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川中島合戦場
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より正体未詳の知識人ベルナール氏の言
1178 2004/06/30 13:42
無力な私の一票でも、集まれば大きな力になります
みなさん、こんにちは。
6月18日付の『朝日新聞』の読者欄「声」には、79歳の主婦の方がこんな投書を寄せられています。
> 小泉首相は最近、テレビコマーシャルで「この国を想い、この国を創る」と盛んに言っています。が、ある政治評論家が「この国を滅ぼし、アメリカに捧げるではないのか」と皮肉っているのを読みました。同感です。米国一辺倒の小泉首相の下では、容易に「事が進められている」と素人目にも映ります。戦中に青春を過ごした私は言うべき言葉さえありません。来る参院選に望みをつなぎたい。無力な私の一票でも、集まれば大きな力になります。
この主婦の方が危機を覚えられたのは、アメリカが「米軍と自衛隊との一体化」を進めているという記事を読まれたからだといいます。実際、小泉首相は、日曜日の NHK の参院選討論番組で「米軍が日本と一緒に戦っている時に、米軍が攻撃された時に、日本を守るために一緒に戦っているのに米軍と共同行動できない、集団的自衛権を行使できない、それはおかしい」とし、「憲法を改正し、日本が攻撃された場合には米国と一緒になって行動できるよう」にしたいとも語っています [1]。
とりわけイラク戦争の展開とともに、「米軍と自衛隊との一体化」が推進され、国内異論の封殺のために警察権の濫用が、大手を振ってまかり通っています。ビラを配ると家宅侵入罪、拡声器による抗議には傷害罪と、微罪逮捕や法規の拡大解釈が跋扈し、国際的な人権擁護団体アムネスティも深刻な懸念を表明しています [2]。
大日向純夫氏によれば、日本における「警察権の膨張と警察基盤の拡大」は、1970年代に始まり、1972年発表の警察庁警察運営に関する総合対策委員会報告は、以下のような２つの特徴を持っています [3]。
> 第一は、「国民の要望に即した警察運営」を掲げて、公害規則・交通政策・暴力取締・少年警察などの領域に警察活動を拡大しようとしたことである。「国民の要望」にこたえるためには、消極的・事後的な取り締まりではなく、積極的に事前に予防して行く活動が必要だとした。予防のためには、警察の権限は膨張していかざるを得ない。第二は、「国民との連携の強化」を主張していることである。外勤警察の機能を強め、CR（コミュニティ・リレーションズ）活動を本格化させながら、警察のもとに住民を組織化しようとした。それは、国民を警察の側にたぐり寄せ、警察の基盤を強化していこうとするものであった。CR とは、家庭・職場・町会・PTAなどの「生活共同体」に対する働きかけのことをさしている。
大日向氏は、このような志向に「警察の民衆化と民衆の警察化」を目指した1920年代の反復を見ています。実際、現在の反戦運動に対する官憲の弾圧が、イラク邦人人質事件の被害者へのバッシングに伴走していたということが注目されるべきでしょう。「民衆の警察化」のひとつのあわわれが、関東大震災における「自警団」による朝鮮人虐殺事件でしょう。未曾有の災害に逆上した民衆は、朝鮮人が井戸に投毒したなどというデマに扇動され、「自警団」による朝鮮人虐殺が起こりました。あまり知られていないことですが、たまたま香川県から千葉県に薬売りに来ていた被差別部落の出身者も「なまりが変だ」などと言いがかりを付けられて襲われたのです。これを「福田山事件」といいます [4]。
災害や戦争などによって社会が危機に陥ると流言飛語が飛び交うことはよくある現象ですが、冷静な判断力を失った民衆が扇動され、しばしば残虐事件を起こしたりすることがあります。学校の儀式における「日の丸・君が代」の強制はいよいよ強迫的なものになり、声の大小によって愛国心を評価するなどという恐るべき倒錯がまかり通っています。こうした平準化圧力が強まっている時に社会に危機が生じると、「こういったものが『普通だ』」という平均値からはずれている者が真っ先に犠牲にされます。さらに社会的危機が昂進するとすると、微細な差異さえ、社会を転覆しかるない潜在的犯罪者として告発される事態にまで至ることがあります。
関東大震災における朝鮮人虐殺は、まさにその典型例でした。旧約聖書の「士師記」（12章5-6章）にも似たような逸話があります。
> ギレアドはまた、エフライムへのヨルダンの渡し場を手中に収めた。エフライムを逃げ出した者が、「渡らせてほしい」と言って来ると、ギレアド人は、「あなたはエフライム人か」と尋ね、「そうではない」と答えると、「ではシイボレトと言ってみよ」と言い、その人が正しく発音できず、「シボレト」と言うと、直ちに捕らえ、そのヨルダンの渡し場で亡き者にした。そのときエフライム人四万二千人が倒された。
「シイ」と「シ」のわずかな発音の違いが渡し場をわたる人々の生死をわけたわけです。社会の危機が絶頂に達すると、微細な差異はむしろ捏造されて妄想にまで高まり、その妄想にさらに尾ひれが付いて、社会に鬱積した不満と不安のはけ口となる《いけにえの山羊》が作り出されます。イラク邦人人質事件では、アル・ジャジーラ放送で流されたビデオに「イッテ、イッテ」と日本語が聞こえるなどとし、武装集団に日本人過激派がいるとか、自作自演ではないかなどという妄説が流布され、マスコミから官憲までがそれに踊らされるという前代未聞のトンデモ劇が内外の失笑を買うという一幕がありました [5]。
長引く経済不況と内外の危機の増大にともない社会に不満が鬱積し、人々が冷静な判断力を失い、弱者やマイノリティを叩けば社会の混乱や矛盾が解消するかのような幻想を振りまくポピュリズム的扇動に対する被暗示性が昂進しています。ほんのささいなきっかけで、社会全体が一つの方向にワァーと流されない危険な状態が日本全体を覆っています。「この国を想い、この国を創る」などと情緒に訴えるだけのキャッチコピーが、あたかも何か具体的な内容を持っているかのような錯覚が、「自らの不利益を求める民衆」（山口二郎）を作り出しかねない状況です。「改革なくして成長なし」「抵抗勢力を潰す」「テロに屈するな！」… 威勢のよいかけ声だけで、小泉政権は国民を瞞着しています。
本日の報道各紙は、大規模保養施設「グリーンピア」や厚生年金病院の職員用宿舎にも年金が流用されていたことを明らかにしています。その額、実に222億円です。小泉政権は、国民の老後生活などはなから何も考えてはいないのです。「米軍と自衛隊との一体化」に関する小泉発言は、これからの日本が、米国が勝手に始めた世界各地での戦争に際限なく巻き込まれることを意味しています。「テロに屈するな！」というフレーズぐらい国民をなめきった言葉はないでしょう。「テロに屈するな！」とは何か？… それは、世界が「米国のテロに屈しろ！」ということです。そして、石破茂防衛庁長官は、「徴兵制は憲法違反だと言ってはばからない人がいますが、そんな議論は世界中どこにもない」[5] などと平然とうそぶいています。「茶色の朝」[6] は、遠い国のおとぎ話ではなく、いままさに日本が直面している現実なのです。
選挙など誰に投票しても同じ … 本当にそうでしょうか？冒頭にご紹介した79歳の主婦の方のご投稿を再読して下さい。「来る参院選に望みをつなぎたい。無力な私の一票でも、集まれば大きな力になります」。
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[1] cf.
http://www.asahi.com/paper/editorial20040630.html
[2] cf.
http://www.amnesty.or.jp/campaign/cup/2004/update/12.htm
[3] 大日向純夫『警察の社会史』岩波新書、1993、222頁。
[4] cf.
http://www.jcj.gr.jp/~hokkaido/hou-021109shin-youshi.html
（辛淑玉氏講演要旨）
[5] cf.
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik/2002-10-11/07_0203.html
[6] cf.
http://bbs12.otd.co.jp/yuji_story/bbs_plain?base=1756
題名には必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。