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一億総無責任時代の中の“自己責任”の大合唱にはゾッとするな
人質ではないが、私も24歳の時、インドのマンディという中国国境に近いところで拘束されたことがある。
うっかりビザの期限が切れているのに気づかず、前日カウンターで提示したパスポートを見た宿の人間が警察に通報したのである。翌朝まだ夜がしらみはじめるころ、寝入っているとドアの向こうでいくつもの靴音がして、突然ドアがけたたましく開いた。
5人のポリスが雪崩れ込んできて、下着のまま私を部屋の真ん中に立たせ、後ろ手に縛った。リュックの中身をベッドの上に広げ、マッチ箱の中まで点検する念の入れよう。
パスポートの顔と私の顔を執拗に見比べる。悪いことに長い旅の中で私の人相は変わっていた。当時中印国境は緊張しており、どうやら私は日本人の期限切れのパスポートを盗んで潜伏している中国のスパイの嫌疑をかけられているらしい。
運が良かったのはそれまで持ち歩いていたショットガンを1ヶ月前にカシミールで売り払っていたことだ。当然インドにおいても火器などの所有は日本同様法的に厳しく禁止されているから、もしその時に私がショットガンを持っていれば、ひょっとしたら以降の運命が変わっていたかもしれない。
20日間拘束された。
ひとくちに20日間というが、身体の自由を奪われ、自分の身がこの先どのようになるのかもわからない20日間というのは本当に辛く長い。3、4日は緊張しているために、あっという間に過ぎるが、以降は日々が急に長くなり、徐々に地獄の底に引きずり込まれるような暗澹たる気分が襲ってくる。
私の場合は一所に収監されたのではなく、数日ごとにさまざまな場所を移動させられた。管轄が軍と警察の両方にまたがっているからである。10日目くらいにひどい下痢にかかり、ふらふらになりながら、酷暑の道を歩かされた。
最終的には嫌疑は晴れ、軍の幹部の部屋に通され、髭面のシーク族の偉そうな男の机の前に立たされ、書類にサインをした。
そこには「1週間以内にニューデリーより本国に帰国のこと」と書かれていた。
サインをすると、シークの大男はこれみよがしにドン!ドン!と机の音が部屋中に響きわたるような大きな音を立ててハンコを押し、あごをしゃくって出て行けと言った。
軍の建物を出ると、誰も私の後に続く者は居ず、急にたった一人になったことが不思議だった。誰かが見張っているかも知れないと私はその足で長距離のバス発着場に向かい、ニューデリー行きのバスに乗った。
バスが走りはじめると自由と開放感が押し寄せて来た、車窓の風景がこの世のものとは思えないほど美しく見え、知らぬ間にぽろぽろと涙を流していた。
私はニューデリーに着くとパスポートの提示を求めない木賃宿に向かった。2泊ほどゆっくりと体を休め、次の日の朝、軍の書類を破って燃やした。そして長距離列車に乗り、南インドへと旅立った。
もしあそこで命令に従って日本に帰っていたら、今の自分はなかったのではいかと思う。
旅は自業自得。
当然のごとく自己のことは自分で責任を取らねばならない。
分かり切っていることだ。
しかし、今回のイラクの人質問題で突然のごとく巻き上がった「自己責任」という大合唱。このしたり顔の良識めいたもの言いは一体何だ。
そんなもんてめえらが偉そうに言わんでも百も承知じゃわい。このドアホが!
たしかに慌てふためいた家族の言動には不備がなかったとは言えない(降って涌いた急場において血の昇った一介の人間としてこれはいたしかたがないことだ)。しかし少なくともあの3人は自己責任を自覚していたと見る。というのは今回ばかりは命を落とすかも知れないという危惧を持ちながらイラクに赴いている。
「最良の自己責任とは自分の命を担保とすることなのである」。
そのような自己責任を取れる者が「自己責任!自己責任!」と合唱する人の中に一体何人いるのかね。
少なくともビールの一杯もやって夕飯を飽食したあとにテレビを見ながら「自己責任」なぞとほざいている平和ボケ、もしくはビジネスライクなご託宣を述べて悦に入っている人間より、あの3人の方がちったぁましに生きているんじゃないかな。
もう一つ言えば、この大合唱には今日の教育現場で顕著な同調圧力の卑屈さと同質のものを感じる。みな一律同じことをやり、ちょっとでもその同調の和音を崩そうとするような単独行動をする人間が現れると寄ってたかってイジメるというあれだ。インターネットで嵐のごとく飛び交う人質や家族に対する誹謗中傷はまさにこのメンタリティ以外のなにものでもない。
それから今回“ドジを踏んだ(若くてドジを踏むことはいいことだ)”ことで、一歩大人になったであろう3人の若い人よ。
あの時の俺のように、いかなるプレッシャーにも負けず、そしてドあつかましく、そうしたいと思っているのならまたしょうこりもなく、同じことをやりなさい。
そしてまた失敗し、一歩一歩本当の大人に近づきなさい。
http://www.fujiwarashinya.com/talk/2004_0416.html