違憲審査を是認していたと言える。
(2)アメリカ及び日本の違憲審査の実情
 最近では、日本国憲法の原型となったアメリカにおける違憲審査のモデルが修正され、憲法保障型の抽象的・独立的違憲審査に準ずるほど変化している。日本の裁判所においても、後述するとおり靖国神社参拝福岡地裁判決における違憲審査権の行使のように、具体的事件の解決に必要とされていない場合においても憲法判断をしており、裁判所が実際に行使している違憲審査権の内容は狭い意味での「司法権」に付随する審査権に限定されているわけではない。
日本において、一定の形態の抽象的違憲審査も憲法の枠内で許されるという認識が最近の学説でも展開されている。例えば、園部逸夫元最高裁判事も「抽象的規範統制は、現行憲法の下でも解釈上全く不可能な制度ではない」(園部逸夫『最高裁判所10年』有斐閣、203頁)と述べている。
(3) 本件違憲確認は認められるべきである 
 テロ特措法による自衛隊のアフガニスタン、イラクへの侵略戦争参加は、憲法9条に違反することは明白であり、上告人らの平和的生存権及び納税者基本権を極度に侵害するものである。
平和という日本国憲法が至高とする価値に相応しい人権のあり方及びこの価値の実現に奉仕すべき裁判所の権能のあり方を考慮すれば、国の平和遵守義務違反行為については、国民は、裁判所に対して違憲ないし違法の確認を求めて適法な訴えを提起することが可能である。
 したがって、本件訴訟は抽象的違憲審査の対象として無効確認の利益を有するというべきであり、本件違憲確認は認められなければならない。

第2. テロ特措法に基づく自衛隊の協力支援活動等の違法性の有無について憲法
判断をしなかった原判決の誤り

 1 原判決の誤り
 原判決は、テロ特措法に基づく自衛隊の協力支援活動等に関して「その各行為の違法性の有無についてはしばらく措いて、進んで、控訴人らの主張する被侵害利益について、以下、順次検討する。」(原判決17頁)とした上で、本件損害賠償請求が被侵害利益を欠き、その余の点につき判断するまでもなく、理由がないと判示して、憲法判断が必要となる本件不法行為について違法性判断を回避したのである。
 しかし、損害賠償請求事件であるから、まず、上告人らが訴えている本件不法行為について違法性の有無の判断すなわち憲法判断をすべきであり、その後に、被侵害利益について判断すべきであるにもかかわらず、違憲性が明白であるにもかかわらず意図的に憲法判断を回避したことは、憲法81条で定める違憲審査権を放棄し、「裁判を受ける権利」を保障した憲法32条に違反する。

 2 本件不法行為の違憲性の明白さ
 テロ特措法によるインド洋、アラビア海、ペルシャ湾への自衛隊艦船等の派兵は、アフガニスタン及びイラクへの侵略戦争参加であり、憲法9条に違反しており、その違憲性は明白である。
  (1) 戦時下への自衛隊の派兵
ア 自衛隊等が行う「対応措置」は、外国軍隊への支援活動であり集団的
自衛権行使にあたる。
テロ対策特別措置法は、第1条で、「アメリカ等の軍隊等(「諸外国の軍隊等」)の活動に対して我が国が実施する措置等」を行うと規定して、自衛隊が米軍を始めとした「外国の軍隊等」を支援することとしており、憲法違反の集団的自衛権行使を絵に描いたようになっている。対アメリカの関係でも、またイギリス、トルコ、イタリアなどの各国軍隊に対して兵站補給をすることも、集団的自衛権の行使として憲法上許されないことは明白である。
 また、1997年の日米ガイドラインでは、「日米共同調整所」の常設指揮所を持たせた。テロ対策特別措置法では、共同指揮所は設置されず、現場に委ねているため、自衛隊の派遣部隊は、米軍の指揮下で補給、輸送等の協力支援活動を行っている。これは、憲法が禁止した集団的自衛権にあたる。
イ 地域的制約をはずした自衛隊の海外派兵
テロ対策特別措置法は、第2条で、自衛隊の活動地域を我が国にとどまらず、現に戦闘行為が行われておらず、かつ、そこで実施される活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められる公海及びその上空、外国の領域(当該外国の同意がある場合に限る。)まで広げている。周辺事態法をはるかに超えて、派兵地域を地域的に無限定にしたのである。しかも、戦闘地域とそうでない地域は、ますます区別はきわめて困難になるため、米軍が戦闘地域に指定していてもいなくても、要求された所に補給物資を持って行く、アメリカを中心とする多国籍軍隊の作戦行動を支えていくという、恐るべき法体系になっている。
在日米軍の活動範囲は、極東(日米安保条約)に限定され、従来の自衛隊の活動範囲は、1999年の周辺事態法でも、「我が国周辺の公海及びその上空」と「我が国周辺」という枠がついていた。
今回の「テロ対策特別措置法」では、こうした限定がなく、地球上のどこへでも自衛隊の派兵が可能である。したがって、この法律に基づく自衛隊の活動は、日米安保条約の枠内では説明がつかない。また、自衛隊の主任務を「我が国の平和と独立を守り・・・我が国を防衛すること」においている自衛隊法3条の枠をも超えるものである。周辺事態法における「わが国周辺」という制約を取り払い、米軍支援のため、インド洋、中東地域まで自衛隊を派遣することは、個別的自衛権の枠内ではありえない。明らかに集団的自衛権の発動に踏み込んだものである。
実際に行われている自衛隊の協力支援活動は、米軍が定めた「コンバット・ゾーン」(戦闘地域)の中に入って実施されている。そもそも、米軍の「コンバット・ゾーン」は、「作戦の実施のために戦闘部隊から要求される地域」と定義され、北緯10度線の北、東経68度の西アラビア海などが指定されている。派遣された海上自衛隊艦隊のうち補給艦はコンバット・ゾーン内のアラビア海でアフガン空爆を実施する米空母機動部隊の艦船に洋上給油し、飲料水や各種戦闘資材を補給し、護衛艦は洋上補給活動の護衛任務を遂行する。このように海上自衛隊艦船が行っているのは、まぎれもない戦闘行為と一体化した兵站補給活動であり、違憲の集団的自衛権行使以外の何物でもない。
小泉内閣と防衛庁は、こうした重大な違憲行為を覆い隠すために、国会審議で様々な詭弁を用いた。1つは、米軍がアフガニスタン攻撃に使用している巡航ミサイル・トマホークの発射が「戦闘行為」に当たるかどうかについて、2002年10月24日、参議院での政府と日本共産党議員の論争において、中谷防衛庁長官は「戦闘行為ではない」と言い張り、津野内閣法制局長官もそれを追認し、必ずしも戦闘行為とは言えないと言明した。あまりにひどい見解のため、後にその誤りは修正された。
もう1つの詭弁は、米軍コンバット・ゾーン内でアフガン爆撃を遂行する米空母艦隊へ給油や補給・輸送支援を行っても、米軍の「コンバット・ゾーン」の定義と自衛隊の「戦闘地域」は定義が違うから、自衛隊が「戦闘地域」と認めていない地域なら構わない、という詭弁である。小泉首相は同年10月24日の参院外交防衛・国土交通・内閣委員会の連合審査会で、テロ対策特別措置法案に基づく自衛隊の活動範囲について、「アメリカでは物資補給を受けるところも『コンバット・ゾーン』に入るが、日本でいう『戦場』とは違う。戦闘が継続的に行われないと判断すれば、そこで協力できる」と答弁した。こうして自衛隊と米軍との一体化が進み、自衛隊は、「事実上の補給部隊」となった。
ウ 自衛隊の活動は、憲法が禁止する「武力の行使」に当たる
テロ対策特別措置法は、第3条及び別表で「我が国が実施する活動」として「協力支援活動」「捜索救助活動」「被災民救援活動」を規定する。
「協力支援活動」は、@「諸外国の軍隊等に対する物品・役務の提供、便宜の供与その他の支援のための措置」、A「自衛隊を含む関係行政機関が実施する」、B「自衛隊が行う物品・役務の提供の種類は、補給、輸送、修理・整備、医療、通信、空港・港湾業務、基地業務。(ただし、武器・弾薬の補給及び戦闘作戦行動のために発進準備中の航空機に対する給油・整備は行わない。)」の3つを規定し、自衛隊が、米軍などの外国軍隊に対し、補給、輸送、修理・整備、医療、通信、空港・港湾業務、基地業務を行うとする。「人員の輸送」には、米軍兵士の輸送が含まれ、「物品の輸送」には、武器(弾薬を含む)の輸送が含まれている。「物品の輸送には、外国の領域における武器(弾薬を含む)の陸上輸送を含まないものとする」と断り書きがなされている(第3条別表第一備考3)が、それ以外の、公海及び外国の領海、外国の領域での空輸は行うことができることになる。「捜索救助活動」は、戦闘行為によって遭難した戦闘参加者についてその捜索又は援助をおこなう活動(救助した者の輸送を含む)である。「被災民救援活動」は、この項目のみ、国連決議又は国連の要請を条件としている。PKO法案では、当事国の「停戦の合意」が前提とされていたのが、今回は、停戦合意がなく、実際に戦争が行われている地域にも派遣されるようになった。
第2条「基本原則」で、「対応措置の実施は、武力による威嚇又は「武力の行使」に当たるものであってはならない。」と規定し、一見して憲法9条に違反しないような形式をとりながら、実際には、これらの「協力支援活動」や「捜索救助活動」は、米軍などの武力攻撃と一体となった、戦争遂行上、必要不可欠な兵站活動の一環である。戦闘部隊と兵站部隊は密接不可分な関係にあり、これを切り離して、戦闘部隊の活動は「武力の行使」であるが、兵站部隊の活動は「武力の行使」ではないというのは、まったく通用しない議論である。
実際に、インド洋北部のアラビア海に戦時派遣された海上自衛隊の補給艦は、アフガン空爆作戦に参加し、巡航ミサイル・トマホークを発射する米イージス型巡洋艦や駆逐艦等の戦闘艦船に直接給油している。 また、海上自衛隊の補給艦は、米補給艦に給油し、米給油艦は、その燃料をアフガン空爆に参加している米空母に補給している。アメリカ国防総省ホームページは、「2002年5月11日、米補給艦『シアトル』は海上にて日本の補給艦『ときわ』より燃料を受け取った。『シアトル』が『ときわ』から受け取った燃料は、後で『不朽の自由』作戦に他の統合軍とともに参加している空母『J.F.ケネディ』に移される」と公表している。これは、直接の戦闘艦への給油と同じである。
  (2) イージス艦の派遣は、集団的自衛権に該当し憲法9条に違反する
ア イージス艦は作戦指揮統制機能を備え、集団的自衛権の行使にあたる
@ 日本政府は、2002年12月6日、これまで政府自身も集団的自衛権に抵触し、憲法9条に違反するおそれがあるとして派遣を見送ってきた超高性能艦船のイージス艦をテロ対策特別措置法に基づいてインド洋に派遣した。すなわち12月16日、イージス艦「きりしま」(排水量7250トン)が横須賀港を出港し、インド洋で護衛官「ひえい」と交代した。
A しかし、海上自衛隊のイージス艦「きりしま」派遣の狙いは、決してテロ対策特別措置法で派遣される海上自衛隊艦船の旗艦として護衛任務に就くというものではない。イージス艦の軍事的機能からも長年日米の両海軍が行ってきた作戦演習の実績からも、イージス艦の派遣の狙いが端的にイラク戦争時の米軍との共同体制の構築にあることはあまりにも明白なことなのである。
イージス艦は、高いレーダーで収集した全ての情報を米軍と共有する「データリンク」の機能を持っている。文字通り、自衛隊最大級で、しかも作戦指揮統制機能を備えた護衛艦に他ならない。このように、イージス艦はすでに派遣してきた艦船と比べてけた違いに高い軍事的能力と強力な指揮・統制能力を保持している。
B 海上自衛隊のイージス艦は、一方でペルシャ湾の入り口付近で航行する艦船への臨船検査を行っているドイツやフランスなどの軍艦への統括機能を果たすと同時に、他方で、ペルシャ湾内で米軍のイージス艦とも共同で作戦指揮に当たっている。
このようにイージス艦派遣は、日米のイージス艦相互の作戦場面での軍事的協力こそが最大の使命となっていることは火を見るより明らかであり、政府が従来憲法9条で禁じられていると解釈してきた「集団的自衛権」の行使に該当する。よってイージス艦の派遣は憲法9条に違反する。
イ イージス艦の派遣は、アメリカのイラク戦争への加担であり、憲法9条違反
@ イージス艦の派遣は、アメリカのイラクに対する戦争にまで日本が実質的に軍事加担することを意味する点で、テロ対策特別措置法に基づく日本政府の行為が憲法第9条に違反する程度は著しく高まったと言わなければならない。周知のとおり、アメリカ軍はアフガニスタンに対する戦争で同国のタリバン政権を倒して以降、イラクのフセイン政権を倒すために新たにイラク戦争を計画し実行した。 このためインド洋の米英軍などの艦船の軍事活動は、昨年後半からはイラク国内の飛行禁止地域への爆撃や対イラク開戦準備のための軍事行動に重心を移してきたのが実際であった。このような米英軍の作戦行動との関係で、テロ対策特別措置法に基づく自衛隊の対米支援活動の内容が、遅くとも昨年末以降は事実上アメリカ軍の対イラク軍事活動に協力するものに転換してきていた。
A 米軍のアフガニスタンでの対テロ作戦はほとんど無くなっており、「昨秋、対テロ活動の中心が地上でのテロリスト掃討から海上での逃亡阻止に移り、自衛隊の洋上補給が作戦全体に占める貢献度は高まっている。」(2003年3月9日付毎日新聞)と報道されている。ところで、米英軍の作戦が海上での逃亡阻止に移ったといっても、アフガニスタンは海に接していないので、9.11事件に関与したとされるアルカイダ掃討にどこまで関係する作戦かすら判然としなくなっている。 海上自衛隊のイージス艦の活動海域は、アラビア半島南東部のオーマン湾とその周辺で、対イラク開戦後も日本は同艦での警戒監視と補給艦による米英艦船への輸送・給油活動であるが、そのオーマン湾は、米英軍の対イラク攻撃時の洋上拠点となるペルシャ湾に隣接した海域である。同湾には米軍のイージス艦も展開するが、海上自衛隊のイージス艦のレーダー範囲は当然ペルシャ湾にも及ぶ。
現在の海上自衛隊の洋上補給及びイージス艦の指揮・統制は、すでに、アフガニスタン戦争からイラク戦争に向けられたものといわざるをえない。米軍と海上自衛隊のイージス艦は、標的の情報を同時に共有できる「データリンク」を搭載しており、海上自衛隊のイージス艦がとらえたイラク軍機に関する情報を受けて米軍がイラクへの様々な攻撃を実行したのである。
B しかも、自衛隊の対米支援活動がすでに対イラク戦争に加担したという実態は現在でも日本国民には隠されたままである。日本は、戦前の軍部独走と全く同様に、自国の軍隊の活動の真実を国民に隠蔽したまま、再び日本の国民を戦争にひきずり込もうとしているのである。しかし、他方では、世界の諸国でアメリカが行ったイラク戦争に反対する大規模な反戦運動が巻き起こっている。アメリカのブッシュ政府と軍部は、世界中のイラク戦争反対の声を踏みにじってイラク戦争を行ったのである。
ウ 実施期間の延長によるイージス艦派遣はテロ対策特別措置法の範囲を超えた武力行使
@ 政府は、2003年10月10日、すでにアフガニスタンにおいてタリバン政権が崩壊して新たにカルザイ政権が発足した状況にあるにも拘わらず、2年間の時限立法であるテロ対策特別措置法を延長する法案が国会で成立した。同年11月、海上自衛隊の米英軍への燃料補給などの任務の実施期間をさらに延長することを閣議決定した。3年目に突入したのである。
 国民の戦争への不安や憲法上の重大な疑念を無視して強行された海上自衛隊のイージス艦派遣が、当初の政府の説明や、また国民の予想も超えて、長期の戦時派兵に突入したということであり、実に重大事態と言わなければならない。
A しかも、テロ対策特別措置法が予定したアフガニスタン・アルカイダへの米英軍の軍事行動がほとんどなくなった後、自衛隊は、イラクのフセイン政権を転覆し、占領活動のために軸足を移した米英軍艦船への給油活動を続行している。
B もともとテロ対策特別措置法は、PKO協力法などと異なり、米軍など他国の軍隊が現に実行中の戦闘行為に協力するものである。戦争行為はもともと口実さえあればどんどん際限なく拡大していく性質をもっている。テロ対策特別措置法は、自衛隊の歯止めのない海外派兵に道を開くものであった。しかし、政府がテロ対策特別措置法の実施期間の再延長を口実にして、アフガニスタンだけではなく、アメリカ・ブッシュ政権が行ったイラク戦争に日本が参戦した事態は、9.11テロ対策という目的に反しテロ対策特別措置法にも違反していることが明らかである。
C ここにテロ対策特別措置法を根拠とする自衛隊の海外派兵が、海上自衛隊のイージス艦派遣をもって9.11事件への軍事行動としての派遣という当初の性格から、今度は9.11事件と関連が認められない別の戦争つまりイラクに対する米英軍等の戦争への軍事協力にまで拡大した運用が行われているのである。
 まさに自衛隊の海外派兵が、テロ対策特別措置法の適用範囲を明らかに逸脱して、法的根拠を持たないまま実行されるという新たな事態に突入した。
  (3) 自衛隊はテロ対策特別措置法に基づく本件給油活動によりイラク戦争にも加担し、憲法9条とテロ対策特別措置法に違反している。
米英政府がイラク攻撃の根拠とした「大量破壊兵器」は未だに発見されず、ブッシュ、ブレア両政権は開戦世論を煽るため、情報操作を行ったとの疑惑が浮上し、議会・マスコミ等で大問題になり追求されているとの報道が連日流されている。 9.11事件直後アメリカ政府内部でのネオコンと言われるウォルフォウィッツ国防副長官らから、フセイン・イラク攻撃を唱える声があがったが、テロ組織との関連が証明されず見送られ大義探しが始まった。 米政府の狙いはアフガニスタン侵略戦争と同様に石油の利権である。2003年国連安保理公開討論会議で、大量破壊兵器の査察を求める仏独案の支持が大半で、参加62カ国・機構のうち米英案の支持は日本とオーストラリアなど10ヵ国のみであった。2003年3月15日には世界各地で空前のイラク反戦デモが行われ、78ヵ国、600都市、1500万人が参加したと報道されている。これに呼応して日本各地でも数万人規模で集会・デモが行われた。このような世界世論、国連安保理、国際法を無視し、ブッシュは同年3月17日に最後通告し、20日に米英軍はイラクに対する侵攻を開始した。米英軍はここでも、クラスター爆弾や劣化ウラン弾など残虐な非人道的破壊兵器を使い、イラクの民衆の命を奪ったのである。(AP通信イラク戦争での民間死者数は3240人、国際グループ『イラク・ボディ・カウント』では03年6月14日現在最小で5534人、最大で7207人)。4月9日バグダッドは陥落、5月1日ブッシュは戦闘終結宣言を出したが、現在もなお各地で戦闘行為は続いている。
  (4) 自衛隊が給油した米英軍は、アフガニスタン・イラクに対する戦争で
「新型核兵器・劣化ウラン弾」を使用している
劣化ウラン戦争の問題は、特に幼い子ども、胎児、あるいは未来に誕生するであろう子ども達へ健康への影響は大きく子どもの権利条約に反すると共に、ジュネーブ条約第一追加議定書の「いかなる武力紛争においても、紛争当事国が戦闘の方法及び手段を選ぶ権利は無制限ではない」(35条1項)、「過度の障害・無用の苦痛を与える兵器の使用、自然環境に対し広範・長期的・深刻な損害を与えることが予想される戦闘方法の禁止」(35条2項)「文民への攻撃・無差別攻撃の禁止」(51条)、「文民の生存に不可欠な食料・飲料水・農作物などや危険な威力を原子力発電所などの工作物への攻撃の禁止」(54条・56条)など国際法に違反するのは明らかである。
最初の被爆国である日本はこの劣化ウランについても、この事実に目をつぶり、アメリカに追随し加担するのではなく、核の恐ろしさを世界に伝え、廃絶に向けて積極的に働きかけをしなければならない立場にあるが、政府は8月29日の閣議で、米軍がイラク戦争で劣化ウラン弾を使用したかどうかについて「承知していない」とする答弁書を決定したと共同通信は伝えている。社民党の福島瑞穂幹事長の質問主意書に対する答弁である。それによると、米中央軍のブルックス准将が「非常にわずかな量」の使用を認めたとされることについて「米軍の保有する弾薬のうち、劣化ウランを使用した弾薬がわずかにあることを述べたもので、今回使用したことを述べたものではない」としている。 米国政府に問い合わせたところ「劣化ウラン弾を使用したかどうかについて、今後も明らかにすることはない」との回答を得たとしている。 劣化ウラン弾による健康被害については「確定的な結論が出されているとは承知しておらず、国際機関などによる調査の動向を注視していく」と述べるにとどめた。(共同通信2003.8.29)
WHOやUNICEFなどの国際機関もがアメリカの顔色を窺いながら調査項目に入れることができない現状ではあるが、事実を被い隠そうとしても時間の経過とともにウラン被害の実態及び米英の戦争犯罪性は白日のもとに晒される。もはや人々の目をだまし続けることはできない。
 
3 違憲審査権の形骸化を阻止するためには、司法権が積極的に憲法判断を下す必要がある
(1) 本年6月18日、自衛隊のイラク多国籍軍参加を認める閣議決定がなされた。これはあまりにも明らかな憲法違反であるが、秋山収内閣法制局はこの閣議に先立つ6月14日の参院イラク復興支援・有事法制特別委員会において、多国籍軍に加わる国ごとに任務が切り分けられていて、武力の行使が伴わない業務に限定して従事することができる場合には、我が国が多国籍軍の一員となることが考えられないわけではない」との見解を示した。しかし従来の内閣法制局見解では、「武力の行使自体を目的、任務とする多国籍軍に参加することは憲法上許されない」(20001年12月の津野修内閣法制局長官の国会答弁)とされていたものであった。このような内閣法制局の憲法解釈の適否を有権的かつ最終的に判断しうるのは司法府のみであるところ、司法府が安全保障問題について目をつぶって判断を避けているうちに、あたかも内閣法制局が憲法裁判所であるかのように最終的に憲法9条の解釈を行い、しかもこれをご都合主義的に変遷させた結果、今日まさに自衛隊のイラク派兵、そして多国籍軍参加という最悪の事態が生じている。
(2) しかるに、最近の判例において、直接の判決の結論と離れて、裁判所が憲法81条の違憲審査制により有する憲法秩序保障機能を積極的に発揮して、訴えられた不法行為につき違憲判断を行うなど妥当な解釈がなされていることは注目に値する。これは司法府に憲法問題についての判断権を取り戻させ、健全な三権分立構造を復活させようとする、画期的な判決であると言えよう。
 すなわち、福岡地方裁判所平成16年4月7日判決は、内閣総理大臣小泉純一郎の靖国神社参拝についての損害賠償請求訴訟で、結論においては「本件参拝により賠償の対象となり得るような法的利益の侵害があったものということはできず、本件参拝について不法行為の成立を認めることはできない」(同判決33頁)と認定したが、その前段において、不法行為の違法性について検討し、「本件参拝は、宗教とかかわり合いをもつものであり、その行為が一般人から宗教的意義をもつものと捉えられ、憲法上の問題のあり得ることを承知しつつされたものであって、その効果は、神道の教義を広める宗教施設である靖国神社を援助、助長、促進するものというべきであるから、憲法20条3項によって禁止されている宗教的活動に当たると認めるのが相当である。」(同判決26頁)と判示し靖国参拝が憲法違反であると認定する。
 こうした違憲審査をなした理由について、同判決は、「現行法の下においては、本件参拝のような憲法20条3項に反する行為がされた場合であっても、その違憲性のみを訴訟において確認し、又は行政訴訟によって是正する途もなく、原告らとしても違憲性の確認を求めるための手段としては損害賠償請求訴訟の形を借りるほかなかったものである。一方で、靖国神社への参拝に関しては、前記認定のとおり、過去を振り返れば数十年前からその合憲性について取り沙汰され、『靖国神社法案』も断念され、歴代の内閣総理大臣も慎重な検討を重ねてきたものであり、元内閣総理大臣中曽根康弘の靖国神社参拝時の訴訟においては大阪高等裁判所の判決の中で、憲法20条3項所定の宗教的活動に該当する疑いが強く、同条項に違反する疑いがあることも指摘され、常に国民的議論が必要であることが認識されてきた。しかるに、本件参拝は、靖国神社参拝の合憲性について十分な議論も経ないままなされ、その後も靖国神社への参拝は繰り返されてきたものである。こうした事情にかんがみるとき、裁判所が違憲性についての判断を回避すれば、今後も同様の行為が繰り返される可能性が高いというべきであり、当裁判所は、本件参拝の違憲性を判断することを自らの責務と考え、前記のとおり判示するものである。」(同判決33頁)と述べ、違憲判断を回避すれば、違憲の行為が繰り返されるため裁判所の責務として違憲審査権を行使したと判示する。
 この判決は、違憲審査権の行使が具体的事件の解決に必要な場合にのみ行われるという従来の狭い違憲審査権の解釈の枠を踏み越えて、積極的に違憲審査権を行使することによって行政の違憲行為を防止しようとした、極めて正当な判決である。

4 結論:違憲性が明白であるから憲法判断を回避すべきでない
上告人らが訴えている本件不法行為について、前述したとおり違憲性が明白であるから憲法判断をすべきである。前述した靖国神社参拝福岡地裁判決と同様、自衛隊の給油活動どころか、順次エスカレートしてついには自衛隊の多国籍軍参加にまで及ぼうとしている今日的状況のもとでは、まさに本件不法行為について、裁判所が積極的に憲法判断をすべき事案である。
 ところが、意図的に憲法判断を回避した原判決は、憲法81条で定める違憲審査権を放棄し、「裁判を受ける権利」を保障した憲法32条に違反すると断ぜざるを得ないのである。                                              以 上

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