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http://hotwired.goo.ne.jp/news/technology/story/20041026301.html
記憶障害を救う、シリコンチップの人工海馬
Lakshmi Sandhana
高度なメモリ管理が行なわれている今、次にメモリのアップグレードをしてやるのはあなたのコンピューターではない――あなた自身だ。
南カリフォルニア大学(USC)神経工学センターの所長を務めるセオドア・W・バーガー教授は、海馬(記憶をつかさどることで知られる脳の部位)の働きを模倣する埋め込み型のシリコンチップ(イメージ)を開発している。成功すれば、この人工海馬が本物の海馬の代わりを務め、記憶障害に苦しむ人々が新しい記憶を蓄積する能力を取り戻せるようになるかもしれない。
人工海馬の登場はもはや、「仮定」の話ではなく「時間」の問題になっている。USCのほか、ケンタッキー大学、ウェイク・フォレスト大学など、複数の研究室における6つの研究チームが、10年近く前から、さまざまな部位の人工神経の開発に共同で取り組んできた。サンディエゴで23日(米国時間)から開催される北米神経科学会の年次総会では、こうした研究の成果が発表される予定だ。
生きたラットではまだ試されていないが、ラットの脳のスライス(薄片)を使った研究では、このチップは95%の精度で機能した。これは、科学界を沸き返らせるに十分な成果だ。
「人工神経に新しい可能性を開く」と、ボストン大学認知神経生物学研究所の責任者、ハワード・アイヘンバウム教授は言う。「バーガー教授の試みは、記憶を人工的に補うという野心的なものだ。加齢による記憶障害や海馬の機能低下につながる病気が多いことを考えると、ニーズは高い」
新しい長期記憶を作るというのは、たとえば、初めて会った人の顔を覚えて認識したり、電話番号や見知らぬ場所への道順を覚えたり、といったことだろう。これが成功するかどうかは、海馬が正しく機能するかどうかにかかっている。海馬は長期記憶を蓄積しないが、海馬が短期記憶を再符合化することで、短期記憶を長期記憶として蓄積することが可能になる。
海馬は、脳の外傷や脳卒中、てんかん、アルツハイマー病(日本語版記事)などの神経変性疾患によってダメージを受けることがある。海馬の損傷とそれに伴う記憶障害については、今のところ、臨床上の効果が認められる治療法はない。
バーガー教授らの研究では、まずスライスしたラットの海馬のニューロンを培養液に浸して生きた状態にし、再符合化プロセスを実行させた。コンピューターにより不規則な信号を生成してこのニューロンを刺激し、アウトプットされたパターンを分析した結果、研究チームは、任意のインプット・パターンを実際のニューロンと同じように変換する一連の数学関数を特定した。研究者たちによると、これがすべてのカギになるという。
「たとえば祖母の見かけがどういう感じで、私がそれをどのように符合化しているのかを解明するのは不可能だ」とバーガー教授は説明する。「人間の行動は千差万別で、目にする可能性のあるもの、そしてそれが海馬で符合化される方法を一覧表にすることなどできやしない。われわれができるのは、海馬がどういう変換を行なっているのかを調べることだ」
「入力した情報がどのように変換されるかを解明できれば、人工器官を作ることができる。そして、その人工器官を脳に移植することが可能かもしれない。そうなれば、後はその人が何を見ようと関係ない。損傷した海馬を人工海馬に置き換えてやれば、本物の海馬の細胞と同じようにインプットをアウトプットに変換するわけだ」
USC情報科学研究所の先端システム部門の責任者を務めるジョン・J・グラナッキ博士は、こうした数学関数をマイクロチップ上に翻訳する研究に取り組んできた。このマイクロチップが、ラットの海馬の薄片内にあるニューロンの処理――インパルス(活動電位)を受けてそれを処理し、信号に変換して送る――を模倣する。研究チームによると、マイクロチップは、95%という驚くべき精度で、まさにその処理を実行しているという。
「アウトプットを見ても、本物の海馬なのかマイクロチップの海馬なのか違いがわからないだろう」とバーガー教授は言う。「どうやら正常に機能しているようだ」
研究チームの次なる計画は、動き回って学習する生きたラットを使って研究することで、ゆくゆくはサルについても研究を行なう。今後、薬剤を用いるなど、海馬の活動を一時的に止めることのできる手段を考え、脳にマイクロチップを移植する。脳には電極を入れる。
「人工海馬を生きた動物に移植し、本来の海馬の活動を一時的に止めても、機能――損傷を受けていない海馬の活動がもたらす機能――に異常がないことを示すつもりだ。これにより、人工海馬が海馬の正常な働きを引き継げるということを証明できる」と話すのは、ウェイク・フォレスト大学のサム・D・デッドワイラー教授。デッドワイラー教授は現在、生きたラットとサルの海馬回におけるニューロンの活動の測定に取り組んでいる。
研究チームは、生きた活発なラットの海馬の数学モデルを開発し、それをマイクロチップ上に翻訳するのに2〜3年、サルの場合は7〜8年かかるとみている。そして10年以内に、臨床応用にこぎつけることを目指している。研究者たちは、仮にすべてが順調にいけば、15年後には、実際にさまざまな疾患に対処できる可能性のある、人間のための人工海馬が登場すると予想する。
概して、今回の研究成果は有望なものととらえられている。
ボストン大学のアイヘンバウム教授は、「実用化にはほど遠い。ただし、この計画が本当に実現可能なのかどうか、これからの10年でわかるだろう」と話す。
「マイクロチップをスライスした標本で機能させるのと人体で機能させるのとでは、大きな違いがある」と、ボストン大学認知神経生物学研究所の神経科学者、ノーバート・フォーティン氏は言う。「とはいえ、よく整理されたアプローチだ。15〜20年後に、ある程度、こうしたチップが海馬に損傷を受けた患者の助けになっているというのは、あり得ない話ではない」
[日本語版:矢倉美登里/多々良和臣]
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