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【AERA発マネー】
ダイエー争奪、流通最終戦争 スポンサーに続々名乗り
(2004年08月30日号)
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2度の金融支援後も業績が好転しないダイエー。産業再生機構の活用策をにらみながら、イオン、ヨーカ堂、米ウォルマートなど内外の流通大手が争奪戦に乗り出した。(アエラ編集部・大鹿靖明、木村恵子)
◇ ◇
「あくまで自主再建です。自主再建でやります」
ダイエーの高木邦夫社長は、取り囲んだ10人近い記者を前にムッとした表情で語った。8月18日夜、千葉県の自宅前でのことである。
ダイエーのメーンバンク、UFJ、三井住友、みずほの3銀行はダイエーを産業再生機構に送り込むことで足並みをそろえている。金子一義産業再生担当相も5日の記者会見で、
「必要があれば、産業再生機構を使っていただく」
と異例の言及をし、「ダイエー収容」に意欲を見せる。
ところが、当のダイエーがなかなか首を縦に振らない。
高木社長は18日夜、銀行側の再生機構活用キャンペーンを跳ね返すような自主再建策の「秘策」があるのか、と記者に問われ、
「策定中なのは、オーソドックスな案です。銀行と話し合って決まれば、皆さんにお話しします」
と語った。そして、こう言って悔しさをにじませた。
「ずいぶん株価を下げさせられましたからね」
銀行の一方的な主張がマスコミをにぎわすことへの精いっぱいの抗議だったろう。
「失われた10年」の象徴
ダイエーは、日本の「失われた10年」の象徴的存在だ。ピーク時で2兆4000億円の負債を抱え、2001年に1200億円の優先株の発行、02年には債務の株式化など5200億円の金融支援と、2度も救済策が講じられた。負債は1兆円に減ったが、収益力は依然、低空飛行を続ける。猛暑で潤うはずの今年の夏物商戦も、7月の売上高(既存店ベース)は、冷夏に悩まされた昨年同月よりも4%減った。
竹中金融庁によるUFJ追い込みに伴って、UFJのお荷物だったダイエーが改めてクローズアップされた。ダイエーは7月末、店舗閉鎖などを骨子とした自主的な再建案を銀行側に差し出したが、「内容は30点」と突き返され、一気に産業再生機構活用による抜本処理が浮かび上がった。
再生機構と3行が考えている素案は、3行が債権放棄などで3000億〜4000億円規模の金融支援をする一方、ダイエーの新たなスポンサーを探して経営再建をゆだねるというものだ。
荒療治狙う再生機構
ダイエーは、266店舗のうち赤字店は53店しかないと説明するが、機構幹部はそれを一蹴する。
「正式な資産査定調査をしていないから断言できないが、UFJから寄せられた情報をもとに試算すると、黒字店は30店しかない。経営再建が順調というのは信じられない。リベートで決算を取り繕っているし、金利が少し上昇しただけで利益が吹っ飛ぶ」
機構が考えるのは、不振の日用品や衣料品から撤退し、食品スーパーに特化させる大胆な店舗統廃合の実施だ。ダイエーグループの稼ぎ頭であるクレジットカード会社OMCカードや、プロ野球の福岡ダイエーホークスなど売れそうな資産は売却する。そうした荒療治でもしない限り、ダイエーの再生は望めない、と機構は見る。
「従業員が22万人もいた米国の安売りチェーン、Kマートだって救済されずに倒産したのに、パートを含めて4万人しかいないダイエーを2度も救済し、さらに自主再建などという甘い案を持ち出すのは、おかしい。米国ならとっくに破産させてますよ」
と、機構幹部の見方は厳しい。
すでにダイエー再建のスポンサーには、米ウォルマートをはじめ、イトーヨーカ堂、イオン、大手総合商社、民間の再生ファンドなど「十指には満たないが、かなりの数の申し出がある」(機構幹部)。これらスポンサー主導による抜本的な再生策を検討する、という。
ウォルマートは西友を傘下に収めたものの業績はいまひとつで、ダイエーの優良店舗を手中に入れて、国内販売網のてこ入れを図りたい考えだ。「国内2強」のイオン、ヨーカ堂はダイエーを制したところが国内流通の最終的な覇権を握るとみて、どちらも譲れない。ヨーカ堂は店舗網の薄い関西に足場を築ける。規模拡大路線を突き進むイオンにとっては、破綻したヤオハン、マイカルに続く格好の買い物になる。イオンは、公的機関が介在してダイエーの負債を整理することが必要と、むしろ再生機構の活用をダイエー支援の前提に掲げさえする。
自主再建案で対抗
こうして銀行側から外堀を埋められた高木ダイエーが、なおも徹底抗戦しているのは、ライバルの手で解体されることへの反発とともに、背後に経済産業省という力強い援軍があるからである。
「政府の一部や債権者が最初から再生機構ありきみたいなことを言っている。自由主義経済のなかで再生機構のような政府の機関は最後に出るべきだと思います」
中川昭一経済産業相は10日の会見でこう言って、金子大臣や銀行団の動きを牽制した。ダイエーの存亡をかけた決戦は、「主力3行&産業再生機構」vs.「ダイエー&経産省」という構図である。
再生機構送りのムードが色濃くなり始めた8月初め、三菱自動車の再建に携わることで知られる民間の再生ファンド「フェニックス・キャピタル」がダイエーに対して、自主再建策を提案した。再生機構を使わない代わりに、主力3行が3000億円の債務の株式化をし、フェニックスがファンドを通じて数千億円の出資をするという案だ。フェニックスはその資金の出し手として、ヨーカ堂や大手総合商社などに呼びかけ、いくつかの内諾を得ている、とされる。
フェニックスは、
「再生機構はウォルマートにこびを売っている。税金を使って再生させ外資に売るのでは国民が納得しない」
と主張する。
このほかにも複数の民間の再生ファンドから同様の申し出があるといい、高木社長が自主再建の意を強くしたのは想像に難くない。こうした提案は、ダイエーから即座に経産省に伝えられた、という。
経産省の局長級幹部は、フェニックスの案を高く評価する。
「『民でできることは民で』という風潮の中で、再生機構という『官』がのこのこ出ていくのはいかがなものか? フェニックスでできる、というのなら、まかせたらいいじゃないか」
一時はOBをダイエー会長に送り込んでバックアップした経産省は、金融庁が検査を武器に事業会社を追い込むことに、心中穏やかではない。流通業界の監督官庁である自身が主導権を握って再建させたいというメンツもある。
そこで浮かび上がるのは、フェニックスなど民間ファンドと、国内の大手商社を組み合わせた救済プランだ。再生機構幹部が、
「杉山秀二事務次官の子飼いの官僚が動いている。丸紅と経産省が裏でつながっている」
と疑う動きである。
丸紅と経産省で合作
経産省の流通業界の元担当幹部は、こう打ち明ける。
「確かに昨年1〜2月ごろ官民合作で丸紅主導の再建策が真剣に検討されました」
三菱商事+ローソン、三井物産+ヨーカ堂など、川上の大手商社と川下の流通大手が組むなかで、丸紅には有力な組み手がいなかった。丸紅にとって比較的競争力のある食品部門を強化するには、有力な商品納入先がほしい。そこで練られたのが「丸紅・ダイエー」提携案だ。
丸紅は、子会社がダイエー傘下の食品スーパー、マルエツに28%出資する第2位の大株主であるうえ、ダイエー本体にも4%出資する。こうした関係から、丸紅とマルエツが組んで、小が大をのみ込む案が検討された。日本での販売網を拡充したい仏流通大手カルフールと丸紅が組んで、スポンサーになる案も一時は浮かんだ。
経産省の元担当幹部によると、丸紅の動きとは別に、ダイエー首脳が渡英して英流通大手のテスコと接触する動きもあったという。英テスコは日本で、中堅食品スーパー「つるかめ」を展開するシートゥーネットワークなどを買収しており、日本市場への参入拡大に前向き、とみられている。
こうした水面下の動きは、主導していた経産省の担当幹部が退任したうえ、丸紅首脳がダイエー再建の見通しを不安がるなどして、いったんは立ち消えになった。
だが、火種はいまもくすぶる。
「大手商社をみると、双日の再建策はある程度固まってきた。ただ丸紅を個性ある商社にするのにどうしたらいいか、まだ青写真が描けていない」
経産省のある幹部は、そう思わせぶりに言った。
縮小・解体は不可避
こうした再生機構を活用しない「自主再建案」に高木ダイエーは一縷の望みをつないでいるが、自主再建案であってもダイエー「解体」は避けられそうにない。
フェニックス関係者は言う。
「コア(中核)事業とノンコア事業に分け、ノンコアの球団やOMC、リクルート株は売却し、不動産も整理する必要がある」
経産省の元担当幹部も、
「再生機構側の『30店黒字説』は厳しすぎる見方だが、黒字は266店のうち約100店。少なくとも60店程度の閉鎖は実施せざるを得ない」
と縮小は不可避という見方だ。大手証券会社系シンクタンクの流通業界担当アナリストも言う。
「再生機構だろうと、自主再建だろうと、ダイエーがスポンサーを見つけて事業を縮小するという再生の枠組みは変わらない」
ダイエーがこれまで一貫して迫られているのは、営業力の回復だ。ダイエーの現場に詳しい関係者は、こう打ち明ける。
「中内(功)さんというカリスマのもと、ダイエーは強力なバイイング・パワーによって、本部が商品を一括して安く大量に仕入れてきた。この結果、本部の仕入れ部門の権限が強まる一方、現場の営業店は軽視された。だから、販売の現場がいろいろな改革を提言しても、硬直した本部がなかなか反応しない体質になっている」
官僚体質変えられるか
創業者の中内元会長が築いた安売りシステムはカリスマなき後、官僚機構だけが肥大化する深刻な制度疲労を起こしている、というのだ。しかも90年代後半以降、資産売却とリストラの連続で、一線から優秀な人材が続々流出している、という。
銀行団の一角は、ダイエーの社風改革こそ最大課題と見る。
「もはやカネを入れただけでは再生できない。幹部層を入れ替えるなど、新しい血を入れて一新しないといけない」
再生機構活用に高木社長がウンと言わず、一見、膠着状態に陥ったが、ダイエーが掲げる自主再建案も、銀行の金融支援抜きには成立しない。関係者からはこんな声が上がる。
「無条件降伏に映るのではなく、高木社長の面目が立つような案にして最後は再生機構行きをサインさせるしかない」(銀行筋)
「高木さんの責任は問わない。むしろ今まで良くやってきたと褒めてあげるべきだ」(再生機構幹部)
こうした事情は、流通各社にとって先刻承知のことだろう。
「ダイエー争奪戦」は、いよいよ本番を迎える。
(09/02)