現在地 HOME > 掲示板 > 不安と不健康9 > 148.html ★阿修羅♪ |
|
Tweet |
(回答先: 激痛走る神経障害、奈良の開業医が治療法を開発(読売新聞) ― 「複合性局所疼痛症候群」 投稿者 シジミ 日時 2004 年 10 月 06 日 05:49:36)
http://www.water.sannet.ne.jp/zah_clinic/crps.htm
(ドクター・ざーさんの診察室)
「複合性局所疼痛症候群」って何?
私もこんな日本語名があるのを知りませんでした。さっき、インターネットを見て初めて知りました。だって、ずっとCRPSと言ってましたから。
「じゃCRPSって何?」となりますよね。complex regional pain syndromeのことです。なあるほど、こうして訳してみれば確かに複合性局所疼痛症候群ということになりますね。うちに来られる患者様にも結構おられます。今後、「CRPS」と説明するよりも、日本語で「複合性局所疼痛症候群」と説明するほうがまだ解かり易そうですね。そうでなくても、とても複雑で簡単に説明できない病気なんですから。
いい機会だから、この辺の事ちょっと説明しましょう。
反射性交感神経性ジストロフィー(RSD, reflex sympathetic dystrophy)
まあ、「複合性局所疼痛症候群」って病名は、元々この病気を説明するために生まれたようなものです。
定義としては、“侵害的な出来事の後に発生し、かつ、一つの末梢神経の領域に限局することなく広がり、その出来事とは不均衡であるような症状を呈し、浮腫、皮膚血流の変化、疼痛のある部分における発汗機能の異常、あるいは異常感覚もしくは痛覚過敏を伴う症候群”ということになります。
解かりましたか? 解からないでしょう。 (・_・;)
どこかを傷つけると、その部分が多少なりとも痛みますよね。神経が傷ついたからと考えますよね。まあ、そういうことにしときましょう。最初傷ついた部分が痛んで、少しするとその周りも痛んできますが、時間が経つと痛みの範囲は元にもどるように狭くなっていきます。ところが、痛みの範囲が傷の程度とは関係なしにどんどん広がっていって、傷ついたと考えられる神経の領域をはるかに越えてそこら中が痛み出すことがあります。それが「複合性局所疼痛症候群」です。
反射性交感神経性ジストロフィー(RSD)と言っていた時代は、痛みが増悪する経過中に発汗異常や血流異常を伴うことが多かったため、この症状の発生や進行に交感神経系の異常興奮が関与していると考えられていました。しかし、このような疾患を集めて検討してみると、交感神経系が関与していないタイプがあることに気が付きました。ひどいのになると、交感神経を取り除くとかえって痛みが増強するものまでみつかりました。
そこで、反射性交感神経性という言葉は正しくないだろうということで複合性局所疼痛症候群(CRPS)という用語が生まれました。
よく分からないことが増えたので呼称を変えたんですね。ますます解からなくなるはずです。
カウザルギー(causalgia)
RSDとよく並べて使われる病名です。RSDとどこが違うかといえば、神経の損傷を伴っているか、いないかということです。上記RSDの項でも神経が傷つくと書きましたが、その違いは明確ではありません。どうも、目に見える位の太い神経を傷つけたかどうかが分かれ目のようです。
つまり、肉眼で明らかに神経が切断されたことが分かるような損傷を伴ったものをカウザルギーと呼び、そこまでの損傷がないのをRSDというようです。
結構アバウトな決め方で、あまり学問的じゃない分類だなあ。
複合性局所疼痛症候群、T型とU型
この病気には2種類あります。でも、そんなに大きな違いがある訳ではありません。
神経損傷を伴っていると考えられるような明らかな組織損傷がないのがT型で、そのような組織損傷があるのがU型です。つまり、RSDタイプがT型で、カウザルギータイプがU型ということですな。
私個人の意見としましては、反対に損傷があるのがT型で、ないのがU型という分類の方が自然なんだけどなあ。
どうしてこんな病気が発生するの?
傷害を受けて神経が損傷すると、損傷を受けた部位から末梢の神経は死んでしまいますが、中枢寄りの神経は傷を負って異常に興奮します。普通は、しばらくするとその興奮も落ち着きを取り戻すのですが、中には興奮しっぱなしという神経があったりします。その神経は興奮の信号をより中枢に近い脊髄へ向かってどんどん送り込むのですが、その時に近くを走っている交感神経とショートしてしまい、関係のない交感神経まで同時に興奮に巻き込んでしまいます。そうすると、交感神経系が連続的に興奮をし、痛みと共に異常交感神経活動が開始するのです。
やっぱり、交感神経が関係していると考えるほうが理解しやすいですよね。
異常感覚って何?
複合性局所疼痛症候群になると、しばしば異常感覚を伴います。
熱いものは熱く、冷たいものは冷たく、触ったものは触れたように感じるのが正常の感覚です。ところが、触れたものを痛く感じたり、熱いものを冷たく感じたりすることがあります。それを異常感覚(allodynia)といいます。
「熱い」「冷たい」はまあ、我慢すれば何とかなりますが、どんな刺激を受けてもそれを「痛み」と感じる感覚ははつらいものです。
原因としては、損傷を受けた神経の中枢側が興奮し続けると、脊髄にあるどんな刺激でも一様に感じ取ってしまう神経(広域作動性ニューロンといいます)の感受性が高まり、なんでもない刺激を痛みと誤解して脳に伝えてしまうようです。
このような特殊な感覚は、一般にはなかなか体験できるものではありません。例えば、長時間正座をして足を十分に痺れさせた後、正座を解いて、棒で足裏を突付いてみて下さい。「さわらないでっ!」とつい声を出したくなるようなジンジンする痛みが触あるいは圧刺激で感じられます。これが異常感覚です。
どうして神経が興奮しっぱなしになるの?
分かりません。病名ばかり立派になっていって、複合性局所疼痛症候群の発生機序がいまいち明らかになっていません。
発生機序が大雑把には分かっていても、原因が多岐にわたっているため、その共通の病原性をなかなか突き止められずに十数年が経ってしまいました。現在でも簡単に治っていく人がいれば、治らずに苦しみ続けている人もいます。
確かに、交感神経系の異常興奮が強く関わっているケースでは、交感神経ブロックを実施すると見違えるように痛みや血流障害が改善されていきます。しかし、これらの治療も交感神経系の関わりが乏しいケースとのあいだで人それぞれ、効果は実に様々です。
また、U型では障害部位の切断神経の断端部分に、あるいはその周囲に、再生性の神経腫(neuroma)を形成することがあり、それらが神経の異常興奮を発生することがあります。手術後の創部痛がいつまでも続く場合等にみられます。このようなケースでは、神経腫を切除するか薬剤で潰してやると軽減することがあるようです。しかし、神経の異常興奮が損傷末端から中枢神経系までのルートの中のどこで発生するかは予測できず、治療効果は不安定です。
一方で、「複合性局所疼痛症候群」や「カウザルギー」という言葉以前に、「上行路遮断性疼痛(deafferentation pain)」という概念が存在しています。神経を切ってしまったあとに、そこから先は「感覚がないのに痛みがある」という状態です。別名「神経因性疼痛(neuropathic pain)」といいます。これも脊髄の異常興奮状態が引き起こす痛みの総称であります。
私も、疾患名それぞれを個別には説明できますが、全てを並べてその違いを誰にでも解かるように説明しろといわれると困ってしまいます。似たような病態に複数の概念や言葉が錯綜するから解かりにくいのでしょうね。
原因はどうでもいいから治してくれ!
これが一番困ります。だって、いままでダラダラ説明を流したのは、治りにくいからですよ。そこんとこ分かってください。
交感神経ブロックをしたらピタッと痛みが止まる人がいれば、逆に余計に痛くなる人もいます。それも同じ病気にですよ。いろいろ試すしか方法がありません。効くやつを見つけて、根気よくその治療を続けるしかないようです。
どんな治療法があるかというと、
1.交感神経ブロック
2.トリガーポイントブロック
3.神経根ブロック
4.交感神経遮断術
5.硬膜外通電刺激療法
6.薬物療法
通常の鎮痛薬、すなわち非ステロイド性消炎鎮痛薬は効きません。麻薬性鎮痛薬は効く可能性がありますが、効果を発現するためには結構大量が必要です。
実際は、次に示した@〜Dのような神経の興奮伝達を調節する作用をもつ次の薬物が使用されます。
割と有効な人が多いですね。
@抗うつ薬 :脳から脊髄への痛みの調節系を正常化する作用
A抗精神薬 :脳内の痛みの発生物質を減少させる作用
B抗不安薬 :脳内の痛みの伝達物質を減少させる作用
C抗痙攣薬 :末梢神経の異常興奮を抑制する作用
D抗不整脈薬:末梢神経の興奮伝達を調節する作用
と、いうところです。効く人と効かない人がいるのは当然ですが、脳にどれだけ痛みが染み付いているかが重要な因子です。
脳に染み付く痛みとは?
分かりやすく言えば「痛みの記憶」です。痛み刺激は脳に伝達され、その刺激が痛みと認識されて初めて痛みを感じます。通常はこの痛み刺激は脳と脊髄の間で常に調整されています。しかし、痛み刺激が次々と無秩序に脳に送られると、脳内に鮮明な「記憶」として焼き付きます。
事実、この記憶は痛みの遺伝子として形のあるものとして残されます。これが脳に染み付く痛みです。液晶の画面焼けみたいなもんですね。でも、脳は液晶みたいに取り替えるわけにはいかないのです。
ですから、如何に記憶が薄いうちに消し去るかということが痛みの治療としてのポイントとなります。
この脳に痛みが染み付くという状態の最たるものに、anesthesia dorolosa(「無感覚性頑痛症」とでも訳しましょうか)という病気があります。全く無感覚なのに、その無感覚の部位が死ぬ程痛むという、ひどい病気です。外から見たら何にも悪くないのに、とにかく痛みでのた打ち回っています。ここまでいってしまうと、残念ですが有効な治療法は今のところありません。
癌の痛みも大変厄介な代物です。ですが、現在では多数の研究者が注目し、多額の予算がつぎ込まれ、日々改善の進歩を遂げています。一方で、anesthesia dorolosaでは死ねないということが、さらにこの病気の方々を地獄の苦しみの淵へと迷い込ませています。このような苦しみを持った人がいることを知って下さい。
さあ!!どうでしたか?
な〜んか、慢性疼痛の講義になっちゃったなあ。
解かりましたか?やっぱり解からないだろうなあ。m(_ _)m
痛みの専門家でない限り、他人の痛みは理解できないですよね。でも痛い人は解かりますよね。だって、痛みは本人しか分からないからですよ。
言い尽くされていますが、やっぱり一般の人にとって、痛くもないのに「痛み」を理解しろってことは、無理なのかも知れません。
もし理解できたんだったら、
あなた、ペインクリニックの専門医になれますよ。