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新連載! 「ネット社会の情報リスク」 第1回【日経BP】
http://nikkeibp.jp/wcs/leaf/CID/onair/biztech/rep02/331346
2004年09月16日 12時01分
インターネットが企業や個人にとってなくてはならないネット社会。便利になった一方で、個人情報流出や、匿名のネット掲示板を使った誹謗・中傷など、その情報リスクは高まるばかりです。
この連載では、ネット情報セキュリティ研究会を立ち上げ、情報セキュリティの視点から日々、各種ネット・セキュリティの予防法や対応策に取り組んでいる田淵義朗氏が、毎週1回、最新事例や、情報リスクの基本的な捉え方と対策法などを解説していきます。
実際の個別事例は、こっそり相談されるのがほとんどなので、なかなか仔細にご紹介することはできないのですが、今回は連載第1回目でもあり、先方の了解を得て、実際の事例を考えていきたいと思います。
第1回〜ある自治体広報マンの悩み
随分昔読んだ週刊誌で、田原総一朗と香山リカの対談におもしろい話が載っていたのを思い出した。話の要約はこうである。香山は精神科医だが、彼女いわく、最近の日本人は自分のことは一生懸命話すが、人の話は聞かない傾向にあるという。また田原の言によると「朝まで生テレビ」でも話の流れにない話を、突然話し出す出演者が顕著に増えている。香山によれば「匿名で一方的に相手を批判したり、言いたい放題言ってもかまわないインターネットの出現が大きく影響している」と分析していた。
ネット社会の、目に見えない相手
なるほど、的を射ているなと思った。小生、ネット情報セキュリティ研究会(NIS)というWebサイトを運営しているが、いろいろな相談のメールが来る。掲示板でのクレームや誹謗中傷、営業妨害・信用毀損、内部告発、社員のデータ持ち逃げ、情報漏洩など、会社や組織が直面するネット社会特有の「情報」絡みの相談である。最近は個人情報漏洩事件の多発で、この手の相談も増えている。
その中でもやっかいなのは、ネット社会の、目に見えない相手(ネット大衆)の問題がある。2ちゃんねる(掲示板)を覗くと、あらゆる分野にわたって個人が匿名で言いたい放題を書いている。まったくたわいのない議論も多いが、中には当事者しか知り得ない事実と思われる内容もあって、関係者はドキッとさせられる。組織や会社の危機管理という面から、ネット大衆にどう向き合っていけばよいか、経験知がないだけに手探りの状況が続いている。
相談の多くは、具体名を挙げて書けない話がほとんどなので、大半が紹介できないのが残念なのだが、今回が連載の第一回ということもあり、相談者の了解も得て、ホットな事例としてとりあげることにした。
当研究会の会員で、佐賀県庁にお勤めの方である。仕事の内容は危機管理・広報が主たる業務である。2ヶ月ほど前に上京のついでに立ち寄られた。最近になってまたメールを戴いた次第である。
懲戒処分の職員の氏名をホームページで公表する是非
相談内容は、「懲戒処分の職員の氏名をホームページで公表する是非について」。議論に氏名は関係ないので伏せるが、それ以外は原文のままである。
今回の相談の返答は、研究会内でも意見が分かれており、広く読者からの意見を聞きたいという事情もある。読者の方と一緒に考えてみたい。
(原文のまま、氏名は伏せ)
2004年9月6日
佐賀県危機管理・広報課の○○です。
先日ご意見をいただきました職員の懲戒処分と記者発表・県HPへの掲載の是非について、内部で議論しておりますが、とくに、ネットの特質からあらためてご意見・ご指導をいただければと思い、改めてメールさせていただいております。
■懲戒処分時の氏名公表とHP掲載
県では被処分者の氏名を公表する場合の考え方を個人情報保護審査会に諮問し、同審査会答申を踏まえ、本年4月1日から被処分者の氏名公表の運用をし、処分公表に際しては、新聞や放送を媒体とする報道機関に対してレクチャーを行ってきたところです。(公表の考え方は末尾「補足 懲戒処分と氏名公表」をご覧ください。)
一方で、近年の情報技術の進展に伴い、県民に対する周知措置として新たにインターネットを利用した情報発信が可能となり、本県でもホームページを開設し、原則記者発表資料はHPに掲載することとしているところです。
しかしながら、新聞や放送といった従来から存在する媒体とは異なり、比較的新しい情報発信媒体である県ホームページへの掲載ということについては、インターネットの特質をよく踏まえ対応する必要があると考えております。
特に、情報の管理、人権への配慮のうえで次のような課題を抱えていると考え、実態としては、処分時に公表された氏名については、プライバシー保護や個人への風評等被害防止の観点から、個別に判断し、HPへの掲載を控えておりますが、果たしてこの論点が正しいのかどうかご意見をいただければ幸いです。
よろしくお願いいたします。
以上が相談の内容である。読者の皆さんはどう考えるだろうか。
昨今の公務員の仕事ぶりに関して批判が多く寄せられている風潮の中で、佐賀県の場合、自らが襟を正し県政への信頼を確保するために、報道機関に対し氏名公表に踏み切っている。氏名公表した重大な事案の例は、以下の通りだ。
◆平成16年3月24日
処分の程度:懲戒免職
福祉施設入所者預り金着服(金額 延べ143万円)
◆平成16年6月25日
処分の程度:懲戒免職
徴税吏員による税滞納者との公務中の性的関係
※犯罪構成要件に欠けるとして刑事事件としての立件は見送られている。
◆平成16年9月6日
処分の程度:懲戒免職
親睦会費等着服(金額175万円)
一方で、県がホームページへの掲載について控えている点について、私は、一定の見識だと考える。
インターネット特有の検索性を危惧
媒体を選ばず情報公開したほうがよいとする風潮は、インターネット特有の検索性を過小評価していると思う。この検索性によって氏名の一部でも掲載になれば、匿名の掲示板への転載などから、本人のみならずその家族や被害者のプライバシーまで影響が及ぶことを考慮すれば、ホームページ非掲載は適切な判断と思うが、どうだろうか。
研究会の弁護士の意見として、行政本来の仕事は人間を罰することでなく行政サービスを執行するのが本分なのだから、氏名公表自体も慎重であるべきという。懲戒処分という制裁をすでに受けており、事案の重大性にもよるが、人権面からも配慮がなされるべき、とする(これは裁判で白黒つくまで有罪は確定しないのだ、とする法曹家特有の視点によるが)。
上記の弁護士の意見もあるが、ここで問題にしたいのは、重大な事案に関して、報道機関への氏名公表の是非ではなく、県のホームページへ氏名を掲載することの是非についてである。
以下の箇条書きを考慮して、ご一考いただきたい。これは、「なぜHPへの掲載を控えたのか、またどういう背景で、どういう経緯から現在の結論に至っているのか、教えてほしい」と佐賀県の担当者を取材をした結果、得られたものである。
ちなみに私は、これらに基づいて総合的に考えた結果、「HPへの転載を控えている点は見識である」との評価に至った。
取材で得た事実
1.懲戒処分については、内部の規律保持を目的としており、本来は公表が義務づけられたものではない。人事院は2003年11月、国家公務員の処分時の公開基準のガイドラインを作成したが、公開内容は事案の概要や役職名だけ。氏名は公表していない。これと比べ佐賀県の報道機関への公開基準は、透明度が高く、厳格といえる。
2.県はホームページに掲載を控えている。理由はインターネットでは発信者の特定が困難であり、無責任な情報発信が可能であること。「2ちゃんねる」等の電子掲示板等に実名が書き込まれれば、事実に加え、いわれのない誹謗中傷までもが想像を超えて急速に拡大する恐れがあること。これに対し、新聞、放送は情報の報道内容に関し、組織として責任を持っていると判断している。
3.職員をかばい、厳正な処分をしていないことの現れとして、さらなる県民の批判を浴びかねないことから、被処分者が社会的制裁を受けることもやむ得ないものとして、県政に対する信頼確保のために氏名まで含めて公表するに至った経緯がある。
4.インターネットにつながる世界中のどこかのWebサーバ・コンピュータにコピーされた文字情報が残される限り、いつでも容易に一部の文字(氏名)からでも情報検索が可能となっている。これは紙媒体である新聞や、放送という映像・音声のメディアには無い特質と言える。インターネットにはこのような特質があることから、被処分者は処分歴がある者として、長期間にわたり不当に差別的な扱いを受ける可能性がある。これに対し、新聞も図書館等にバックナンバーが保存されてはいるが、時期などの情報がない限り検索性に劣り、あえて探そうとする者は殆どいないと考えられるとする判断もある。
5.記者発表の結果、某テレビ局が事案を報道した内容をそのままHPに掲載しているため、結果的に職員の氏名がネット上に出ており、結果自主規制に意味があるのか疑問である。
6.氏名を公表することの考え方がマニュアルとして整理されておらず、取材記者から対応が不明確であるとの批判を受けることとなった経緯がある。
7.記者の取材等の求めに応じ、闇雲に氏名を公表することには、本人だけでなく家族等まで誹謗中傷等の影響が懸念され、人権上の問題があることから、県の個人情報保護審査会に諮り、その答申を踏まえたうえで本年4月から運用を行っている。
8.氏名が記入されている記者発表資料をそのまま県のホームページに掲載する予定だったものが、直前になって資料の掲載を取りやめ、知事の謝罪コメントだけを掲載した。一方で、県庁の閲覧コーナーでは資料をそのまま公開し、矛盾した対応となった。ネット上での公開を取りやめた理由について県職員課は「インターネット特有の爆発的な情報の広がりと改ざんの恐れ」と説明した。
9.県内ではここ数年、県職員、教職員の不祥事が相次ぎ、昨年度一年間だけでも、福祉施設指導員が預かり金の着服を繰り返していたのをはじめ、公選法違反(周旋)が一件、盗撮が一件、酒気帯びや無免許運転など交通違反が十件におよび、県民の視線が厳しさを増していた背景がある。
10.佐賀新聞社では記事の扱いについて、刑事事件と違い内規による処分は原則匿名としている。ただ、事案の重大性や組織性がある場合は役職呼称で報じるとする事実がある。
■ 田淵 義朗(たぶち よしろう)
1956 年神戸市生まれ。1980年中央大学法学部法律学科卒業。大手メディア関連企業(出版、ソフトウエア、映画)でコンテンツビジネスを経験する。デジタル時代の本格的な到来を機に、1993年(株)ジンコーポレーションを設立。2003年5月、ネットトラブルから組織を防衛するネット情報セキュリティ研究会を設立し、普及・啓蒙活動をはじめる。ITコンサルタント。政府関連、地方自治体、経済団体、大学などで、講演多数。著書に「インターネット時代の就業規則」(明日香出版社)、「ネット(攻撃・クレーム・中傷)の傾向と即決対策」(明日香出版社)などがある。