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12月21日(ブルームバーグ):米医薬品2位のメルクが開発・販売を担っていた鎮痛薬「バイオックス(商品名)」の自主回収−−。医薬品の潜在的な副作用リスクをめぐる動揺が、医薬品企業1社にとどまらず、業界全体に波及している。17日(米国時間)には米ファイザーの鎮痛薬「セレブレックス」や米イーライ・リリーの注意欠損多動性障害治療薬「ストラテラ」などの副作用問題が相次いで発覚、事態は新たな局面に突入した。
国内でも20日午後に製薬最大手の武田薬品工業が、次の大型新薬と位置付けていた糖尿病治療薬「TAK−559」について、開発を中断すると発表。米国で実施していた第3相(フェーズ3)の臨床試験で、肝機能検査値に異常が出たことを理由に、同薬の今後の開発方針を見直すことになった。
医薬品業界を担当する証券アナリストの間では、TAK−559について、「少数例とはいえ、ヒトで肝機能値の異常が出た影響は大きい」(みずほ証券の田中洋シニアアナリスト)との声が多く、TAK−559の開発プロジェクトの先行きに懸念を示す向きが多い。
UBS証券の小野塚昌之アナリストは、20日付の投資家向けメモのなかで、「新薬パイプライン(品ぞろえ)の拡充による武田薬の成長シナリオが描きにくくなりつつある」と指摘している。
「すべての物質は毒であり、毒でないものはあり得ない。まさに用量が毒と薬を区別する」(独科学者のパラケルスス、1538年)−−。薬学部の学生が最初の授業で必ず習うといわれる薬業界の箴言によれば、薬にはその用法用量によってベネフィット(恩恵)とリスク(危険性)が存在する。
医薬品メーカーに課せられた務めは、臨床試験や市販後の処方データなどで得られた情報を、迅速に審査当局や当該薬品の服用を続ける患者に伝えること。一見すると一連の副作用リスク問題は「あくまで製品ごとの個別の問題」(BNPパリバ証券・株式クライアントコンサルティング部の北村友和シニアアナリスト)にみえるが、企業のIR(インベスターリレーションズ:投資家との対話)姿勢を問う好機ととらえることも可能だ。
「安全性重視が米国食品医薬品局(FDA)のキーワード」(野村証券金融経済研究所の漆原良一アナリスト)となったいま、医薬品企業にはこれまで以上に厳しい視線にさらされる見込み。それだけに、医薬品メーカーの社会的責任が一段と問われるようになったことをメーカー側がしっかり認識し、迅速な対応を取ることがこれまで以上に求められている。
バックアップ候補品を持つ武田薬
武田薬の動きは少なくとも20日以降に限っては迅速だった。複数の証券アナリストによると、同日朝方にコーポレート・コミュニケーション部やIR部門には、TAK- 559の開発中断の情報は入っていなかったが、午後に開発中断の方針が固まると午後3時の公表に間に合うように、ニュースリリースを作成した。
TAK?559は、2003年度に世界で1777億円を売り上げた糖尿病治療薬「アクトス」の後継品と位置付けられる医薬品で、欧米で臨床試験の最終段階である第3相(フェーズ3)を実施していた。日本でもフェーズ1実施中。
武田薬はTAK-559以外に同系統の「TAK-654」という候補化合物を有する。TAK-654については現在、米国でフェーズ2、日本でフェーズ1を実施しており、今後はTAK-559、TAK-654の安全性データなどを比較検討しながら、より安全だと思われる候補化合物の開発に注力するとみられる。
野村証券金融経済研究所の漆原良一アナリストは、「2011年11月にアクトスのパテント(特許権などの知的財産)が切れる。それまでに654の開発を終え、承認発売にこぎつけることができるかどうか」が今後の武田薬に対する投資上の注目点だと語る。
三共「ノスカール」からの教訓
TAK−559は、グリタゾン系と呼ばれる糖尿病薬で、その作用メカニズムから「PPAR作動薬」と分類されている。現在、市販されているPPAR作動薬は、武田薬の「アクトス」と英製薬最大手グラクソ・スミスクラインの「アバンディア」のみだが、実は世界で初めてPPAR作動薬を商品化したのは日本の三共だった。
日本で「ノスカール」、米国で「レズリン」という商品名で販売されたこの糖尿病治療薬は、97年以降、日本や米国などの13カ国で続々と承認発売された。米国ではファイザー(旧ワーナー・ランバート)、欧州ではグラクソ・スミスクライン(旧グラクソ・ウェルカム)が販売を担っていた。
三共は当時、海外での自社販売網を築けず、欧米の製薬大手にノスカールの販売を委託。自社が発見・つくり出した製品にもかかわらず、海外での副作用情報や審査当局とのやり取りについては、ワーナーやグラクソの報告を待つ以外に情報を収集するすべがなかった。
一方、ワーナー側は、トログリタゾンの副作用問題について「肝機能障害に関連した死亡が起きる度合いは5万7000人に1人程度」と、安全性を強調。副作用リスクを再三報道した米ロサンゼルス・タイムズ紙などに反論を行ったが、結局は2000年3月に米国での販売を中止。ワーナーの決定を受けて、三共が同3月に国内販売を断念するという事態に追い込まれた。
慎重になる審査当局
「現在のFDAの組織構成では米国を第2、第3のバイオックスの危険から守るのは不可能だと言わざるを得ない」−−。米上院財政委員会が11月18日に開催したメルクの「バイオックス」回収問題に関する公聴会で、証言を求められた米食品医薬品局(FDA)の研究者であるデービッド・グラハム氏は、自らの所属するFDAに対して、強い警鐘を鳴らした。
FDAは現在、医薬品安全監督部門と新薬承認部門の両方を監督する組織構成になっている。グラハム氏によると、新薬部門は同部門が米国販売を承認した医薬品に関する批判を頻繁に受け付けなかったと言い、医薬品安全部門の高官は「暗黙のうちに、もしくは積極的に、新薬部門の要求に追従してきた」という。
1999年に米国発売されたメルクのバイオックスは、5年間で累計約2000万人に処方されたとみられており、2003年の売上高は25億ドルに上った。
グラハム氏は、公聴会でバイオックス服用で8万8000〜13万9000人が何らかの損害を受けたと説明。2万7785人の心臓発作や死亡につながったという。
FDAの機構改革が、欧州や日本の医薬品行政に変化を促すのは必至。今後はより一層、審査の厳格化が求められそうだ。またバイオックス問題を機に患者団体が製薬メーカーを提訴する動きも出ており、「医薬品業界は大型医薬品の安全性をめぐる係争を抱え込んでしまった」(ノーザン・トラストの株式調査責任者ジム・マクドナルド氏)。
医薬品の安全性に対する関心が高まることで、日本の審査当局が新薬の安全性や厳格性を重視するあまり、審査に対して「および腰になってしまうと、新薬審査の遅延リスクも高まる」(BNPパリバ証券株式クライアント・コンサルティング部の北村友和部長)可能性もある。
武田薬の株価午前終値は、前日比170円(3.3%)安の5020円。
記事に関する記者への問い合わせ先:
東京 鷺池秀樹 Hideki Sagiike hsagiike@bloomberg.net
記事に関するエディターへの問い合わせ先:
崎濱 秀磨 Hidekiyo Sakihama ksakihama@bloomberg.net
Peter Hannam phannam@bloomberg.net
更新日時 : 2004/12/21 13:09 JST
http://www.bloomberg.co.jp/news/commentary.html