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イチロー:米国人の心を揺さぶる
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「イチロー、僕を助けて!」。イチローに心酔する少年は、気が動転しそうになるとそう叫ぶ。動じないヒーロー。それがファンの心をつかむ=テキサス州のボールパーク・イン・アーリントンで25日、竹内幹写す
【オークランド國枝すみれ】米大リーグ・マリナーズのイチロー選手が、人々の思いを紡ぐ。シーズン最多安打という84年間破られなかった記録への挑戦。人種、信条を異にする米国人たちが、それぞれの思いで声援を送る。鮮やかなヒットでこの日も応えた30歳の日本人は、米国の人たちの心を確かにとらえている。
気温15度。27日、ナイターで地元アスレチックス戦が行われたオークランドの球場は、試合途中で小雨が降り始めた。1万7200人の観客のほとんどが、アスレチックスファンだ。イチロー選手も打席に入る度にブーイングに迎えられたが、七回にシーズン252本目のヒットを打った時は称賛の拍手が沸いた。
熱中するのは、若い世代ばかりではない。
マリナーズの地元ワシントン州の農村から駆けつけたシド・マーシャルさん(59)とシェリーさん(57)夫妻。30年間、牧草をつくってきたが、4人の子どもは町へ出てアナウンサーや教師になった。後継者はいない。「潮時だ」と、年末に140ヘクタールの農地を売却して引退する決意をした。
やはりワシントン州からイチロー選手を追って移動するモナ・ビービィさんら53〜66歳の女性5人は、夫たちに留守を任せ、連日、球場で声をからす。野球のないシーズンオフのことを思うと、落ち込んでしまうという。
彼ら、彼女らが、イチロー選手に共感し、夢見るものは、何か。
記録を持つジョージ・シスラー選手の孫、ボー・ドロケルマンさん(58)は27日、語った。「懸命に努力し結果を出せば、評価される。私たちが信じていたアメリカ本来の価値観が、実現されているようだ」
記者は、日本人がメジャー記録を破ることについて、反発があるのではないかと、思っていた。しかし、イチロー選手は愛されていた。米国人は、誰も日本人が記録を破ることを気にしていなかった。
大柄のメジャーリーガーの中で、きゃしゃに映るイチロー選手。打ったとき、球場全体に沸き上がるような歓声。
強い者が好き。強い者こそ価値がある。今の米国の空気が、感じられた。
ビービィさんは言う。「毎回、驚かせてくれる。必ずエンターテインメントを提供してくれる」。米国人は、それがどれだけ大変なことであるかを知っている。
シスラー選手の記録は、第一次大戦直後の1920年。まだ大リーグが有色人種に門戸を閉ざしていた「白人リーグ」の時代だった。シスラーが死んだ年に生まれたイチロー選手が、今、記録にあと5本まで迫る。今年の開幕時、米国以外で生まれた選手はメジャーの27%を占めた。
◆「イチローになりたいんだ」
夢を求めて、人は野球場に足を運ぶ。自らの日常、人生を、選手たちのプレーに重ね、心を揺さぶられる。
大記録へ向けてひた走るイチロー選手(30)は、今、メジャーリーグの夢の主役だ。活躍に沸く客席に、さまざまな米国人の人生があった。26、27の両日、テキサス州アーリントンとカリフォルニア州オークランドの球場で、多くの観客と触れ合った。
いつの時代も、野球のスター選手は、少年の心をわしづかみにする。
ブラックストン・ピット君(10)は、初めて生で見るイチロー選手の一挙手一投足に目を凝らしていた。インターネットで買ったマリナーズの野球帽にシャツ姿。イチロー選手の背番号「51」が入ったグラブをはめていた。
打席でバットを持った腕を投手の方に真っすぐ伸ばすイチロー選手独特の仕草。米国でもまねる野球少年が増えている。ピット君もその一人だ。
「失敗しても、ピンチのときも、いつも冷静。すごくかっこいいよ。イチローみたいになりたいんだ」。大嫌いな算数の宿題でいらいらすると、壁に張ったイチロー選手の写真の前に行く。
「イチローだったらこんな時どうするかを考えて頭を冷やし、机に戻ってまた挑戦するんだ」
◇
しかし、大人たちの目には、子供たちとは別のイチロー像がある。そこには、今の米国社会の明と暗が、微妙に映っている。
共和党支持者の2人にスタンドで出会った。彼らがイチロー選手に見るのは、「強さ」だった。
オークランドの球場にいたグラント・タブチさん(37)は、日系4世。テコンドー道場を二つ持ち、週500人の生徒に武道を教える。「イチローは、アジア人は小さくて、弱いという印象を変えた」と思っている。
ブッシュ大統領の熱烈な支持者だ。「道場は、誰の力も借りずに発展させた。成功しなかった人間が他人の荷物になるべきではない。自分で努力しろ」と主張する。
ジェフ・ロビンさん(42)も、ブッシュ大統領の支持者だった。空軍除隊後、民間航空会社のパイロットになった。大統領は強さの象徴という。「同時多発テロ以降、米国には強い指導者が必要だ。米国人は強い人間が好きだ。だからみんなイチローが好きだ。その業界で最高の人間が好きなんだ」と言った。
こうした強者信仰のような空気に、違和感を持つ人たちもいた。
サンフランシスコ市の大学生、ジニール・アンチェラさん(22)は、洋服デザイナーを目指している。「イチローは小さくてかわいい」。シアトルを訪ねたとき、欲しかったイチロー人形が売り切れていたため、仕方なく買ったマリナーズのTシャツの上にセーターを着込んでいた。
大統領選やイラク戦争は重要だとは思うが、遠い世界の出来事だ。「自分が民主党支持者か、共和党支持者なのかも分からない。カリフォルニアは自己主張が強いタイプがたくさんいて、私を強引に説得しようとするの。でも私は、自分がじっくり発酵するまで待ちたい」と話した。
日本語で「イチロー」と書かれたTシャツ姿のギルバート・マルティネスさん(34)は、大学でメディア論を教えている。父はメキシコ系米国人、母が沖縄出身の日本人だ。イチロー選手のひたむきさが、好きだ。
空軍兵士の父は、沖縄で店員の母と出会った。95年、母と2人で沖縄を初めて訪ねた。終戦時4歳だった母は、それまで沖縄戦について多くを語らなかったが、この時、マルティネスさんをある丘に連れて行った。伯母が「米兵と日本兵の両方から、私たちが逃げて隠れた場所よ」と教えてくれた。母が胃がんで死んだのは、その年だった。
マルティネスさんは、今、テロ対策、戦争、安全保障がすべてに優先される米国社会の雰囲気に、危機感を覚える。11月の大統領選も気がかりだ。
歓声に沸く野球場。「イチローを誇りに思う」と話すマルティネスさんは、こう言った。
「母の気持ちが今、よく分かる。戦争は最後の手段であるべきだ」
毎日新聞 2004年9月29日 1時51分
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ひたむきに野球街道を突っ走るイチローは脱帽です。
なんせ80年ぶりの記録更新にあと「5」だから。
それでもプロとしてのイチローの姿には基本に忠実な高校野球のひたむきさを感じる。素人っぽいんだよね。
英語のイチローコールは「イ」にアクセントがある。
権力志向の方々にはイチローの強さに惹かれるそうだが、野球は18人で点を取り合う平和なゲームに過ぎない。キューバでも国技だろ。今は不調だけども往時のタイガーウッズみたいなもの。
別の見方をすれば、イチローは阪神大震災でうちひしがれた人々に感動を与えてくれていた。私もイチローの動きを見聞きするだけでほっとしていたものだ。子どもたちもブルーウェエーブズ(BW)の試合は、近いことと入場券が入手しやすいことででグリーンスタジアムまで見に行っていた。
大リーガーとしてのイチローもBWのころとまったく変わりない。
風呂屋でテレビをみたら、すでにイチローの記録達成へ向けて、イチローの打席用に特殊な文字を書き込んだボールが使われているらしい。ヒットを打つごとにそれは保存される。ただし観客席に入ったファウルボールは客のものとなる。ものすごい価値を生ずるらしい。