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さらば巨大ブラウザ――Netscapeの失敗が生んだFirefoxの挑戦【IT_Pro】
http://www.asyura2.com/0406/it06/msg/799.html
投稿者 クエスチョン 日時 2004 年 11 月 17 日 22:12:41:WmYnAkBebEg4M
 

さらば巨大ブラウザ――Netscapeの失敗が生んだFirefoxの挑戦【IT_Pro】
http://itpro.nikkeibp.co.jp/free/ITPro/OPINION/20041116/152634/

[2004/11/17]

 オープンソースの軽量Webブラウザ「Firefox」の正式公開(関連記事)は,IT専門メディア以外の,世界の様々なメディアが取り上げた。米CNN,英BBC,米Los Angels Times,米Financial Timesなど。カタールの衛星テレビ局 アルジャズィーラのWebサイトでも報じている。

 記事の論調は「Microsoftへの挑戦」(CNN),「FirefoxがMicrosoftと対決」(BBC)といったものが多い。しかし,かつてWebブラウザといえばFirefoxの前身であるNetscape Navigatorのことを指す時代があった。そのNetscape NavigatorがInternet Explorerに敗れた理由はなんだったのだろう。Firefoxはその敗因を克服することができたのだろうか。

Netscape Navigatorの敗因は「開発力」

 Webの普及が始まったころ,WebブラウザとはMosaicであり,Mosaicの開発者たちが設立したNetscapeのNavigator であった。MicrosoftのInternet Explorerは後発で,しかも動作も遅く機能的にも遅れたWebブラウザに過ぎなかった。

 そのInternet Explorerが普及した最大の理由を,Windowsにバンドルされていたことだと考える方は多いだろう。しかし,筆者はそれは理由のひとつに過ぎないと考えている。バンドルされていたために,選択肢として土俵に上がることができたのは確かだが,それだけでNetscape Navigatorを上回るユーザーを獲得できたわけではない。

 実際,1990年代の半ばに,Netscape Navigatorはさほど不利な状況にあったわけではない。パソコン・メーカーがPCにNetscape Navigatorをプリ・インストールしていたし,雑誌付録のCDやインターネットからでもNetscape Navigatorは簡単にインストールできた。記者の取材でも,多くの企業がNetscape Navigatorを標準のWebブラウザとして指定していた。情報システム部門の技術力が高い企業ほどその傾向があった。Webを初期から企業情報システムに採用していたし,Internet ExplorerのActiveXコントロールにセキュリティ面での懸念を抱いていたからである。

 それではなぜユーザーはInternet Explorerを選ぶようになっていったのだろう。理由は「開発スピード」だったと記者は考えている。Microsoftは心血を注ぎ, Internet Explorerを改良した。Internet Explorerの動作は向上し,CSS[用語解説] などの新機能の実装も迅速だった。

 Windows版だけ開発すればよいMicrosoftと違い,NetscapeはWindows以外にもUNIX,Macintoshをサポートせねばならず,開発リソースが分散するという不利な面もあった。だが,それ以上にNetscapeが「開発スピード」の面で苦境に陥った要因がある。OSのような「プラットフォーム(基盤ソフトウエア)」を目指すNetscapeの方針が,ソフトウエアの肥大化,重量化を招いたのである。この結果,軽快に動き,機能も増えたInternet Explorerに,多くのユーザーが乗り換えていった。

ソースを公開するだけでは開発者の支持は得られない

 Microsoftに追い上げられたNetscapeは,打開策として,Netscape Navigatorのソース・コード公開を決意する。Linuxの成功に倣い,コミュニティの力を借りて開発リソースを補おうと考えたのだ。それが98年 4月に公開されたMozillaである。

 しかし,この選択は,短期的にはNetscapeの開発陣に混乱をもたらした。社内開発を前提にしていたソース・コードを,社外の人間が読めるようにするために労力が取られたとされる。しかも公開されたソース・コードはあまりに巨大すぎ,外部のエンジニアがそれを理解するには長い時間を要した。

 その後,98年11月にAOLがNetscapeの買収を発表したが,Navigatorの開発はさらに停滞し,ユーザー離れが続く。Internet Explorerは一時は90%を超える高いシェアを占めるようになった。

 Mozillaが公開されて一年後,中心的なエンジニアだったJamie Zawinski氏は「オープンソースという魔法の粉を振りかければすべてがうまくいくわけではない」という苦渋に満ちた言葉を残してNetscapeを離れている。2003年7月にAOLはMozillaの開発チームを「Mozilla Foundation」として分離。基金として200万ドルを寄付した。

セキュリティ問題で停滞するInternet Explorer

 そうこうするうちに,圧倒的なシェアを得たInternet Explorerのセキュリティ面での問題がクローズアップされてくる。Internet Explorerのセキュリティ・ホールを悪用し,Webページを閲覧しただけで感染するウイルス「Nimda」が発生したのは2001年9月。マイクロソフトが運営するMSNに感染,MSNを見たユーザーが次々と感染するという事態が起きた。その後も次々とInternet Explorerのセキュリティ・ホールが発覚,それを標的にするウイルスが出現した経緯は,IT Pro読者の皆さんもご存じの通りである。

 被害を間近に見たユーザーにはInternet Explorerに対する拒否反応が起きる。セキュリティ専門家もInternet Explorer以外の選択肢の必要性を指摘した。2004年6月には,米国のセキュリティ対応機関CERT/CCが,Internet Explorerのセキュリティ・ホールへの対策の一つとしてInternet Explorer以外のWebブラウザの使用を推奨したことが話題になった。

 Refsnes Dataによれば,2001年3月に88%を占めたInternet Explorerはのシェアは,2004年11月に74%に低下した。NetscapeとMozillaを合わせたシェアは2001年3月で7.6%だったが,2004年11月には20.3%になっている。

 そして2004年11月9日,Mozilla FoundationはFirefoxをリリースする(関連記事)。肥大化したNetscape Navigatorの反省として,Webブラウザ機能を切り出した軽量のソフトウエアだ。Mozillaの次世代プロジェクトとして開発されてきた Firefoxは,Internet Explorer以外の選択肢を探すユーザーに注目された。11月9日の正式リリースから15日までの間に,Firefoxは約367万回ダウンロードされたという。

数千人のボランティア開発者
http://itpro.nikkeibp.co.jp/free/ITPro/OPINION/20041116/152634/index2.shtml

 セキュリティ対策に追われたInternet Explorerの機能改良が滞った間に,Firefox/Mozillaにはタブ・ブラウザ機能やRSS[用語解説]機能などの新機能が搭載された。機能面でFirefoxが先行したわけだが,Firefoxはこのリードを守ることができるだろうか。

 Mozilla Foundationはわずか数十人。片やMicrosoftは数万人の組織である。資金面でも同様に2〜3桁のスケールの違いがある。アリと巨人である。多くのOSに対応しなければならないという“宿命”も依然としてある。

 だがMozilla Foundationの技術部門のディレクタであるChris Hofmann氏は,開発陣の陣容について「Mozilla Foundationのほか,IBM,Sun,Red Hatなどから約50名がフルタイムで開発に参加しており,さらに数千名のボランティアがいる」と自信を見せる(関連記事)。

 Mozillaのモジュールの主要な開発者のリストを見ると,Mozilla以外の多くの組織から開発者が参加していることが分かる。かつて混乱を見せたプロジェクトは,時間の経過とともに多くの参加者の習熟を得て,アクティブなオープンソース・コミュニティとして機能するようになっていたのである。

 ここまで読まれた,ブラウザに詳しい方は「タブ・ブラウザもボランティア開発も,Mozillaの専売特許ではない」と思われたかもしれない。まさにその通りで,Internet Explorerのコアを利用した多くのタブ・ブラウザが,ボランティアの手により開発されている。例えば,日本人の手によるSleipnirは,非常に完成度の高いタブ・ブラウザである。

 Mozillaでも,同様にそのコアを利用したWebブラウザが別のグループにより開発されている。日本人グループにより開発されている風博士は,RSSリーダーとの統合を目指すプロジェクトだ。

 Firefox/Mozilla自体もプラグインにより機能を拡張し,テーマにより外観をカスタマイズできるようになっている。プラグインにはマウス・ジェスチャや画像拡大,Googleメールのチェック,天気や辞書ツールバーなどなど,100近いモジュールが登録されている。

25万ドルを集めた草の根マーケティング

 Firefoxにはボランティアによるマーケティング・プロジェクトもある。このプロジェクトは,SpreadFirefox.com(Firefoxを広めよう.com)というサイトで行われている。Firefoxの広告を米大手新聞New York Timesに全面広告として掲載するプロジェクトには,25万ドル(約2600万円)が集まったという。

 Marketing Ideasというフォーラムでは,Firefoxを広めるためのグッズやソフトウエアなどのアイデアが話し合われ,いくつものアイデアが実現に向け動き出している。マーケティングというより,“お祭り騒ぎ”に近いかもしれない。実際にFirefoxの正式リリースを祝う100以上のパーティが開催されたという。日本でも,ユーザー・コミュニティ「もじら組」がイベントや情報提供などを行ってきた。

 もちろん,Firefoxが普及するためにはまだいくつものハードルがある。企業情報システムで問題になるのはInternet Explorerとの互換性だろう。Mozilla/FirefoxとInternet Explorerには,JavaScriptやCSSなどに細かい挙動の違いがある。すでにInternet Exlplorerを前提に構築しているイントラネット・アプリケーションの中には同じように動かないものも出てくる。Mozilla Foundationの技術部門のChris Hofmann氏も「MozillaやFirefoxを導入したユーザーの中にも,非互換性のためにInternet Explorerも継続して使用せざるを得ないユーザーもいる」と認める。そして「Mozilla FoundationとしてInternet Explorerとの非互換性に対処していく」と語る(関連記事)。

 また,開発に貢献するエンジニアも決して余っているわけではない。特に国際化を行うエンジニアは不足しており,Mozilla Japanでは,現在協力者を募集している。

 Firefoxがこれだけの支援を集めている理由は,Webブラウザという,ユーザーに身近なソフトウエアであることだけではないように思える。オープンソースという言葉や戦略が認知されるようになったのは,NetscapeがNavigatorのソース・コードを公開したことに始まる。ある意味で Linux以上にオープンソースを象徴するソフトウエアがMozillaとFirefoxなのである。

(高橋 信頼=IT Pro)

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