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特報
2004.05.31
君が代徹底 ついに警察力
ビラ配布に『卒業式妨害』 元教員宅捜索
都立板橋高校の卒業式で、開式前に父母らに週刊誌記事コピーを配った元教員の自宅に今月、警視庁板橋署が強制捜索に入った。都教委と同高が式を「妨害」されたと被害届を出したためだ。折しも都教委は卒業式の君が代斉唱で、起立しない生徒がいた同高を含む、計八校の教員らの指導責任を問う初の処分を発表した。日の丸・君が代の強制をめぐる教育現場の揺れは大きくなるばかりだ。 (松井 学)
■『ドア壊すぞ』突然署員5人
今月二十一日朝、板橋高の元教員Fさん(63)宅の玄関で戸を激しくたたく音がした。「どなたですか」と聞くと、「警視庁」と名乗った。着替えていると「開けないとドアを壊すぞ」という声もする。ドアを開けると、板橋署員五人が現れ、家宅捜索の令状を示した。
署員たちは、ホームページのアドレスをメモした紙片や、出版社からのはがき、教員組合の昔の大会方針ビラなどを押収していった。当日の状況をFさんは苦笑いを浮かべて話す。「初めてのことだから、突然で何やらわけが分からない。令状の文面も写し損ねた。ドアを開ける前に『身柄は』と聞くと、それは後でというようなことだった」
板橋署警備課は同日付でFさんに対し、卒業式での「威力業務妨害」の疑いで任意での事情聴取の呼び出し状も出した。もし容疑どおりならば、三年以下の懲役または五十万円以下の罰金に問われかねない。
ことの始まりは三月十一日、Fさんは二年前まで社会科を教えた板橋高の卒業式に来賓として出席した。卒業生たちがまだ一年生だった当時、生活指導担当として接していたからだ。
「生徒たちが騒ぐと大きな声でどなる役回りだった。でも、会えば生徒はかわいいわなあ。卒業式では全盲で三年間がんばった生徒が合唱のピアノ伴奏をするっていうし、楽しみにしていた」。大声で振り返る率直な物言いは退職した今でも変わらない。
■遅れ数分『出る幕じゃない』
都教委が進める日の丸・君が代の強制に疑問を持っていたFさんは、式当日、卒業生が入場するまでの時間に週刊誌「サンデー毎日」の記事コピー約二百枚を配った。記事は「東京都教委が強いる『寒々とした光景』」の見出しで、都教委「通達」で日の丸・君が代の徹底を求める都立校の卒業式の混乱ぶりを都教委に批判的に報じていた。
出席した父母らによると、Fさんは「今日は国歌斉唱の時に立たないと教職員は処分される。(起立しない教職員を支持するために)できたら皆さんは着席をお願いします」と呼びかけた。慌てた教頭が「やめろ」と声を上げた。
その後、席に向かうFさんに北爪幸夫校長が「退去しなさい」と発言、Fさんは「なんで来賓を追い出すんだ」などと反論したが、そのまま退出した。開式は、都教委によれば約五分遅れたとされる。一方で、参加した父母らからは遅れはもっと短時間で、当日はテレビ取材があったためとの見方も出ている。
Fさんの行動に、都教委は異例の措置をとった。三月十六日、横山洋吉都教育長は都議会予算特別委員会でこう言い切った。「校長などの制止にかかわらず元教員が週刊誌のコピーを保護者に配布して、この卒業式は異常であるなどと大声で叫んだことは、卒業式に対する重大な業務妨害でございまして、法的措置をとります」。土屋敬之都議(民主)の質問への答弁だ。
都教委と板橋高は同二十六日、Fさんが卒業式を妨害したとして威力業務妨害などで板橋署に被害届を出した。その日の朝から同署は学校内を実況見分していたうえ教員らにも事情聴取を重ねた。
板橋高は「取材が殺到し、今はすべて(対応を)断っている」と言うのみ。Fさんは裁判への影響を考慮して多くを語らない。教育長が答弁した「校長などの制止にかかわらず」コピー配布した経緯と、参列者らの話とは食い違ったままだ。
■9割不起立 『指導不足』と処分も
同高の卒業式はそれだけで終わらなかった。二百七十人の卒業生が入場し、開式の宣言に合わせて全員が起立。続いて司会の教員が「国歌斉唱」と言った途端、生徒たちが一斉に着席した。北爪校長、教頭、来賓の土屋都議らが「起立しなさい」「歌いなさい」などと叫んだが、卒業生の約九割が着席したままだったという。
ある卒業生は「隣の子が座ったので、私も座った。校長は前日まで起立するかは信条により自由と言っていた。それが立ちなさいと言うから少しムカついた」と説明する。
この事態に都教委は今月二十五日、卒業式や入学式で君が代斉唱の際、生徒が起立しなかったのは教員の指導不足が原因として、都立高八校の教員四十三人を指導、校長や教頭十四人を厳重注意などにすることを決めた。板橋高でも管理職を含め処分者が出たようだ。
■『法的拘束力持たぬ指導』
教育長は三月に都議会で「(国歌指導で)学習指導要領に基づく教育がなされていなければ、(その教員は)処分の対象となる」と発言、処分を言明しており、教員自身の不起立などによる処分と合わせ、教員側は追いつめられている。
教育現場に警察が乗り出す事態にジャーナリストの大谷昭宏氏は「なりふり構わず警察が元教員宅へガサ入れまでしたが、業務妨害の疑いというのは卒業式が著しく遅れたとか開けなかった場合に初めて認められる。今回のように開式が数分遅れたといった理由は警察が乗り出す幕ではない」と批判する。
■『信頼関係逆手 卑劣なやり方』
生徒の不起立で教員処分をちらつかせることに、成嶋隆・新潟大教授(憲法)は「教師と子どもとの間の信頼関係を逆手にとった最も卑劣なやり方だ。処分は明らかに憲法の思想及び良心の自由に反する。日の丸・君が代の強制は学習指導要領を根拠にするが、これは指導助言文書にすぎず法的拘束力を持たない」と切って捨てる。
大谷氏も「元教員や教員らへの処分が生徒の処分につながっていくのは間違いない。イラク邦人人質事件の家族への批判でわかるように、異議申し立てする人が嫌われ、お上が決めたことには従えという怖い状況になっている。しかもお上というのは役人だ」と昨今の風潮を懸念する。
■『堂々歌える国づくりを』
警察まで巻き込んだ問答無用の都教委のやり方に成嶋教授はこう話す。「教育行政は不当な支配に服してはいけないという原点に戻ってほしい。一番大事にすべきなのは子どもたちの成長、発達のために何が必要かということ。ただ強制するのはいわば動物の調教にすぎないが、動物の調教でも愛情はある」
結局、卒業式に参加できなかったFさんは「穏やかな校風の学校だが、昨秋の都教委通達で卒業式は様変わりした。人の心を強制によって動かすのは難しい。国歌は歌わせるのではなく、堂々と歌えるような良い国をつくるのが先決なのに」と訴える。
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20040531/mng_____tokuho__000.shtml