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http://www.geocities.co.jp/WallStreet/1471/03/yuujisim.html
■ 発端
200×年×月。イラク・バグダッド近郊の市場でテロが発生した。×人死亡の大規模なもの。米高官の来訪にあわせたものといわれた。
[このとき、イラク人の傀儡をすえた「暫定行政機構」構想が、イラク民衆の反米闘争によって頓挫に追い込まれていた。すでに「イラク復興支援法」に基づいてバグダッドには日本の自衛隊が駐留。米国主導の「暫定行政府」直属の現地軍に編入されて市の防衛の「後方支援」にあたっていた。]
国務長官は、「国際テロ組織Aによる犯行と断定した」と表明。三日後、米政府は、AのテロはB国に支援されたものだ、と言いだした。B国は以前から米国に「テロ支援国家」と烙印されてきた国家だ。「米国は断固として自衛権を行使するだろう」と事実上の侵略を表明。イラク同様、先制攻撃戦略に基づいた軍事作戦を展開することを決断した。
■認定
占領行政の一角を担う日本国首相は、即座にこの件に関して米大統領と電話協議。大統領は一言、「Bの関与が認められる以上、あいまいさのない決定的な措置が必要だ。日本の役割に期待する」と告げた。
首相の対応は機敏だった。翌×日、安全保障会議を招集。「暫定行政府に派遣したわが国の職員および自衛隊に危機が及んでいる」として、この事態を「武力攻撃事態」と認定できるか、と問うた。同会議は約二分の協議をへて「武力攻撃事態」と認定。直後に「対処基本方針」の策定を命じる答申を出した。
「対処基本方針」はわずか一日のうちに閣議決定され、国会に送られた。一部野党は「この事態がなぜ、武力攻撃の危険が切迫している事態といえるのか。たんなる市街地でのテロではないか」と疑義を発した。政府は「単なる散発的なテロではなく、行政府を狙った組織的・計画的なテロと認定される」と答弁。「根拠薄弱だ!」「説明責任を果たせ!」との怒号が飛び交う中、衆参両院は圧倒的多数でこの「対処基本方針」を承認した。「武力攻撃事態」の認定からここまで、三日と十一時間。
■発動
首相は緊急記者会見で「対処基本方針」の実施を表明。防衛出動待機命令を発令した。安全保障会議では米国側と調整がつづけらた。同時に、インド洋上のイージス艦をはじめとする自衛艦隊をB国付近に急派した。
×月×日、ついに米国がB国への攻撃を開始した。首相は、「わが国への危機を取り除くため、対処基本方針にのっとって米国との共同作戦を実施することを決定いたしました。万一武力の行使が必要となった場合でも、必要最小限の範囲にとどめる所存です。国民の皆さんのご理解とご協力をお願いしたい」と表明。自衛艦隊の増派を開始、戦後初の自衛隊による直接的武力行使がはじまった。「復興支援」が文字通りの侵略戦争へと転化した。
防衛庁長官は有事法にもとづき知事に対し、トラック業者・港湾労働者などに対する業務従事命令を発令するように求めた。自衛艦に搭載する軍事物資の積み込みのためだ。従事命令はすぐさま発令された。同時に、各種業者にたいする物資保管命令も発令。違反すると六ヶ月以下の懲役、または三十万円以下の罰金が科せられる。「戦争のための物資の積み込みはしない」として港湾で抗議行動が行なわれた。安全保障会議は即座に自治体当局に命じて、「有事における大衆的示威行動の禁止」を定めた「有事特別公安条例」を発令させた。
国内には、国民保護法にもとづく「テロ警戒警報」が発令された。各戸に「テロ対策マニュアル」が配布され、テロ組織Aによるテロに対処するための避難訓練などが行われることになった。
×日、戦局の膠着化の中、米軍指揮下の自衛隊はB国領内で武力行使を開始。海上からは密かに購入していた巡航ミサイルで、B国軍事基地を攻撃しはじめた。
■統制
×月×日。日本政府は日本赤十字社を戦地に派遣。海運労働者も頻繁に戦地に動員されるようになった。労働者は戦闘にまきこまれ米軍の誤爆の犠牲になったり、また自爆攻撃を受けたりして死亡したが、政府は「労働者の戦時派遣反対」の機運が盛り上がることをおそれて、報道管制を敷いた。戦場での戦闘場面や被害状況などの報道は御法度! 心あるジャーナリストが現地入りし、凄惨な戦場の実態を映像におさめて持ち帰ってきても、どの局も「テロを煽る」とか、「本人の了承が得られない」など個人情報保護法の規定などをも理由に自主規制した。
このころ同時に週刊誌が「テロ勢力につらなる過激派が原発の爆破を企図している」との憶測記事を垂れ流し始めた。政府の配布した「テロ対策マニュアル」には、「国民保護法第×条に基づき、全ての日本国民には不審者・過激派の動きを逐一報告することが義務づけられています。お隣の方は大丈夫ですか?……」。NHK、民放各局は某有名グラビアアイドルを起用した政府提供のCMを流し続ける。「素敵だね、テロと戦う君 がんばれニッポン」。
マスコミは同一の資料映像をすり切れるほど使い断定はしないものの連日、テロの可能性をワイドショー的に報道、大衆の恐怖心は一挙にあおられた。「テロ組織って、ホントに日本にあるんだ……!」
「反テロ」の一大ムーブメントのなか、反戦デモを主催した団体の幹部らが「共謀罪」容疑で大量逮捕された。公安警察が彼らの事務所を盗聴、交戦国の情報機関と連絡をとったというのだ。事実は、報道統制されている戦場の様子を聞こうとB国の新聞社に電話でインタビューしただけだった。さらに沿岸地域では、陣地の構築がすすめられた。「公用令書」ひとつで、沿岸の広範囲の土地が接収され、家は破壊された。有事法ではこういうことも認められる。住民は根こそぎ追い出され、内陸部の仮設住宅に押し込まれた。
もちろんこれらの作業には、建築労働者が多数動員されている。「人殺しのための施設はつくらない」といって労働者が従事命令を拒否した。彼らは即刻解雇された。「従事命令拒否による初の解雇」として話題になった。新聞は「この非常時に私益を追求し従事を拒否するということが許されるのか」と、彼らを非難する論陣を一様に展開した。
………
開戦から三か月たち、半年たち、一年が過ぎた。このころになると、事実上、各警察署が統括する「隣組制度」が「テロ・災害対策」の名目で整備されたが一番効力を発揮したのは思想統制だった。反戦の声を表立ってあげると近所の人から「テロ容認・過激派」とみなされた。
従事命令を受けて三日後にB国近海に動員されることになった労働者は慨嘆した。
「俺は、平凡な生活がしたかっただけで、『世界の平和と安定』とか『テロ根絶』とかは関係のないことだと思っていたのに。まさか、戦地で仕事とは。もうどうしようもいのか……」。
彼はこの三月に大学を卒業したばかりだった。
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