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郵政民営化の「基本方針」が10日閣議決定された。「これでは巨大な民間郵政会社が民業を圧迫する」「郵貯・簡保を完全分離しなければ意味がない」「過疎地の郵便局がなくなる」。立場によって評価はさまざまで、ともすれば理念やスローガンが先行し極論に走りがちなようである。しかし、この問題はもう少し地味だと私は思う。おおまかな枠組みを決めた基本方針の段階でゼロか100かを言うよりも、政府、国会や日本郵政公社による今後の具体的なハンドリングを監視していくことの方が大事ではないだろうか。
今の郵政事業が問題を抱えていることは否定できない。郵貯・簡保の約350兆円の資金がほとんど公的部門に流れている異常さ。官業の非効率や「特典」。電子メールに押される郵便事業の将来性。こうした目の前の問題点が、一つずつ着実に解決されなければならない。
そのためにはそもそも、民営化はしてもしなくてもいい。こう書くと無責任と言われるかもしれないが、過去数カ月の議論を見ていて、民営化か否かは本質ではない、改革の可能性という点ではどちらも大差ないという印象が深まった。
「なぜ民営化か」。タウンミーティングなどで、同じ問いが何度も繰り返された。このこと自体、民営化が「絶対」でないことを示している。国民は郵政事業に対して、年金問題などに感じるような差し迫った危機感がない。政府は「郵便局が便利になる」「国民負担が減る」などと民営化のメリットを挙げるが、それ以上の緊急性があると説明することはできなかった。
かといって、国営公社のままでないとすべて台無しというわけでもないだろう。郵政3事業の中に民間でも提供可能なサービスが存在する以上、「なぜすべて国営でなければならないのか」という正反対の問いへの答えがない。民営化の是非を論じ始めると、袋小路に陥るだけだ。
小泉純一郎首相の言う「改革の本丸」はいささか大げさだが、首相の個人的意欲がきっかけで状況が動き始めたのは確かだ。その結果、二つの選択肢のうち「民営化」が流れになってしまった以上、流れに乗ってベターな改革を目指すのが現実的ではないか。
「基本方針」が示した方向性でそれを実現することは可能だと思う。民間企業になれば、仕事がより効率的になるのは間違いない。市場の評価にさらされることで、事業を発展させる創造力も生まれるだろう。特定郵便局やファミリー企業について指摘される不透明な部分は、基本方針が強調する効率化の観点で改善が進むかもしれない。郵貯・簡保にお金が集まりすぎる原因だった政府保証はなくなるから、低金利下で続いている資金量の減少ペースは速まる可能性がある。
もちろん、民営化ゆえのリスクも存在する。10年後に何が起こるかは誰にも分からない。
新会社が市場で肥大化するかもしれない。例えば官業時代に築いた全国ネットワークを活用して宅配便のシェアを奪う。融資業務進出が地域金融機関の脅威になる。「焼け太り」である(それは民業圧迫ではなく競争の活発化だという意見もあるが)。逆に破たんシナリオもありうる。郵便の縮小が加速し、窓口ネットワーク会社の新サービスも不発に終わる。預貯金金利の急上昇で、国債運用による利ざやが取れなくなる。ノウハウに乏しい融資業務に進出して不良債権を抱える。
基本方針にはこうしたリスクを防ぐ具体策までは書かれていない。だからこそ、詳細な制度設計や、移行期の政府の監視、経済情勢の変化に合わせた計画の見直し、新経営陣の手腕などが決定的に重要である。
「公平な競争条件」と「健全経営」を両立させる。ユニバーサル(全国一律)サービスがどこまで必要かを地域の実情も見ながら判断する。郵便局の配置が偏らないようにする。資金量を自然減に任せてよいか注視する。関係者がバランス感覚や緻密(ちみつ)さを備えていれば、民営化の“軟着陸”は可能だ。
また、公的部門に流れている資金を民間に回すには、郵政改革とは別枠の対応も欠かせない。郵貯・簡保が国債保有を減らせるような財政改革、国民が郵貯・簡保に頼らなくても済むような民間金融機関の健全化、そして、日本の企業全体の資金需要回復などだ。
つまり、すべてはこれから。小泉首相が「07年4月分社化」と「基本方針の閣議決定」を押し切った騒ぎだけにとらわれるのは、一面的な見方だと思う。【経済部・位川一郎】
毎日新聞 2004年9月24日 0時27分
http://www.mainichi-msn.co.jp/seiji/gyousei/news/20040924k0000m070156000c.html