現在地 HOME > 掲示板 > 戦争56 > 484.html ★阿修羅♪ |
|
Tweet |
記者の目:米の「不法特権」 松藤幸之輔(那覇支局)
在日米軍の優遇措置などを定めた日米地位協定を巡り、新たな「不平等」が相次いで明らかになった。三つの米軍基地を舞台とした爆音訴訟で、米政府が賠償金の負担を拒否、米兵らが使うマイカーが車庫証明を受けていないことだ。ともに地位協定破りの「不法特権」だが「強い米国」に気兼ねして協定の抜本改定に及び腰の国、外務省は足元を見られていないか。そこで注文したい。日米同盟の構造的な不平等を黙認せず、法の下の平等の実現のため毅然(きぜん)とした外交を貫き、米国に法を守らせよ、と。
極東最大の米軍基地、嘉手納飛行場(沖縄県)の飛行差し止めなどを求め、住民ら原告側が賠償金を勝ち取った嘉手納爆音訴訟判決(98年5月)。国が支払いを命じられた賠償金のうち、米側負担分75%(約11億5500万円)を日本が肩代わりしていると聞き耳を疑った。地位協定は、米軍が損害を与えた民間人への賠償について、米側にのみ責任がある場合、裁判で確定した賠償額の75%を米国、残りを日本が負担すると規定(18条5項e)する。
外務省地位協定室に聞くと、担当者は「それがですねえ」と言葉を濁し、嘉手納以外に第1〜3次横田(93年2月〜94年3月)、第1次厚木(95年12月)両基地爆音訴訟の確定判決でも米国が負担していない事実を認めた。請求未払い総額は約18億9000万円。
そもそも協定が日本に25%も負担させること自体疑問なのに、踏み倒されたあげくに肩代わり財源は国民の血税と聞けば、協定への不満ばかりでなく、一体だれのための訴訟、司法制度なのかとの疑問もわく。
車庫証明の問題も同じだ。全国の米軍人・軍属と家族らのマイカー(Yナンバー)など計約5万8000台のうち、長崎県佐世保市の約2000台を除き、今も車庫証明がない。明確な車庫法違反だ。98年6月に国会で問題となり、運輸省(当時)は「米兵の私有車両でも、車庫証明がない場合、登録しない」との通達を出していた。ところが、この6年間の日米協議はわずか2回。違法状態は放置されたままだ。
ただでさえ米側に数多くの「特権」を定める地位協定。米兵容疑者の起訴前の身柄引き渡しなど一部で運用改善が進むが、小手先の改善に過ぎず、実態は「治外法権」。とりわけ賠償金と車庫証明の問題は運用改善の裏をかく「不法特権」と言っても過言ではない。両問題を日本政府に指摘した社民党の照屋寛徳衆院議員は「弱腰の対米外交が原因。外務省あって外交なしだ」と、切って捨てた。
その外務省は「米政府と協議している。(賠償は)いろいろ難しい問題なので(日米の)言い分が異なる。妥結できていない」(地位協定室)と話すだけで協議内容すら明かそうとしない。
沖縄に赴任して2カ月。普天間飛行場(宜野湾市)の危険性を実感し、殺人、婦女暴行、墜落などさまざまな基地被害におののき、生きる県民の基地撤去への思いの強さを改めて知った。一方で国は「負担軽減」を名目に、同飛行場の代替施設として名護市辺野古(へのこ)沖に戦後初の新たな米軍基地となる軍民共用空港を建設しようとしている。
新しい基地は、新たな負担・被害を生む。二つの問題を黙認してきた国の姿勢は、新たな基地と被害の構図を知りつつ、米国の言いなりに建設を進める国のそれにだぶって見える。沖縄の基地整理・縮小が進まないのも、国民に背を向けた言いなり外交に、県民が不信を募らせているからと思えてならない。
日米安保条約から半世紀余り。「地位協定を巡る不平等は、安保体制がある限りなくならない」との指摘がある。私は安保を容認できても、米国が不法特権を既得権益として当然のように享受し、自らを優遇する地位協定すら形がい化させるような現状は許せないし、主権国家として放置できない問題と思う。しかも、同様の事態は「対テロ戦争」の名の下にイラクへ進撃した米軍により、民間人の誤爆や捕虜虐待などの形で顕在化しているではないか。
強調したいのは、地位協定を巡る日米間の不平等は、決して基地の重圧と負担を強いられ続ける沖縄や本土の一部自治体だけの問題ではなく、安保を含めて日米関係を考える上で、私たち国民が考えなければならない基本ということだ。
国に注文をつける以上、私たちも安保の裏に隠れた不平等、不公正、不公平な実情を知り、安保のあり方を含めて自ら変えようとする努力が必要だ。そうでなければ地位協定の抜本改定も、沖縄の基地整理・縮小を進めることもできないと思う。
毎日新聞 2004年6月9日 0時46分
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/wadai/news/20040609k0000m070147000c.html