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社説
05月29日付
■記者襲撃――現場主義の重みを思う
イラクのバグダッド近郊で、車に乗っていた日本人のフリージャーナリスト2人が襲撃された。車で追ってきた武装グループに銃撃され、車は爆発、炎上した。遺体が2体確認された。
襲われた橋田信介さんと小川功太郎さんはサマワにある自衛隊の宿営地を訪れ、バグダッドに戻る途中だった。
犯人は日本人だと知って狙ったのか。政治的な動機があったのか。あるいは強盗なのか。事件の背景はわからない。
いずれにせよ、いきなり撃ち殺そうとした犯人たちに強い憤りを覚える。
現場は首都と南部を結ぶ幹線道路だが、治安が急速に悪くなっていた。橋田さんらは日暮れまでにバグダッドに戻ろうと用心していたのだろうが、それでも危険を避けきれなかった。
橋田さんはベテランの戦場カメラマンだった。ベトナムをはじめ湾岸戦争やアフガニスタン戦争などをずっと取材してきた。今回のイラク入りは、爆撃で目を負傷したイラクの少年を治療のため日本に連れてくるのが主な目的だった。
おいの小川さんはNHKをやめた後、雑誌にイラクのルポを発表していた。
橋田さんの妻幸子さんは事件を知って、「ジャーナリストと結婚したのだから私は覚悟はしていたつもりだし、本人も覚悟していたと思う」と語った。小川さんの父博さんも「危険な目に遭う覚悟はしていた」と話した。
2人は危険を十分承知のうえで、あえてイラクに赴いた。家族も不安を抱きながら、それを見守っていたに違いない。
4月に起きた日本人の人質事件では、人質になった5人が「軽率だ」と政府・与党から批判された。外務省の渡航自粛勧告を無視して、国に多大な迷惑をかけたではないか、と主張するメディアまであらわれた。
今回の事件で、政府は退避や渡航自粛をさらに強く求める方針だ。
だが、日本の政治の場には、戦争報道のあり方についての視点があまりにも欠けているのではないか。
イラクはいま、占領から主権回復にどう進むかという重大な岐路に立っている。各国のジャーナリストが危険を覚悟でイラクに入っている。日本の主要な新聞社も、人質事件を機に記者を退避させた読売新聞など一部を除き、バグダッドを拠点に取材を続けている。
取材には危険がつきものだ。国際ジャーナリスト連盟によると、イラクでは開戦以来、すでに43人の報道関係者が死亡した。ベトナム戦争では日本人14人を含めた死者・不明者は約70人にのぼる。
米国では大量破壊兵器をめぐる誤った記事など、過去のイラク報道に関するメディアの自己批判が始まっている。日本の新聞やテレビも自己検証が欠かせない。そんななかで、メディアが立ち返るべき原則のひとつは現場主義である。
危険を冒しながらも、可能な限り現場にこだわる。橋田さんと小川さんがしようとしたのはそれだった。
http://www.asahi.com/paper/editorial20040529.html