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「産業資本主義」の終焉:購買力平価を大きく超える「円高」になっている理由:“円高恐怖症”自体がその一因
http://www.asyura2.com/0406/hasan36/msg/112.html
投稿者 あっしら 日時 2004 年 8 月 04 日 11:54:11:Mo7ApAlflbQ6s
 


『「産業資本主義」の終焉:外国為替レートの変動論理:固定相場制と変動相場制の違い』( http://www.asyura2.com/0403/dispute18/msg/853.html )の補足的な説明です。
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日本では“円高恐怖症”が蔓延しているが、日本がとってきた経済政策及び経済行動は、“円高恐怖症”なのに「円高」を誘発するという倒錯したものだった(である)。


■ 変動相場制の為替レート変動論理

変動相場制での為替レートの変動論理は、趨勢的には国民経済相互(たとえば日米)のインフレ率推移の差に規定されるというものである。(インフレ率の内実は、生産性上昇率と通貨供給増加率の関係)
土地を除く固定資本(ストック)の価額や実質金利もインフレ率に規定されるので、国際基軸通貨国家アメリカという“特殊な国民経済”の存在が変動論理の撹乱要因になっていることを除けば、この論理は現実の長期レート変動にも適合している。


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※ 参考:相対購買力平価説

相対購買力平価説は、「自由貿易」に基づく「世界一物一価」を前提とした考えである。

日本のインフレ率をπとし、米国のインフレ率をπ'とすれば、

相対購買力平価=基準レート×((1+π)/(1+π'))

 のように、「円ドルレート」は変動するというものである。

日本の物価上昇が米国の物価上昇よりも小さければ、ドルに対する円の貨幣価値が相対的に上昇することになる。

 1ドル=110円のレートのとき、財の平均価格が、日本は5万円(455ドル)で米国は455ドルだったとする。
 数年後、財の平均価格は、日本で6万円、米国で500ドルになった。

 これを上述の式にあてはめると、

 110×((1+0.2)/(1+0.1))=120 

 になり、1ドル=110円だった「円ドルレート」が1ドル=120円にならなければならない。
 なぜなら、1ドル=110円のままであれば、日本製の財を購入するより米国製の財を購入したほうが得だから米国から日本への輸出が増加し、日本の貿易収支黒字が縮小するか赤字になることで円のドルに対する需要が増加し(円の価格が下がりドルの価格を上がる)、「円ドルレート」は日米の輸出入が平衡する価格(120円)に収斂するはずだからである。
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だからといって、外国為替レートは、相対購買力平価説に従って変動してきたわけではないし、今後もそうではないはずだ。

まず、財全般が交易されるわけではなく、国際交易財は限定されている。
国民経済で最大の構成比を持っている加工食品は、歴史的に形成されてきた食生活様式に強く影響されているので、穀物など未加工農水産品ほどは交易されない。
住宅やビルなど建物も、土地に付随するものなのでツーバイフォー工法や内装品など限定的な交易にとどまる。(土地は投資対象にはなっても交易の対象ではない。成熟経済ではサービス業のウエイトが高いが、これも交易できないものである)

外国為替レートは、企業物価指数(旧卸売物価指数)・消費者物価指数・GDPデフレータといった総合的な物価変動の差で規定されるわけではなく、交易に占めるボリュームが大きい限られた国際交易財の物価変動の差で規定される。(米価や書籍代金の変動は円ドルレートと関係ない)
また、同一傾向の変動を示すとは言え、同じ財の国内出荷価格と輸出価格が同じというわけではないから、それぞれの国の国際交易財の輸出価格がどう変動するかが問題である。

この他にも、交易構造の変容や国際交易財の“競争関係の喪失”という問題がある。
長年にわたる国際交易は、そこで展開される競争を通じて淘汰も引き起こす。
米国の家電メーカーは、多くの製品で日本との競争に敗れその事業から撤退した。それでも米国民がビデオなどの製品を欲しているのなら、“無条件”に日本から輸入するしかない。競争関係が喪失すれば購買力平価説は存立基盤を失い、輸出価格変動が「円ドルレート」に影響を与える度合いは極端に低くなる。
お互いが同一使用価値の財で国際競争を展開するという相互関係性から、相互補完的な「水平分業」になればなるほど、相対購買力平価説の通用性は劣化していく。

最後に、ブランド力や価格超越性という非価格競争力の問題を指摘する。
金持ち相手の財に特有だが、価格はほとんど問題にならず、とにかくあのベンツやあのシャネルが欲しいという購買行動も、相対購買力平価説を妨げるものである。
ベンツのある車種がたとえトヨタのある車種と同等の性能であっても、ベンツであることで、100万円高くても売れるという話である。
宝石や毛皮などを含む贅沢品は、使用価値そのものよりも保有や身に付けることで得られる満足感が購買動機である。
そのような価値判断で購入される財は、使用価値で比較することはできないから購買力平価で説明することもできない。そうでありながら、昔から国際交易消費財に占める贅沢品の割合はけっこう高い。
購買力平価説が通用するのは、可処分所得が限定的な人たちが購入する対象である中級品以下の財に限定される。
高度成長期から現在に至る日本経済の輸出は、普及品から始まり中級品に移行しながら、その規模を拡大させてきた。同時に、日本の産業は、高級品を中級品にしてしまう生産性の高さも持っている。

中国の追い上げが予測されるなかで日本が今後経済活力を維持する最大の条件は、ブランド力とデザイン力を高め、価格に縛られない金持ち相手の“贅沢”財の輸出を増加することである。
(見栄を張る金持ち相手の商売で成功するのが儲ける秘訣である)


■ 購買力平価を大きく上回る「円高」である理由と対処策

GDPなど国民経済の統計データには、PPP(購買力平価:Purchasing Power Parity)で換算したものがある。
 購買力平価(PPP)ベースのデータは、上述の相対購買力平価説を経済指標に逆適用したもので、各国の物価水準から通貨の実際の購買力を算定し各国の経済力を見直したものである。

単純ドル換算のGDPは日本が4.8兆ドルで中国は1.5兆ドルだが、PPPベースになると、日本は4.3兆ドルで中国は5兆ドルと逆転する。
(13億人が生活しているのだから、これまでの経済成長で中国が日本のGDPを上回るようになったのは自然である)

物価高の日本は、一人当たりGDPのPPPベースになると、単純ドル換算に較べて13.8%も低下してしまう。

※ 2002年データによる比較

   単純ドル換算   PPPベース
日本:31,200ドル:26,900ドル
米国:36,200ドル:36,200ドル
独国:24,100ドル:25,900ドル
英国:26,400ドル:28,000ドル
韓国:11,500ドル:19,500ドル


1ドル=130円(2002年当時)が通貨レートであっても、日本国内での実質購買力は1ドル=150円程度しかないというのが、このような修正がなされる根拠である。
PPPベースで値が低下するということは、自国通貨である日本円を国内で使うよりも海外で使ったほうが得だということである。

OECD加盟35ヶ国のなかでPPPベースの一人当たりGDPがドル単純換算よりも小さい国は、日本以外、デンマーク(9.1%)・アイスランド(3.7%)・ノルウェー(15.5%)・スイス(18.4%)の4ヶ国だけである。

このような“下方修正”は、地価(不動産価格)の高さが連鎖的に引き起こす物価高のせいもあるが、日本円が高く評価されているせいと考えたほうが対処策も穏健で現実的である。


※ 地価(不動産価格)の高さに関する問題は、『日本と中国の勤労者所得が同じになったとき、日中の勤労者のどちらが豊かになるか?』( http://www.asyura2.com/0403/dispute18/msg/835.html )を参照してください。


PPPベースのデータから産業の国際競争力を考えれば、日本の産業は、国内物価高=人件費高に押し潰されることなく、極めて高い生産性を達成してきたと言える。
本来ならば、1ドル=150円のレートという緩い競争条件であってもいいのに、1ドル=130円や1ドル=110円でも高い競争力を維持しているからである。
それは良しとしても、なぜ「円高」になっているのかを知らなければならない。
ひょっとしたら、生産性の上昇が高いから「円高」になったのではなく、逆に、いつも「円高」に晒されているために給与を切り下げるほど必死に生産性の上昇に励まざるを得なかったのもしれないのである。(近代の生産性は価額表現だから、勤労者の給与を切り捨てることでも上昇するという“悪弊”がある)


所得配分格差をとりあえず脇におくと、PPPベースが単純ドル換算に較べて小さいというのは、ドル表示ほど国民生活が豊かではないということである。

PPPベースと単純ドル換算の落差を埋める方策としては次のようなものがある。


● GDPを拡大してPPPで補正されても他の国々よりも大きな一人当たりGDPにする。

同じ「円ドルレート」なら、円ベースのGDPを拡大すれば一人当たりGDPも増えるので、PPPベースで補正されても他の国々を下回らなくなる。


● 「円高・ドル安」にしてドル換算のGDPを大きくする。

同じ400兆円のGDPでも、1ドル=130円なら3兆ドルだが、1ドル=100円なら4兆ドルになるので、一人当たりGDPも同じ比率で増える。
米国との物価比較が1:1.2と変わらないなら、「円ドルレート」が変わっても目減り率は同じだから、PPPベースの一人当たりGDPも増える。
(「円高・ドル安」になれば輸入財価格が安くなるので、日米の物価比較も少しは縮まるはず)


● 「円安・ドル高」にして円ベースの輸出額を増加してGDPを大きくする。

同じドル建て価格で同じ量の財を輸出しても、「円ドルレート」の違いで円ベースの輸出額は変わってくる。
3千億ドルの輸出だとして、1ドル=110円なら33兆円だが、1ドル=130円なら39兆円になる。これにより、円ベースのGDPは拡大する。
「自由貿易」が貫かれていれば、輸出量も増加するはず。


● 国内の物価水準を下げてPPPベースで目減りしないようにする。

日米の物価比較がPPPベースでの目減り要因だから、日本の物価水準を米国に近づける。


もっとも妥当な改善策は、物価上昇を抑制しつつGDPを拡大し、PPPで補正されても他の国々よりも大きな一人当たりGDPにするというものである。
日本は、固定資本形成の落ち込みを回復させることでGDPの拡大が可能であり、物価上昇は財政・金融政策で抑制できる。

「円高・ドル安」にしてドル換算のGDPを大きくする方法は、輸出量の増加が期待できずドル建て価格も上げにくい世界経済環境を考えると、輸出企業の円ベースでの手取額を減少させるだけになり、勤労者所得も減少する可能性が高く、数値崇拝主義者以外にとっては意味がない。(それでも、PPPベースの値が良くなるところが、統計データのいい加減なところである)

「円安・ドル高」にして円ベースの輸出額を増加してGDPを大きくする方法は、45兆円の輸出が50兆円になってもGDPは1%ほどしか増加しないから限定的なものである。この方法も、実質的にあまり意味がない改善策である。
妥当だとしたGDPを拡大してPPPで補正されても他の国々よりも大きな一人当たりGDPにする方法は、それを通じて「円安・ドル高」になるものだから、「円安・ドル高」はその派生的効果と考えたほうがいい。

国内の物価水準を下げてPPPベースで目減りしないようにするという方法は、「構造改革」派は飛びつくかもしれないが危険な改善策である。
天賦のものである地価(不動産価格)の下落は意味があるが、財やサービスの全般的物価下落は、「デフレ不況」で知っているように国民経済全体にとって破壊的な経済事象である。
米国の物価水準が低いのは、財やサービスの供給活動に従事するひとの給与水準が低いこと・不法移民による低賃金労働・農産物に膨大な補助金が投入されていること・安い輸入消費財に依存していることなど、経済社会構造の“歪み”に負っている部分が大きい。
多くの国民の所得が少ないことが物価が低い要因であり、所得の多くを手に入れている一部の金持ちがより金持ちとして暮らしていける経済社会構造だと考えればわかりやすい。

日本の物価水準が高いのは、地価(不動産価格)を除けば、国民諸階層の所得格差が米国よりも小さく財やサービスの購入に向けられる所得が平均的に大きいからである。
産業の高い生産性や国際余剰(貿易収支黒字)が、他の商業・農業・サービス業にそれなりに配分されてきたことが日本の物価高を支えているという判断は重要である。
PPPベースで値が小さくなっているデンマーク・アイスランド・ノルウェー・スイスの4ヶ国が揃って“高福祉国家”であることもそれを示唆している。


いずれにしても、購買力平価から見たとき円ドルレートが「円高」であることは確かである。

そのような「円高」構造を支えているのは輸出財を生産している日本産業の生産性の高さであり品質の高さだが、それが「円高」につながるのは企業の輸出行動に問題があるからである。

前述したように、国際交易財は限定されているから、その範囲の財の価格上昇が相対的に低く推移すれば、円ドルレートは「円高」傾向が続くことになる。
もう一つ、輸出企業の国内出荷価格と輸出価格に差があることである。
たとえば、国内出荷価格は5万円なのに輸出価格は4万5千円という格差があれば、円ドルレートは輸出価格に引きずられるかたちで変動する。

最近は少し縮まったようだが、輸出企業は、国内販売で利益を稼ぎ、輸出で数量を稼ぐという経営スタンスを強く持っていた。
貿易収支の黒字がそのような芸当を支えているのだが、このような企業行動が、嫌っているはずの「円高」を促進したのである。
(貿易収支黒字が円に転換されて国内で使われば通貨供給は増加する一方で、輸出で財の量は減っているから、国内で財をより高く売ることができる)

輸出企業が輸出数量を稼ぐために“安売り”してきたことが、「円高」の主要因なのである。
日本の輸出企業は、「円高」傾向でも外需を減らせないと輸出価格を引き上げず、減った粗利益を生産性の上昇でなんとかカバーする行動をとってきたことで、「円高」の束縛にはまったまま脱け出すことができなかったのである。

ざっくばらんに言えば、「円ドルレート」は“米国当局の管理レート”なのだから、日本の輸出企業が円ベースの手取りを増やすためにドル建て輸出価格を引き上げれば、米国当局は輸入依存構造の国民経済を維持するために「円安」を志向することになる。
(中国の対米輸出も日本の部品に依存しているのだから、米国の物価上昇を抑えるために間違いなく「円安」政策をとる)
「円安」になれば、ドル建て輸出価格を引き下げても手取り円ベースは変わらないのだから、「円高」のときに無理してドル建て輸出価格を据え置くのは愚策である。据え置いてそれで目減りする粗利益をカバーするために、生産性の上昇に励めば、ある時点の「円高」が普通の水準になるだけでなく、さらなる「円高」を誘引することになる。


世界最強の産業国家になった日本は、自分たちの競争力に信をおき、円ベースの輸出価格を引き上げる経営に転換すべきである。
それにより一時的に需要(輸出量)が減るかもしれないが、「円安」によりドル建て価格は低下し需要は回復する。その間も生産性上昇に励めば、同じ円ベースの輸出価格でも粗利益は増大する。
円ベースの輸出価格を10%引き上げても、円レートが10%下がれば、ドル建て輸出価格は変わらない。

変動相場制と米国の輸入依存体質を考えれば、日本に蔓延している“円高恐怖症”は杞憂なのである。
変動相場制をうまく活かさない企業行動は、個別企業にとっても国民経済全体にとって大きな損失である。
身を削って安売り輸出をし、それで減った粗利益を補うためにひたすら生産性の上昇に励むという“自虐商売”は終わりにしなければならない。


PPPベースの問題との関わり言えば、日本は人々の供給活動で生み出されたものではない土地の価格が高いため、商業ビル・オフィスビル・持ち家・借家のいずれも高く、財やサービスの国内販売価格はそれを織り込んだ水準にせざるをえない。これは、企業が支払う不動産関連経費のみならず、従業員の給与も住居関連費を考慮したレベルにしなければならないことを意味する。このことから、ただでさえ高い国内出荷価格に加えて、流通で必要とされる粗利益も大きいので消費者物価はさらに高くなる。
米国の物価水準が低いのは、日本や中国などから安い価格で工業製品の消費財を輸入しているからでもある。米国の低い物価水準に日本が身を削って貢献しているのである。

日本国民が豊かになる早道は、地価(不動産価格)を抑制しつつ、日本人の活動力の成果である輸出財を安売りしないことである。
(安売りしないつもりでも、円ドルレートの変動で安売りさせられるから大丈夫(笑))

地価(不動産価格)に向けられたお金も、高度成長期や80年代までは預金→貸し出しを通じて固定資本形成に回っていたから、地価の高さが国民生活に無用で過大な負担をかけ、最後は「バブル」という大災厄につながったとしても、国民経済の拡大的循環はそれなりに維持されていた。

しかし、現在そして今後は、「デフレ不況」から脱したとしても産業の固定資本形成が大幅に増加する条件はない。そして、莫大な代償を払って、フロー所得を超えるストック価格の上昇は「バブル」であるとの教訓も得ている。
国民生活の向上のためにも国民経済の循環を円滑にするためにも、地価(不動産価格)を抑制し、財やサービスという人々が所得を得る供給活動の需要により多くのお金が回るようにしなければならない。
それが、企業がより良い経済活動条件を手に入れ、国民もより良く安定した生活をおくれる基礎的な条件である。


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★ 参照投稿

『「産業資本主義」の終焉:国民経済と年金問題:“高齢化社会”が問題なのではなく“供給活動投資額”が問題』
http://www.asyura2.com/0403/dispute18/msg/866.html


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