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戦争をする国になってゆく日本でいいのか?!
http://www.asiapressnetwork.com/report/20040618/20040618_02.html
第9回 自由にものが言える世の中でなければならない
●ビラを配っただけでなぜ逮捕されるのか
この国では、政府の方針に異論を唱える反対意見をあからさまに抑えつけようとする動きが目立っている。
2月27日、「立川自衛隊監視テント村」という市民運動グループの男性2人と女性1人が、警視庁公安第2課と立川警察署の刑事に住居侵入容疑で逮捕された。3人が1月17日に東京都立川市の防衛庁官舎で、自衛隊イラク派兵反対のビラを配ったことに対して、住居侵入容疑がかけられたのである。
しかし、「自衛官・ご家族の皆さんへ 自衛隊のイラク派兵反対! いっしょに考え、反対の声をあげよう!」というこのビラを、自衛官と防衛庁職員とその家族らが住む集合住宅の各室玄関ドアの新聞受け(ポスト)に入れただけで、どうして逮捕されなければならないのだろうか。3人は起訴され、5月11日に保釈されるまで、理不尽にも75日間という異例の長期勾留をされて厳しい取り調べを受けた。
防衛庁官舎には、「関係者以外の立入り、ビラ貼り・配り等」を禁止する表示板が掲げられてはいるが、普段からピザ屋のチラシなど各種宣伝ビラや市会議員の議会報告などが配られている。だが、これらのビラ類を配った人が逮捕されたこともない。まして、全国どこでも、集合住宅でも一戸建てでも様々なビラ類をポストに配ること(ポスティング)はごく当たり前におこなわれている。
明らかにこれは、自衛隊のイラク派兵を批判するビラの内容を狙い撃ちして、刑法第130条の住居侵入罪を恣意的に拡大適用した言論弾圧、表現の自由への抑圧である。昨年来、広範な市民の参加が見られるイラク反戦運動の声を封じようとする見せしめ効果を狙ったものだ。
東京地裁八王子支部における6月3日の第2回公判で、検察側証人の陸上自衛隊事務官(官舎の居住者)は、「警察の方から被害届けを出すように言われ、警察が作った被害届けの文章にサインした」ことを証言した。
この事実からも、公安警察が主導して計画的におこなった逮捕だったことがわかる。警察と自衛隊上層部の間に連携があったこともうかがえる。
被告とされた3人は多くの市民運動グループや労働組合などの支援を受けながら、「ビラ配布は憲法に保障された表現の自由に基づく正当な行為であり、無罪だ」と法廷で主張し、裁判闘争をおこなっている。
詳しいことは、「世界」7月号(岩波書店)に「自由にものも言えない社会へ?」という記事を発表しているので参照されたい。
●自分の意志を表す権利は絶対に守らなければ
表現の自由への抑圧は「立川自衛隊監視テント村」の件だけではなく、ほかにも起きている。
3月3日には、社会保健庁の職員が休日に東京都にある自宅周辺で、共産党機関紙『赤旗』の号外(自衛隊イラク派兵に反対する内容がふくまれていた)を配っただけで、国家公務員法第102条(政治的行為の制限)違反容疑で逮捕され、起訴されている。同条に関しては、憲法が保障する思想・信条の自由に反するとの批判から、ここ20年来は適用されることはなかった。
また、昨年4月に杉並区の公衆便所にイラク反戦の落書きをした青年が、従来なら問題にもならないか軽犯罪法違反で済むケースなのに、建造物損壊罪が適用され、今年2月に懲役1年2ヵ月、執行猶予3年の判決が下されている(控訴中)。公衆便所の落書きなどいたるところで見られるが、このように逮捕されて建造物損壊罪で有罪判決まで下されるのは前例がない。
東京都立板橋高校の元教員の男性は、3月にあった同校の卒業式で、開式前に保護者らに、都教育委員会の「日の丸・君が代」強制を批判する雑誌記事コピーを配ったことが、威力業務妨害の容疑にあたるとして、5月21日に警察の家宅捜索を受けた。卒業式を混乱させたとして、同校から被害届けが出されていた。しかし、記事のコピーを配っただけで、威力業務妨害容疑とはあまりにも過剰な対応ではないか。
どれも本来なら警察沙汰になるほどの行為ではない。やはり、自衛隊イラク派兵反対、イラク戦争反対、「日の丸・君が代」強制反対といった内容を問題視して、難癖をつけるような罪名を恣意的に適用しているとしか思えない。
一昨年末よりアメリカ大使館前で、勤務先の昼休みに連日、一市民の立場から数人の知人とともに、イラク戦争反対などの抗議アピールをしてきたブルキッチ加奈子さんとブルキッチ・スーレイマンさん(ユーゴスラビア人)夫妻も、警察から表現の自由への抑圧を受けている。
赤坂警察署は昨年12月、「9月に、アメリカ大使館から出てきた人に対して、顔のすぐ前でハンドマイクを使って怒鳴りつけたことが暴行容疑にあたり、捜査している。アメリカ人から告訴があった」と言って、ブルキッチ加奈子さんに任意の事情聴取を求めてきた。刑事がわざわざ職場に現れた。
さらに今年2月には家宅捜索までおこなった。5月には2回目の事情聴取もおこなわれている。また、アメリカ大使館周辺を歩くだけで公安警察の刑事や警官がつきまとってくるという。
しかしブルキッチ加奈子さんは、「抗議アピールに写真パネルやハンドマイクを使っているが、人の顔のすぐ前でハンドマイクで怒鳴りつけたりしたことなどない」と言い、「これは警察の不当な弾圧で、権力を批判する者は痛めつけるぞ、というメッセージが隠されています」と憤る。
そして、「嫌がらせや規制はどんどん進んでいます。この国にいる人全員がこの状態に気がついたときにはもう後戻りできない状態になっているでしょう。自分の意志を表す権利は絶対に守らなければいけません」と訴える。
なお、警視庁広報課にブルキッチさん夫妻への事情聴取や家宅捜索に関して質問したところ、「この件は広報事案ではないので、外部からの問い合わせには答えられない。ノーコメントです」という返事だった。どうやら警察にとっては触れられたくない問題らしい。
●銃後の社会づくりが進もうとしている
こうしたことが相次いでいる背景には、いまや日本社会は事実上、戦時体制下にあるという現実がある。
非戦闘地域などどこにもないイラクに送られた自衛隊は、米英占領軍の一翼を担い、復興支援の名目を掲げながら一方で武装した米兵を輸送機で運ぶなど米軍の直接支援もおこなっている。占領に加担しているのである。
米軍はいまも多くのイラク人を殺傷しつづけている。イラクへの主権委譲など名ばかりで、実際は米軍による力の支配・占領が続くだけだ。
自衛隊はその米軍指揮下の多国籍軍に入ることになる。抵抗勢力による攻撃があれば、自衛隊に死傷者が出るかもしれない。逆に相手を殺傷するかもしれない。自衛隊は戦地に、宿営地という陣地を構え、いつでも応戦できる態勢で活動している。まさに臨戦態勢にある。
小泉政権の対米追随路線からして、仮にイラクの自衛隊に何かが起きても、撤兵するという方向ではなく、「犠牲を無駄にするな」「テロに屈するな」などの美辞麗句を掲げ、あくまで派兵を続ける政策に固執し、世論誘導を政府に同調的なマスコミを通じておこなうだろう。そのためには、撤兵を求める反戦の声が日本社会に広がっては都合が悪いわけだ。
1972年から基地監視や自衛官への反戦の呼びかけをおこうなう「立川自衛隊監視テント村」(メンバーは10名ほど)代表の加藤克子さんは、
「イラク派兵が続くいま、兵士をきちんと送りだすのが国民としての礼儀だ。国内に異論があってはいけないという空気を、政府はつくりだしています。それに同調するマスコミもあります。まさに銃後の社会づくりが進もうとしているのです」と憂慮する。
●いろいろな考え方や意見があるのが普通だ
「国内に異論があってはいけないという空気」が、地方自治の場にも浸透してきている一例として、東京都府中市の前市議会議員、三宮克己さんの体験を紹介してみたい。
三宮さんは昨年4月、それまで7期務めていた市議の職から引退した。始めは社会党に所属していたが、社会党がなくなってからは「護憲連帯」という一人会派をつくって活動していた。戦争のできる国づくりにつながる有事法制にも反対してきた。
引退直前の昨年3月20日、自民・公明両党より市議会に提出された「北朝鮮による日本人拉致事件の真相究明と適切な問題解決の推進を求める意見書」に対して、三宮さんは原案に反対し修正を求める発言をした。その要点は次の通りである。
「意見書は、内閣総理大臣及び外務大臣に提出する公文書である。従って、本文にある北朝鮮政府というものは存在しないので、朝鮮民主主義人民共和国と書くべきだ」
「真相究明と解決のためには、日本が一方的に中断している日朝国交正常化交渉を再開させるべきことを伝えるべきだ」
しかし、満場の野次と怒号にその発言はさえぎられ、とうとう議長が討論打ち切りを告げて、三宮さんの反対意見は29対1で否決された。
本来なら、異なる意見を正面から述べ合い、討議して採決するのが、民主主義のあるべき姿だ。だが、野次と怒号、数の力で少数意見を押しのけることが、国会や自治体の議会でも罷り通っているのが現状である。
もちろんそれだけでも問題だが、さらに問題なのは、このときの三宮さんの発言で、「意見書は、内閣総理大臣及び外務大臣に提出する公文書である。従って、本文にある北朝鮮政府というものは存在しないので、朝鮮民主主義人民共和国と書くべきだ」という部分が、会議録から削除されていたことである。
このことを、三宮さんは引退して半年あまり後に所用で当時の会議録をコピー中、偶然知った。すぐに原本の速記録、録音テープの開示請求をしたが、いずれも廃棄されていたことがわかった。
議会での発言は正確に記録されるべきなのに、これでは、自分の場合だけではなく他の議員にも同様のことが起こりうるし、議会に対する市民の信頼も失われかねないと考えた三宮さんは今年1月、市議会議長に事実関係を明らかにするよう公開質問状を出した。
議長は、「その質問事項の発言部分は記録されておらず、削除もしていない」という回答をした。「速記録と録音テープは、委託会社が会議録の作成・配布終了後に処分したので現存しない」と説明している。
三宮さんは、自分の発言に関しては間違いないという。
確かに、議員引退後すでに時間が経ってから、市議会で言ってもいないことを言ったと主張しなければならない理由もない。事実ではないことで、わざわざ行政窓口に何度も足を運び、調査や質問したりするために時間と費用を使う必要があるだろうか。
「議会での賛否の結果にこだわるものではありません。議場で賛否の討論を交わすことこそ、言論の場としての議会の活性化につながります。問題は、その議場での発言が正確に記録されなければ、議会政治への信頼が失われるということなんです」と、三宮さんは指摘する。
北朝鮮という呼称をめぐっていろいろな考え方や意見があってもいい。どんなことに関しても、いろいろな考え方や意見があるのが普通である。
問題は、議会という公の場で発言が削除されると、少数意見の存在そのものがなかったことにされてしまうことだ。
これは異論を認めないという空気、少数派は排除してもいいという社会風潮につながる。それでなくても日本社会は付和雷同型で、「長いものには巻かれろ」という風に流されやすい。
自衛隊のイラク派兵や北朝鮮との関係や日の丸・君が代の問題も、イラク戦争や有事法制、日米関係、憲法9条、靖国参拝などの問題とともに、これからの日本社会の行方を左右する重大な事柄だ。様々な意見が自由に発せられるべきである。
国家の政策に異論を唱える反対意見や少数意見を抑え込んだり、排除したりするような世の中ではなく、いつも自由にものが言える世の中でなければならないことを、このリポートでふれた一連のできごとは示している。
2004年6月18日 吉田敏浩