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ハイテクで文書偽造が容易に――「ブッシュ文書」で話題【hotwired】
http://hotwired.goo.ne.jp/news/news/culture/story/20040915201.html
Randy Dotinga
2004年9月11日 2:00am PT 最近公開されたジョージ・W・ブッシュ米大統領に関する32年前の米州軍の覚書が、専門家がにらんでいるように『Microsoft Word』(マイクロソフト・ワード)を使って書かれたものだとすれば、それは近年の偽造の歴史上、とりわけ低いレベルの文書として際立っているということになる。複数の文書鑑定家は今週、『タイムズ・ニュー・ローマン』のフォントから上付き文字まで、時代に合っていないと思われる証拠を次々と指摘しはじめた。
だが、1970年代初期ではなく21世紀に作られた文書を装うという場合、話は大分違ってくる。安いプリンターやスキャナーの登場によって、いわゆる「カット・アンド・ペースト」によって作られる偽造文書を見破ることはほとんど不可能になった。偽造を発見しようとする人間の前に、テクノロジーが新たな壁となって立ち塞がる。4色印刷のできる印刷機に近づける人間が限られていた時代と違い、高性能プリンターを使えば誰でも簡単に偽造ができるし、銀行が支払い済み小切手の現物の代わりにスキャン映像に頼りはじめている今、文書鑑定家は新たな問題に立ち向かうことになる。
しかし、気が休まる話もある。米アライアンス・フォレンシック・サービス社(カリフォルニア州エスコンディード)のオーナーで文書鑑定家でもあるマニー・ゴンザレス氏は、「偽造文書の多くは手際の悪い人間によって作られている。彼らの大半は、それほど鋭敏な連中ではない」と語る。
文書偽造という闇の世界にスポットライトがあたったのは9日(米国時間)のこと。その前日、CBSテレビがブッシュ大統領の兵役に関するニュースを放送し、1972年と1973年にテキサス州空軍の当時の上官がタイプライターで書いたとされる、部下のブッシュ氏に批判的な内容の覚書の写真コピーを公開した。CBSは、この覚書をウェブサイトに掲載し、ある鑑定家から文書は本物らしいという鑑定結果を得ていると主張したが、ブログ界がすぐにその真贋を問題視し始め、これを受けAP通信や『ワシントン・ポスト』紙(要登録)の記者を含むジャーナリストたちが、覚書についての追跡調査を開始した。
いくつか疑問点があるなか、懐疑派はまず、この文書に上付き文字が使用されている点を指摘した。たとえば、「111th Fighter Interceptor Squadron」(第111要撃戦闘機部隊)のように、thが上付きになっている部分が2ヵ所ある。Wordのような最近のパソコン用ソフトウェアでは自動的にこのように表記するよう書式を設定できるが、伝えられるところでは、30年以上前のごく普通のタイプライターではこういう処理はできなかったという。もう1つの怪しい点は、使用されているフォントがタイムズ・ニュー・ローマン(あるいは『タイムズ・ローマン』――この2つのフォントをめぐる複雑な歴史を知っているかどうかで呼び方が異なる――になっていることと、プロポーショナル・スペーシングが行なわれていることだ(それぞれの文字の大きさによって印字幅が変わる方式で、iよりwの方が印字幅が広くなる)。
一部のアマチュアとプロの文書鑑定家によると、フォントもプロポーショナル・スペーシングも、司令官がこの覚書を書いたとされる時代には一般に利用されていなかったものだという。議論はオンラインで続き、現時点では、覚書が実際に本物である可能性はある、とする意見も出ている。CBSは、その後複数の専門家に鑑定を受けたと言い、報道の信憑性を主張している。
ウェブサイトに掲載された覚書のコピーだけが唯一の手がかりなので、文書鑑定家も紙の種類や透かし、インクなどを調べて、本当に1972年に使われていたものかどうかを判断することができない。また、それが本当にタイプライターで打たれたものか、コンピューターで作った文書をプリンターで印刷したものかも判別できない。タイプライターで打ったものなら紙がへこんでいるはずだし、プリンターで印刷したものなら紙の表面にインクがのっているのがわかる。CBSが覚書の原本を持っているのか、あるいはコピーしかないのかも、今のところウェブサイトには明示されていない。
文書偽造者は長年、手近で便利な道具として複写機を利用してきた。かつては1つの文書から署名を切り取って別の文書(遺言状や契約書など)に貼り付け、それを複写機にかけてコピーを作ったものだ、と米シグナスキャン社(カリフォルニア州アナハイム)のオーナーで文書鑑定家のジョン・F・サーラネック氏は語る。偽造者は、こうしてできたコピーを正式書類として提出しようとする。
しかし、このやり方はうまくいかなかった。「たいていの場合、切って貼り付けた部分の周囲に黒い影ができてしまう」とサーラネック氏。「書類を倍率の高い拡大鏡で見るとそれがすぐわかる。本当に抜け目なく繰り返しコピーしない限り、その影は消えない」
米アドビシステムズ社の『Photoshop』(フォトショップ)をはじめとするグラフィック・デザイン用ソフトウェアの登場により、文書偽造はやりやすくなった。「コンピューターを使って(文書を)修正しプリンターで印刷する。変更したとすぐにわかる痕跡は何も残らない」とサーラネック氏。
それでも、Photoshopで偽造された文書を見破る方法はいくつかある。そもそも署名は寸分たがわず毎回同じということはないので、「モデル」となった署名――偽造コピーの元になった本物の署名――を鑑定家が持っていれば、完全に一致するサインが偽物だと判断できる。
しかし、多くの場合、原本でない文書が本物か偽物かを区別することは不可能だ、とカリフォルニア州バークレー在住の文書鑑定家で米連邦捜査局(FBI)の元捜査官、ゲリー・ハーバートソン氏は説明する。「文書鑑定者の手もとにあるのが、2次コピーや写真、コンピューターでプリントアウトしたものばかりで、原本を見たことがないという状況なら、明確な結論を出せないだろうと思う」
ハーバートソン氏の言うことが正しければ、コピーの真贋の見分けにくさが銀行業界に大きなトラブルを引き起こすかも知れない。来月施行される予定の米連邦法『チェック21』では、銀行が小切手を扱う際、その場で画像をスキャンすれば小切手自体を保管せず処分してもいいことになっている。これは、たとえば別のインクを使って金額を100ドルを1000ドルに変えていないかどうか、署名が本物かどうかを、捜査員が小切手の原本を目で見てチェックできなくなるということを意味する。
こうした数々の障害にもかかわらず、文書鑑定家たちは、自分たちがまだ偽造者に先んじていると考えている。カリフォルニア州司法局で問題文書の鑑定を行なっているニック・レオナード氏はこう話す。「コンピューターが文書偽造のさまざまな新しい手法を開拓したことは事実だ。だが、偽造の質が必ずしもよくなったわけではない。偽造が少ししやすくなったに過ぎない」
さらに、テクノロジーは偽造をする側とそれを見破る側、両方の役に立つが、だます方の人間は依然として旧式のやり方に依存せざるを得ない場合もある。「コンピューターでは500年前のインクを作り出すことはできない」と、ハーバートソン氏は言う。「500年前のインクのように見えるものを作ることはできるが、結局はプリンターを使った印刷物にしかならない」
つまり、『グーテンベルク聖書』[15世紀に活版印刷技術を発明したグーテンベルクが印刷した聖書]の贋作を作ってやろうなどと考えたとしても、『iBook』にセイコーエプソンのプリンターでは到底無理な話だということだ。
[日本語版:藤原聡美/高森郁哉]