現在地 HOME > 掲示板 > 不安と不健康9 > 567.html ★阿修羅♪ |
|
Tweet |
本紙掲載2005年01月09日
ピーター・リトル著 遺伝子と運命―夢と悪夢の分岐点
カール・ポランニー著 経済と文明
宮島喬著 ヨーロッパ市民の誕生
昨年五月、松山市。内閣府の主催で開かれた「教育改革タウンミーティング」で、宇宙飛行士の毛利衛氏が口走った。
「ヒトゲノム、私たちの体を作っている遺伝子情報がすべて読みとられた。その差は残念ながら持って生まれた遺伝子の組み合わせの差だ」
事実には違いない。だが、教育の分野で強調されると、差別を正当化する材料に使われやすい論理である。「いずれは就学時に遺伝子検査を行う形になる」と、他ならぬ江崎玲於奈・教育改革国民会議座長に筆者が聞かされてから、もう四年半が過ぎた。才能のない子に勉強させても国費の無駄、というわけだ。
当然のことながら、人間の才能も体質も、いわんや運命が、それほど単純であるはずもない。『遺伝子と運命』が、ヒトゲノム時代にも人間の尊厳を奪われないための、貴重な示唆を与えてくれる。
――二〇二〇年夏、プロスペラスタウン(繁栄の町)とプアズヴィル(貧乏の村)で、それぞれ女の子が生まれた。DNA検査の結果では同じ運命を辿(たど)っていてもおかしくなかった彼女たちは、しかし対極の人生を歩んでいく。ジェーン・ドリームの夢のような百二十年と、ジーン・バトラーの悪夢のような二十八年とを隔てたものは何であったか?
分子遺伝学のオーソリティーによる近未来シミュレーションと精緻(せいち)な解説が楽しい。著者とともに真実に近づけば、ナチスもどきの優生主義者たちの跋扈(ばっこ)に改めて慄然(りつぜん)とさせられる。現場百遍の精励プラス、何者にも騙(だま)されないだけの知性を身につけたい。いてもたってもいられなくなって、柄にもない思索のための書物を手に取ってみた。
『経済と文明』は、十八世紀西アフリカのダホメ王国に材を取った、市場経済に支配されていない社会の制度と原理についての論考だ。難解なので直ちに腑(ふ)に落ちたとも言えないが、社会の仕組みと人間存在のありようとの不可分性を見せつけられた感がある。
地域統合や分権化、移民・難民の流入、定住化などが進む欧州の実像を描いた『ヨーロッパ市民の誕生』にはワクワクした。放置しておけば階層化され分断されていく一方の“シティズンシップ”を、いかにまっとうに構築していくか。これからの日本にとっても重要な課題だ。
(ジャーナリスト)
http://book.asahi.com/review/index.php?info=d&no=7398