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(回答先: 混合診療 反対派が巻き返し 政府・与党、無制限の解禁批判(産経新聞) 投稿者 シジミ 日時 2004 年 12 月 01 日 08:13:43)
二木教授の論文二本です 1)首都圏の長期入院患者の平均保険外負担は、、、 2)混合診療の部分解禁=、、、
(BCCでお送りします。出所を明示していただければ、ご自由に引用・転送してい
ただいて結構ですが、無断引用は固くお断りいたします。)
今回お送りするのは、『文化連情報』12月号(12月1日発行)に掲載した、「二
木教授の医療時評(その5)−首都圏の長期入院患者の平均保険外負担は1月当たり
10万円前後」です。
この小論は、別にお送りした第3回日本医療経営学会シンポジウム報告「混合診療の
部分解禁=特定療養費制度拡大と『患者の視点に立った医療と経営』」でも、「特定
療養費制度を拡大しても、医療費・病院収益の大幅増加はない」「第1の追加的理
由」(傍証)および「実質的な混合診療」として、引用しました。
二木 立 (にき・りゅう)
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「二木教授の医療時評(その5)」
『文化連情報』2004年12月号(321号):24−25頁
首都圏の長期入院患者の平均保険外負担は1月当たり 10万円前後
二木 立(日本福祉大学教授・社会福祉学部長)
二〇〇六年に予定されている医療保険制度改革(高齢者医療保険制度の創設を含む)の議論は混迷を続け、このままでは改革そのものが行われない可能性が強まっています。他面、厚生労働省は最低限患者負担増だけは実施しようと具体的検討を開始しています。例えば、「日本経済新聞」(一〇月一日)朝刊は一面トップで、「長期療養入院 食住費、自己負担に−高齢者対象厚労省方針 月五万円程度」と報じました。
このような患者負担増の根拠としては、在宅患者に比べて入院患者の負担が少ないことがあげられています。しかし、この主張は長期入院の高齢患者(特に大都市部の)が多額の保険外負担を支払っている事実を無視しています。最近発表された二つの調査により、首都圏の長期入院患者は法定負担(医療費の自己負担分プラス食費負担)約七万円に加えて、一〇万円前後の法定外負担を支払っていることが、改めて明らかにされました。
〜〜 『タッチ』4号の調査
一つは、川崎市の市民団体「タッチ編集委員会」(鈴木恵子代表)が発行している介護サービス利用者のためのガイドブック『タッチ』四号です。これには、この団体が郵送調査と訪問調査を併用して収集した、神奈川県と東京都の介護療養型病院、グループホーム、特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、有料老人ホームの利用者負担も含んだ、詳細な「施設紹介」が掲載されています。
介護療養型病院は五五病院が掲載され、うち四七病院の「一カ月入院費(法定負担+法定外負担)と「保険外自費払い料金」の内訳が分かります。
私が試算したところ、法定負担と法定外負担を合計した「1カ月入院費」の平均は一六・四万円でした。これから法定定負担約七万円を引くと、法定外負担は九・四万円になります。私が一九九二年に「老人病院等の保険外負担の全国調査」を行ったときは、「関東T(埼玉・千葉・東京・神奈川)の平均保険外負担は九・五万円で、これに当時の法定患者負担一・二万円を加えた、患者の一カ月実質自己負担額(『タッチ』の「一カ月入院費」に相当)は一〇・七万円でした(拙著『九十年代の医療と診療報酬』勁草書房、一九九二、一九八〜二三〇頁)。
つまり、この一二年間で、患者負担の総額は五割も増えたが、「保険外負担」はまったく変わらないことが分かります。
「一カ月入院費」は病院間格差が非常に大きく、最低は八万円(つまり保険外負担をほとんど徴収していない)、最高は三五万円でした。この病院は、四人部屋からも一日八〇〇〇円もの差額ベッド代を徴収しているため、このように高額になるそうです(しかも、差額のない大部屋はありません)。ただし、全患者から差額ベッド代を徴収していると思われる病院は三病院だけであり、他の病院の「一カ月入院費」には差額ベッド代は含まれません。このような病院の最高値は二二万円です(つまり保険外負担は一五万円)。
なお、この調査の要旨は、「日本経済新聞]八月六日夕刊の生活欄に紹介されています(浅川澄一「介護保険の老人病院−入院料は『不明朗』」)。
〜〜 転院問題を考える会『第二回転院調査報告書』
もう一つは、首都圏の医療ソーシャルワーカー(MSW)六人で構成する転院問題を考える会(高山俊雄代表)が、全国の医療ソーシャルワーカー(MSW)五五人の協力を得て行った、退院患者・家族に対するアンケート調査結果をまとめた『第二回転院調査報告書』です。
この調査では、各病院のMSWに二〇〇一年一月以降転院依頼があり、二〇〇一年一二月末までに転院が完了していた患者・家族五〇八件に対して郵送調査を行い、一九八件から回答を得ました(回答率三二・八%)。なお、調査協力MSW五五人のうち、三一人(五六・四%)が埼玉・千葉・東京・神奈川の病院に勤務しており、調査結果は主として首都圏の実態を反映すると判断できます。
調査項目は多岐にわたりますが、その中に「転院先で保険がきかない費用が一カ月いくらくらいかかりましたか?」という調査項目があります。それによると一〇万円未満がもっとも多く三六・五%ですが、一〇万円以上二〇万円未満も二五・一%あり、二〇万円以上が一一・四%ありました(最高は五〇万円以上。無回答は二六・九%)。各金額階級の中央値を用い、無回答を除いて、平均値を計算すると一二・七万円となります。これは上記『タッチ』の平均保険外負担九・四万円を三万円以上も上回ります。
この理由としては、この調査では保険外負担に差額ベッド代を含んでいる患者が少なくないためことが考えられます(残念ながら、内訳は調査されていません)。この保険外負担が現在も変わらないと仮定すると、現在の転院患者の一月当たり平均自己負担総額(保険外負担プラス法定負担七万円)はなんと一九・七万円に達します。
なお、調査結果全体の要旨は『社会保険旬報』八月一一日号(一一頁)に掲載されています。
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(BCCでお送りします。出所を明示していただければ、御自由に引用・転送してい
ただいて結構ですが、無断引用は固くお断りします。)
今回お送りするのは、12日3日(金)の第3回日本医療経営学会学術集会・シンポ
ジウムT「患者の視点に立った医療と経営」での、私の報告「混合診療の部分解禁=
特定療養費制度拡大と『患者の視点に立った医療と経営』−医療経済・政策学の
視点から」の口演原稿に加筆補正したものです(『日本医療経営学会・会誌特別号
(学術集会報告書)』掲載予定)。
混合診療と特定療養費制度拡大について、最近の動きを含めて、包括的に検討・
批判しています。
本論文の構成は、以下の通りです。
はじめに−本シンポジウムで混合診療・特定療養費制度を取りあげる理由
1.混合診療の全面解禁をめぐる論争の本質
○公的医療保険の給付水準(理念)の対立−「最適水準」説対「最低水準」説
○療養費制度と混合診療との異同
○混合診療解禁論の2つの不公正
2.混合診療の全面解禁がありえない6つの理由
○「特定療養費制度の見直し」で(再)妥協へ
3.特定療養費制度を拡大しても、医療費・病院収益の大幅増加はない7つの理由
○4つの理由
○3つの追加的理由
○例外は首都圏の民間ブランド病院
4.特定療養費制度の乱用・ルールなき拡大=「第3分類」の患者・医療機関への影
響
おわりに−混合診療解禁論争の2つの盲点
二木 立 (にき・りゅう)
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混合診療の部分解禁=特定療養費制度拡大と「患者の視点に立った医療と経営」
−医療経済・政策学の視点から
(2004年12日3日第3回日本医療経営学会学術集会・シンポジウムT
「患者の視点に立った医療と経営」での口演原稿に加筆補正。
『日本医療経営学会・会誌特別号(学術集会報告書)』掲載予定)
二木 立(日本福祉大学教授・社会福祉学部長)
はじめに−本シンポジウムで混合診療・特定療養費制度を取りあげる理由
まず、「患者の視点に立った医療と経営」と題するシンポジウムで、混合診療・特定療養費制度を取りあげる理由を述べます。
小泉首相が9月10日の経済財政諮問会議で混合診療解禁の方向を指示して以来、混合診療解禁論争が再燃しています。混合診療全面解禁の旗振り役である規制改革・民間開放推進会議は、それにより患者本位の医療が実現する、患者負担が軽減される、患者の多様なニーズに応えることができる、と主張しています。一方、病院経営者の中には、混合診療が病院の新たな収益源=経営改善の切り札になると期待している方もいます。
しかし「混合診療」あるいはそれの「全面解禁」は「スローガン語」です[1]。これは、アメリカの教育哲学者シェフラーが提唱した概念で、「意味が明確に規定されないまま発信され、受けとり手の側に解釈が委ねられているような、無責任な言語使用」を言います(宮寺晃夫氏による[2])。私は、「患者の視点」という表現にも、同じ傾向があると感じています。
なぜなら、後述するように、混合診療の全面解禁は不可能で、現実には特定療養費制度の拡大=混合診療の部分解禁しかありえないからです。そもそも、小泉首相は混合診療の全面解禁は指示していません。この点で、「小泉首相が、混合診療について『全面解禁する方向で年内に結論を出してほしい』と指示した」と2回も誤報した「読売新聞」の罪は重いと思います(9月11日朝刊=無署名、10月25日朝刊=本田麻由美記者)。医療関係者の中にも、この記事を真に受けて、「総理裁定で混合診療が全面解禁されるのではないか」と不安を抱いた方が少なくないからです。
それだけに、私は、特定療養費制度の拡大が医療と医療機関経営に何をもたらすかを冷静に検討する必要があると思い、本シンポジウムで取りあげることにしました。
本報告は、次の4つの柱で行います。第1に、混合診療の全面解禁をめぐる論争の本質について述べます。次に、混合診療の全面解禁がありえない理由を説明します。第3に、特定療養費制度を拡大しても、医療費・病院収益の大幅増加はない理由を述べます。第4に、特定療養費制度のルールなき拡大=「第3分類」の患者と医療機関への影響を考えます。最後に、混合診療解禁論争の2つの盲点を簡単に指摘して、報告を終わります。
〜〜 1.混合診療の全面解禁をめぐる論争の本質公的医療保険の給付水準(理念)の対立−
○「最適水準」説対「最低水準」説
私がもっとも強調したいことは、混合診療の全面解禁をめぐる論争の本質は、公的医療保険の給付水準(理念)の対立にあることです。具体的には、「最適水準」説と「最低水準」説との対立です[3:16]。
まず「最適水準」説とは、公的医療保険給付が「必要な最適量の医療を保障する」とするものであり、国内外の社会保障研究者の通説です。拙著『医療改革と病院』では、地主重美氏・福武直氏(1983年)等の諸説を紹介しました。その後、日本で初めてこれを主張したのは藤澤益夫氏(1968年)なことを、権丈善一氏から教えていただきました[4]。ここで見落としてならないことは、昨年3月の閣議決定「医療保険制度体系及び診療報酬体系に関する基本方針」が、政府の公式文書として初めて、「最適水準」説を確認したことです[3:15]:「社会保障として必要かつ十分な医療を確保しつつ、患者の視点から質が高く最適の医療が効率的に提供される」。
次に「最低水準」説は、規制改革派=医療分野への市場原理導入を目指す新自由主義派が主張しています。規制改革・民間開放推進会議の公式文書には、この表現は登場しませんが、八代尚宏同会議総括主査は、次のように明快に「最低水準」説を主張しています。保険診療で「生命にかかわる基礎的な医療は平等に保障されたうえで、特定の人々だけが自費負担を加えることで良い医療サービスを受けられる」ようにする[5:145])。八代氏の共同研究者の鈴木玲子氏も、「基礎的な医療サービスは公的保険で確保するとともに」「高所得者がアメリカ並みに自由に医療サービスを購入するようになる」と述べています[6:279,285]。さらに、宮内義彦規制改革・民間開放推進会議議長は、よりストレートに次のように発言しています。「[混合診療は]国民がもっとさまざまな医療を受けたければ、『健康保険はここまでですよ』、後は『自分でお支払いください』という形です。金持ち優遇だと批判されますが、金持ちでなくとも、高度医療を受けたければ、家を売ってでも受けるという選択をする人もいるでしょう」[7]。
つまり、規制改革派の「患者の視点」とは、患者一般の視点ではなく、「特定の人々」=「高所得者」である患者の視点なのです。これは、支払い能力(貧富の差)にかかわらず平等な医療を受けられるとする国民皆保険の理念を否定するものです。
○特定療養費制度と混合診療との異同
次に指摘したいことは、特定療養費制度と混合診療との異同です。特定療養費制度は、現物給付原則の枠内で例外的に混合診療を認めたものであり、管理された限定的混合診療と言えますが、混合診療の全面解禁とはまったく異なります。
例えば、高度先進医療は新規技術の保険適用までの過渡的制度です。それに対して、八代尚宏氏が明快に説明しているように、混合診療では、「公的保険の対象となる医療サービスの範囲を明確化し、それを超える医療部分には保険を適用しないという単純なルール」が適用され、それと「現行[特定療養費]制度との大きな違いは、将来、保険給付に含まれるまでの時限措置ではなく、永続的なものとすること」です[5:146-147]。
そのために、混合診療の全面解禁は新規医療技術の保険導入を阻害します。しかも、自由診療のみでは新規医療技術は普及しないため、「医療技術の進歩が遅れがちになる」のです。東大・京大・阪大の3病院長が11月22日に規制改革・民間開放推進会議に提出した要望書は、「特定療養費制度の適用認定には長期間を要し、医療技術の進歩が遅れがちになる」ことを理由にして、混合診療の導入を求めていますが、逆の結果を招きます。
○混合診療解禁論の2つの不公正
第1の柱の最後に、混合診療解禁論の2つの不公正について述べます。第1の不公正は倫理的不公正です。「混合診療の解禁によって、生命を救われる患者…は少なくない」との主張(鈴木玲子氏。[6:280])は、それを受けられない低所得患者の生命を軽視しています。 第2の不公正は経済的不公正で、高・中所得者が受ける混合診療の保険診療分の費用を低所得者も負担することです。この点については、李啓充氏が次のように、明快に批判しています。混合診療で「保険診療として給付される部分は、本来、自由診療分のコストを負担できない人々からも徴収した保険料が財源となっているのだから、『富める者には、皆から集めた保険料で援助する』一方で、『お金のない人からは保険料の取りっぱなし』になるのだから、これほど不公正な制度もない」[8:152]。
〜〜 2.混合診療の全面解禁がありえない6つの理由
次に、混合診療の全面解禁があり得ない理由を述べます。
私は、拙論「後期小泉政権の医療改革の展望」で、次の5つの理由をあげました[9]。
第1の理由は、混合診療の全面解禁のためには、現物給付原則と特定療養費制度を廃止する健康保険法の抜本改革が必要ですが、それは政治的不可能だからです。この点について、八代尚宏氏も次のように正確に主張しています。「混合診療が制度的に認知されるためには、…特定の診療のみに事実上の混合診療を認めている特定療養費制度を廃止することが基本となる」[5:146]。
第2の理由は、特定療養費制度は管理された限定的混合診療であり、それの拡大でも混合診療を解禁したとの解釈が可能だからです。
第3の理由は、厚生労働省と日本医師会は混合診療解禁には反対していますが、特定療養費制度の拡大には賛成していることです。
第4の理由は、混合診療全面解禁の旗振り役である宮内義彦規制改革・民間開放推進会議議長(オリックス会長)が、プロ野球の合併・再編問題で悪役となり、国民・政治家の支持を得られなくなっていることです。私は、拙論ではこれを「補助的理由」と書いたのですが、その後の新聞報道を見ていると、これを契機にして、規制改革・民間開放推進会議に対する国民や政治家の信頼は地に墜ちたようです。
第5の理由は、小泉首相が新しい厚生労働大臣に、自民党厚生労働部会長=厚生族の尾辻秀久議員を指名したことです。もし小泉首相が、本気で混合診療の全面解禁を考えていたとしたら、首相得意の「踏み絵人事」で規制改革推進派の厚生労働大臣を指名したはずです。尾辻大臣は、大臣就任直後(9月27日)の記者会見でこそ、小泉首相の意を受けて「個人的には混合診療の解禁には賛成である」と発言しましたが、ちょうど1カ月後の10月27日の衆議院厚生労働委員会では、厚生労働省の方針に沿って、「特定療養費制度の枠の範囲で考えている」と答弁し、軌道修正しています。
この拙論は、第2次小泉改造内閣が成立した直後の9月末に書きました。
その後2カ月間の動きを踏まえて、私は第6の理由を補足したいと思います。それは、混合診療解禁を強く主張している「読売新聞」と「日本経済新聞」を含めて、主な全国紙が社説で全面解禁には慎重な姿勢を表明していることです。例えば、「一口に混合診療といってもいろいろな方法がある」(「日経」9月18日)、「全面解禁は時期尚早ではないか」(「朝日」11月18日)、「今の段階で混合診療を全面的に解禁することは問題が多い」(「読売」11月20日)、です。この点は、ほんの2年前に、すべての全国紙が、医療特区での株式会社による病院経営を支持する社説等を発表したのと対照的です[3:134-135]。
○「特定療養費制度の見直し」で(再)妥協へ
以上6つの理由から、結局は、昨年の閣議決定通り、「特定療養費制度の見直し」=拡大で政府・与党内の(再)妥協が成立することは確実です。
そもそも、規制改革・民間開放推進会議が「中間とりまとめ」(8月3日)で示した「混合診療が容認されるべき具体例」の大半は、@現行制度ですでに費用徴収が認められているか、A特定療養費制度の柔軟な運用で対応可能か、Bすみやかに医療保険制度に組み込むべきものです。
〜 3.特定療養費制度を拡大しても、医療費・病院収益の大幅増加はない7つの理由
第3に、特定療養費制度を拡大しても、医療費・病院収益の大幅増加はない理由(正確に言えば傍証)を述べます。
○4つの理由 私は、拙論「混合診療と特定療養費制度」で、次の4つの理由をあげました[3:212-217]。
第1は、わが国の現実の患者負担率は世界一高いことです。医療経済研究機構の推計によると、それはすでに1998年に21.7%であり、米国の16.8%を4.9%ポイントも上回っていました。その後2002〜2003年にわが国の法定患者負担は引き上げられましたので、日米の格差がさらに拡大していることは確実です。ただし、韓国の患者負担割合はわが国より高いため、「世界一高い」という表現は、先進国に限定しても不正確であり、訂正します。
第2は、国民の7割が平等な給付に賛成し、混合診療に賛成の国民は2割弱にすぎないことです(日本医師会総合研究機構「第1回医療に関する国民意識調査」等)。ただし、病院勤務医では混合診療支持が5割近いことも見落とせません。
第3は、介護保険法は公私混合介護を制度化しましたが、それがほとんど進んでいないことです。具体的には、居宅サービス支給限度額を超える利用はわずか2%にすぎません。
第4は、1990年代に差額ベッドの規制緩和が進んだにもかかわらず、室料差額収入の医業収入に対する割合は漸減し続けていることです。医療法人病院では、1991年の2.0%から2001年には1.2%に低下しています。
○3つの追加的理由 さらに、本年には、特定療養費制度を拡大しても、医療費・病院収益の大幅増加はない理由(傍証)がさらに3つ付け加わりました。
第1の追加的理由は、川崎市の市民団体等の調査により、首都圏の老人病院(療養病床)の保険外負担が現在でも月平均10万円前後に達することが明らかになりましたが、意外なことにこの額は私が1992年に行った「老人病院等の保険外負担の全国調査」で得た数字と同水準なことです[10]。他面、同じ期間に1月当たりの法定負担は1.2万円から約7万円へと6倍も増加しているため、保険外負担と法定負担を合わせた患者負担総額は5割も増えています。このことは、所得水準が高い首都圏でさえ、患者負担が限界に達していることを示唆しています。
第2の追加的理由は、セコム損害保険が2001年に鳴り物入りで売り出した自由診療保険メディコム(主としてガンの先端医療対象の掛け捨て保険)の不振が続いていることです。この保険は明らかに混合診療解禁を見越して開発され、当初は販売から半年で30万件の契約を目標としていましたが、3年経った本年でも目標の1割の3万件の契約にとどまっています。
第3の追加的理由は、混合診療解禁派の鈴木玲子氏が行った「混合診療[全面]解禁による市場拡大効果」の試算です[6:285-289]。この試算では、「日本の医療支出[患者負担]の所得弾力性がアメリカ並みに上昇すると仮定した場合」、患者負担は85%も増加する反面、国民医療費総額の増加は12.6%にとどまるとされています。しかも、鈴木氏も、混合診療解禁の「弊害を防ぐために、解禁する医療分野を限定すること」等を提唱しています。このような混合診療の部分解禁では医療費増加は数%にとどまると思います。
○例外は首都圏の民間ブランド病院
ただし、例外があります。それは首都圏にある高所得層対象の一部の民間ブランド病院で、これらの病院は特定療養費制度の拡大により収益増が期待できます。 他面、公費投入を受けている公的大病院が特定療養費制度を用いて多額の差額を徴収しようとすると、議会・住民側から大きな批判・圧力が起こることは確実です。また、都市部・農村部を問わず、大半の民間中小病院は、特定療養費制度が拡大しても収益増は期待できず、逆にそれに伴う保険給付費の抑制と患者減により、経営困難が加速する危険が大きいと言えます[11:76-78]。
〜〜 4.特定療養費制度の乱用・ルールなき拡大=「第3分類」の患者・医療機関への影響
第4に、特定療養費制度の乱用・ルールなき拡大について検討します[3:210-211]。
先に述べましたように、特定療養費制度のうち高度先進医療については、一般に普及した段階で保険導入するというルールがありますが、選定療養についても次の3つのルールがあります。@技術料は含まない、A患者が自由意思で選択する、B医療保険の給付範囲は縮小しない。これらはいずれも、1984年の健康保険法「抜本改正」の国会審議時に、当時の厚生省責任者が確約したものです[12:114-117]。私はこのルールが守られる限り、特定療養費制度は合理的・現実的だと考えます。
それに対して、2002年診療報酬改定で導入された180日を超える入院患者の入院基本料の特定療養費化は、特定療養費制度の乱用・ルールなき拡大であり、私は特定療養費の「第3分類」と呼んでいます。谷修一前本学会長も、「これができるならなんでもできるという感じすらする」と率直に述べています。制度上は特定療養費には含まれませんが、これの先駆けがあります。それは、1994年の健康保険法改正で病院給食に自己負担が導入されたときに、給食が現物給付から現金給付(入院時食事療養費)へ転換したことです。
医療経済学的には、特定療養費の「第3分類」は医療保険給付から患者負担へのコストシフティングと言えます。そのため、患者負担は増加する反面、他の特定療養費と異なり、医療費総額も、医療機関の収益も増加しないのです。逆に、逆に患者の受診抑制により、両者とも、減少する可能性があります。 現在の混合診療解禁論争ではこの「第3分類」はほとんど議論されていませんが、私はこれが今後の特定療養費制度の拡大の隠れた本命だと考えています。それだけに、医師会や病院団体は「第3分類」拡大に歯止めをかける必要があると思います。
〜〜 おわりに−混合診療解禁論争の2つの盲点
最後に、今回は時間の制約のため触れられなかった混合診療解禁論争の2つの盲点に触れます。1つは、特に首都圏の老人病院(療養病床)で常態化している保険外負担が、実質的な混合診療なことです。私は、医師会・病院団体がこれの解決策を示さない限り、国民の支持は得られないと考えます。
もう1つは、社会保険診療報酬支払基金による医療費削減のための恣意的な「経済審査」です[13]。これへの反発から混合診療(患者からの安易な差額徴収)を感覚的に支持している医師(特に病院勤務医)が多いことを考慮すると、医師会・病院団体は、混合診療解禁反対時に、これの改革も掲げる必要があると思います。
引用文献
1) イズレエル・シェフラー著、村井実訳『教育の言葉』東洋館出版社,1981.
2) 宮寺晃夫「ポストモダンの視点から」「シンポジュウム:教育実践研究における知とは何か」
http://www.bukkyo-u.ac.jp/jssep5/pdf/MIYADERAakio.pdf.
3) 二木立『医療改革と病院』勁草書房,2004.
4) 藤沢益夫「医療保障における現金と現物」『週刊社会保障』No.451,1968.
5) 八代尚宏『規制改革』有斐閣,2003.
6) 鈴木玲子「医療分野の規制改革−混合診療解禁による市場拡大効果」.八代尚宏・日本経済研究センター編『新市場創造への総合戦略』日本経済新聞社,2004.
7) 宮内義彦(インタビュー)「規制改革で日本を世界の負け組から勝ち組にしよう」『週刊東洋経済』2002年1月26日号(「オリックス証券・宮内義彦ジャーナル」に再掲。http//www.orix-sec.co.jp/brk_jour/mj_11.html).
8) 李啓充『市場原理が医療を亡ぼす』医学書院,2004.
9) 二木立「後期小泉政権の医療改革の展望」『社会保険旬報』2004年10月21日号.
10) 二木立「首都圏の長期入院患者の平均保険外負担は1月当たり10万円前後」『文化連情報』2004年12月号(321号)
11) 二木立『90年代の医療と診療報酬』勁草書房,1992.
12) 二木立『「世界一」の医療費抑制政策を見直す時期』勁草書房,1994.
13) 橋本巌『医療費の審査』清風堂書店,2004.
http://www.jca.apc.org/wsf_support/messages/3063.html