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参院選での選挙違反を巡り不祥事続きの郵便局。近畿郵政局幹部や特定郵便局長だけでなく、同郵政局トップである三嶋毅局長の逮捕にまで発展した。8月28日現在で15人の郵政関係者が逮捕されており、郵政民営化阻止を託して当選させた高祖憲治氏に公職選挙法(公選法)の連座制が適用される可能性も出てきた。自民党最大の集票マシンと言われた全国特定郵便局長会(全特)の組織力低下は必至の情勢だ。
その全特に追い打ちをかけるように、郵便局版の機密費と言える「渡切費」が2003年までに廃止されることが決まった。しかし、これで全特を巡る不明朗な資金の流れが絶たれるかと言えば、そうではない。不透明な資金はほかにもあるのだ。
逮捕者続出の事態で、特定局長が積み立ててきた1つの「基金」の存在がにわかにクローズアップされている。特定局長が「犠牲者救済基金」と呼んできた不可解な積立金である。
中国・四国地方の元特定局長はこの基金の性格についてこう証言する。「選挙違反で逮捕された局長に対する見舞金制度と聞いている。全特で管理されているはずだ」。
基金の歴史は古い。本誌の取材によると、1965年7月、参院選に出馬した西村尚冶・元郵政事務次官の選挙活動を巡り、一部の特定局長が公選法違反で逮捕されたことが基金設立のきっかけと言われ、数年前まで積み立てが続いていたフシがある。全特専務理事の平勝典氏は「選挙違反で逮捕された局長に対する見舞金制度は当会の発足以来ありません」と反論するが、複数の特定局長が基金の存在を認める事実は何を示すのだろうか。
「4〜5年前まで、夏と冬のボーナス時に月給の2%を払っていた」と近畿地方のある特定局長は証言する。特定局長の基本給を40万円と仮定すると、1人当たり年間1万6000円。特定局長は1万8800人ほどいるから、全員から徴収していたとすれば単純計算で年間3億円程度集まる。
一方、65年から今回の参院選まで選挙違反による逮捕者に見舞金が支払われたという話は聞かない。局長数は増減があり一概には言えないが、30年という年月を考えると100億円近いカネがたまっていてもおかしくない。
もっとも今回大量の逮捕者が出たからといって、犯罪者救済に基金を使うことなどできない。むしろ問題なのはカネの使途が不透明な点だ。実際、取材に応じた多くの特定局長が疑念の目を向ける。「基金が本当に積み立てられているのかどうか怪しいものだ。選挙資金や政治家への献金などで消えているのではないのか」と前出の近畿地方の特定局長は吐き捨てる。
2000年度における全特の収支決算書を見ても該当する項目は存在しない。全特の資産を所有する全国特定郵便局長協会連合会(全協連)の貸借対照表を見てもそれらしい数字は見当たらない。「末端の特定局長では、犠牲者救済基金の行方などうかがい知ることはできない」と北海道・東北地方の特定局長は諦め顔で話す。
環流した資金はどこに流れたか
選挙違反による逮捕者を前提に見舞金を積み立ててきたと内部告発されること自体が異常なのに、そのうえカネの行方が分からないとするならば、全特の闇はどこまで広がるのだろう。
特定局長たちがその存在を疑問視しているカネは実は犠牲者救済基金だけではない。「空き家補償制度」に伴う積立金もその1つだ。
全特の内部資料によると、特定局の50%は特定局長が局舎を所有する私有局舎。その私有局舎が局舎の統廃合によって消滅する場合に支払われる補償制度である。年間の積み立て額はそれぞれの地方会によって異なり、1万5000円程度の地区もあれば、2万円を超えるところもある。
年に1万5000円を積み立てているとすると、私有局舎の局長から1億円以上のカネが各地方会に集まる。しかし「鉄筋で15年、木造で10年以内の局舎が統廃合した場合しか支払われない」との決まりがあるという。ここ10年、統廃合で消滅した私有局舎の数は表に出ていないため真相は不明だが、「10年分、つまり総額10億円が各地方会にあってもおかしくない」と前出の近畿地方の特定局長は指摘する。
全特は任意団体だから、納得ずくであればいくらカネを集めようと自由である。しかし集めたカネの使途が会計報告で詳細に開示されない。それが局長たちの疑念を生む。
7月の参院選でも、自民党の党友費を水増しして集めた地区があった。「部会長から、『今は戦時中(選挙中の意)なので、臨時に1000円を党友費に上乗せします』と突然通告された。しかも上乗せされた1000円に関する使途の説明は一切なかった」とその地区に属する局長は振り返る。
全特を覆う使途不明金の闇。だが今回廃止される渡切費を官僚が特定局長に与える「アメ」と考えれば、様々な名目で徴収されるカネはその見返りであろうことは容易に想像がつく。
謎に包まれた全特という組織が、実は特定郵便局からカネを環流させる舞台装置であるという実態がおぼろげながら見えてきた。環流した資金は一体、どこに流れたのか。当局の解明を待つばかりである。(篠原 匡)
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