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http://www.diplo.jp/articles04/0407-3.html
ニコラ・サルキス(Nicolas Sarkis)
アラブ石油研究センター所長
雑誌『アラブの石油と天然ガス』発行
訳・内藤あいさ
これから10年後、人類はどのようなエネルギーを使っているだろうか。原子力エネルギーをあてにするというシナリオは崩れ、石油がなおも主要部分を担っていることだろう。国際エネルギー機関(IEA)によれば、石油需要は年間1.9%ずつ増大し、2003年の日量8000万バレルから、2020年には1億2000万バレル弱に達する。その頃には、アラブ諸国が産出する石油の割合は、現在の25%から41%へと上昇する。こうしたことが、現在の危機の背景要因としてある。[フランス語版編集部]
現在の著しい石油高騰の原因は何か。これは一時的な値動きにすぎないのか、それともエネルギー価格の恒常的な上昇が始まろうとしているのか。あるいは一部の者が危惧するように、需給バランスの不均衡によって引き起こされる新たな大規模オイルショックの前兆なのか。
この疑問と危惧を裏づけるかのように、2003年3月から4月にかけてのイラク侵攻から2カ月後、石油市場は高騰を始めた。イラクの生産が急速に回復すれば1バレルあたり20ドル前後にまで下がるだろうと予想する向きもあった。2004年春には、まったく予想外の急騰が続けざまに起こった。しかもこの時期、世界需要は季節要因により、1日あたり200万バレルほど低下していた。
2004年6月3日に開催された石油輸出国機構(OPEC)(1)の会合、またアメリカの石油備蓄の増加を受け、相場はやや下がったが、それでも不安を消し去るほどではなかった。実際にも、世界需要は数カ月後に増大期を迎えるうえに、1バレルあたり40ドル以上という暴騰をもたらした要因は基本的に消えていない。その要因は、世界の地政学的状況と市場の自動的な反応の2つに同時に関わっている。
もし、イラクの状況が現在のようではなく、サウジアラビアがテロに見舞われずに済んでいたら、原油価格がこれほど急速に上昇することもなかっただろう。治安が悪化し、石油施設の破壊が繰り返されるイラクの生産量は、戦争前の2002年の日量212万バレルから、2003年には133万バレルにまで激減した。2004年5月には230万バレルまで回復したが、1999年から2001年当時の水準には及ばない。
その上、新たな油田を開発し、6年から8年かけて生産量を倍増させる目的で、失墜した政権が複数の国際企業と交渉中または締結済みだった契約は、ことごとく凍結された。世界一の石油輸出国であるサウジはといえば、主に石油化学コンビナートと産油地帯を狙った相次ぐテロ行為により、大きな打撃を受けている。
こうしたテロ行為がサウジやイラクその他の湾岸諸国で繰り返されること、その結果として、かなり長期にわたって輸出の混乱や中断が生じることが危惧されている。1973年や1979年の時との大きな違いは、公式政府による禁輸の決定や(イスラム革命後のイランのような)政治体制の変化ではなく、顔の見えないグループによる予見できない行動に左右されている点である。さらに悪いことに、揺さぶりをかけられている現体制のもと、サウジが世界の石油需要に応じるという重責を今後も担い続けられるかは疑わしくなってきた。
全体的に見ると、イラクとサウジの情勢悪化による緊張状態が、いわゆる「リスク・プレミアム」となり、最近の価格上昇の大きな要因になっている。このプレミアムは、状況に応じて1バレルあたり6ドルから10ドルと見積もられる。そこには保険コストの上昇に加え、大手投資銀行が数百億ドルを注ぎ込んだ投機的な先物買いの影響が含まれている。
実際には、地政学的な緊張と投機買いは、需給バランスの推移を根本原因とする上昇基調を増幅させたにすぎない。その点については、3つの注目すべき要因がある。
統計をめぐるポーカーゲーム
第一に、忘れられがちなことだが、ナイジェリアの石油生産は、民族紛争とストライキによって打撃を受けている。2003年にはベネズエラでも、石油産業を麻痺させたストライキのために、生産量が著しく低下した。
第二に、大量消費国での石油精製量が頭打ちになっている。近年の投資不足がたたり、世界の精製能力は日量8360万バレル弱しかない。これは、2004年2月に記録された需要のピーク値、8250万バレルをわずかに上回る程度である。その上、精製能力の内訳は、製品需要の推移に適合しないものになっている。とりわけ、1日あたり960万バレル以上を消費するアメリカでは、5月初旬からガソリンが不足し始め、価格の急騰を引き起こした。精製品の価格高騰は、原油価格の自動的な高騰を招くことになった。
第三の要因として、OPECが4月10日に、生産上限枠を日量2350万バレルにまで引き下げる決定を下したことがある。これに対して先進国が激しく抗議したことで緊張が高まり、価格の上昇傾向はさらに強まった。とはいえ、OPEC諸国が実際に生産量を減少させたわけではなく、世界的に見て供給は需要を十分に満たしている。
こうしたことが、石油市場に関する統計の不透明さに輪をかけている。驚くべきことに、OPECの加盟国は、生産量を数カ月遅れでしか公表しない。その結果、理論上の生産割当量と、たいていは割当量を超過した実際の生産量との混同が維持される。石油会社やアナリストは、そこで奇妙な追い駆けっこに励むことになる。積み出し港を離れたタンカーの動きを追い、二次的な情報源にも当たりながら、輸出国による日々の生産量をできるだけ正確に算定するという難題に挑むのだ。
透明さに欠けるのは、実際の生産量に関するデータだけではない。輸出諸国にどれぐらいの生産能力があり、余剰生産能力がどのように推移しているのかという問題をもまた、厄介なものとなる。現在のように余剰生産能力が少ない場合、これは決定的に重要な問題である。
最も信頼できる試算によると、世界の余剰生産能力は日量250万バレルから300万バレルと推定される。その大半はサウジに属しており、他のOPEC加盟国のほとんどと非加盟諸国は現在フル稼働の態勢にある。つまり、サウジとイラクという主要輸出国のどちらかで、ストや重大な事故により輸出が滞れば、それだけで供給が不足し、再び相場が急騰するという状況だ。昨今の価格上昇には、このリスクも加担している。今年後半に世界需要が予想通り増大すれば、わずかに残る余剰生産能力では対応しきれなくなる。
石油統計には、もうひとつ巨大なブラックホールがある。確認埋蔵量に関する公表データにつきまとう疑惑と、世界需給の中長期予測の信頼性である。シェルのような国際上場企業が、自社保有の埋蔵量を数カ月後におよそ4分の1も下方修正するとなれば、他の大手民間企業が公表している埋蔵量に対しても疑念が生じておかしくない。
ここ数年来、さらに重大な疑念を呼び起こしているのが、ロシアとOPEC主要国の確認埋蔵量に関する公式統計である。確認されたという埋蔵量が、独立した機関によって検証されたわけではないからだ。問題はその規模にある。世界の民間石油会社トップ8の保有量が570億バレルでしかないのに対して、OPEC諸国の国有石油会社トップ8の保有量6620億バレルに達するとされる。サウジの油田の状態と、世界の石油のほぼ4分の1を有するサウジ・アラムコ社の開発力に関し、シモンズ報告書(2)によって引き起こされた最近の論争も、こうした不安をかき立てるものだった。
容赦なく進む資源の枯渇
世界需要は2004年の日量8030万バレルから、2025年には1億2000万バレル、30年前の水準の2倍になると予想されている。この需要に対して供給は追いつくのだろうか。供給の大半は中東にしか賄えず、石油不足を防ぐためには、生産量を2025年までに倍に引き上げなければならないことになる。中期的には、主要な障害は政治的なものである。中東地域に、年間270億ドル規模の巨額投資を呼び込める環境を作り出す必要があるということだ。さらに長期的には、いつになるかは分からないが、中東その他の地域で一国また一国と、石油生産がピークを迎え、その後は不可逆的な衰退が始まることになる。
石油ピーク研究会(ASPO)の主催で5月にベルリンで開かれた国際会議の際の討論も、さして安心感をもたらすものではなかった。「楽観派」「悲観派」と呼ばれる2つの学派のどちらの意見でも、新たな油田は稀にしか発見されず、規模も小さくなってきている。ここ30年の間に発見された巨大油田はカザフスタンのカシャガン油田のみである。新たに発見された油田で毎年の採掘量が埋め合わせられるはずもない。ある地質学者の秀逸な表現を借りれば、石油の探索は、技術的な進歩によって銃の性能が向上したのに対し、獲物がどんどん小さく、見つけにくくなっている狩りのようなものになっている。
他にも強調しておかなければならないことがある。2001年から2025年にかけ、世界的に需要が高まる一方で、埋蔵量と先進国の生産量は減少するだろう。その結果、代表的な大量消費地だけを見ても、輸入依存度はアメリカでは55.7%から71%へ、西ヨーロッパでは50.1%から68.6%へ、中国では31.5%から73.2%へと上昇する。このように、エネルギーという死活的に重要な分野における輸入依存の増大が、「石油をめぐる戦い」を引き起こした。大国とその石油企業が中東、アフリカ(3)、中央アジアの埋蔵石油の支配をめぐって争っている。今回のイラク戦争のことは言うまでもない(4)。
ここのところの原油価格の上昇をどう見るべきかが論争の的になっているのは、理由のないことではない。それは、着実に増え続ける需要ともはや限界に近い生産能力との不整合により、遅かれ早かれ引き起こされることになる大規模オイルショックの前兆ではないのだろうか。
生産能力が向こう数年間でどれぐらい伸びるかは、中東をはじめとする地域の政治的安定とともに、利用可能な埋蔵石油の規模にかかっている。より長い目で見れば、緩慢とはいえ容赦なく進む石油資源の枯渇が、他のエネルギー資源への漸進的な転換をますます避けられないものとするだろう。
このような転換には、政治的安定に加え、大規模な投資を可能にするような魅力的な価格設定が必要とされる。国際エネルギー機関(IEA)の試算では、2001年から2030年の間に世界のエネルギー分野が必要とする投資額は、石油・天然ガス産業と他のエネルギー資源の開発を合わせると、(2000年の通貨価値に換算して)16兆4800億ドルに達する。その意味では、昨今の原油価格の高騰による不安は、むしろ有益なものだと言える。今まで供給に不足がなく、現在のところ価格が実質ドルベースで25年前の最高値を上回らない水準におさまっていることで、我々の感覚はほとんど麻痺している。それをかき乱してくれるからだ。
(1)石油輸出国機構(OPEC)は、サウジアラビア、イラク、イラン、クウェート、カタール、アラブ首長連邦国、アルジェリア、リビア、ナイジェリア、ベネズエラ、インドネシアの11カ国で構成されている。
(2) 投資銀行シモンズ&カンパニーのマシュー・シモンズ会長は、チェイニー副大統領のブレインとして、アメリカの新エネルギー政策の発案者となった。
(3) ジャン=クリストフ・セルヴァン「にわかに注目のアフリカ産油諸国」(ル・モンド・ディプロマティーク2003年1月号)参照。
(4) ヤーヤ・サドウスキー「『石油のための戦争』はどこまでほんとうか」(ル・モンド・ディプロマティーク2003年4月号)参照。
(2004年7月号)
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