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森永卓郎氏の「続・年収300万円時代を生き抜く経済学」という本を読んだ。
第1章「年収300万円時代は確実にやってくる」には、
小泉政権の経済悪政について書かれている。
小泉政権の経済悪政を簡単にまとめる。
--------------- ● 小泉政権の構造改革の本質
小泉構造改革の本質は、官の改革ではなく、
アメリカ型の経済システムを導入し、
弱肉強食社会を作り、
金持ちと大企業を優遇して金持ちをますます金持ちにし、
不況・失業に苦しむ庶民を一層追いつめる、というもの。
官の改革にしても、看板の付け替えだけで、
むしろ官僚の利権を増やす方向に行っていて、
官僚天国になっている。
--------------- ● 痛みを伴う改革の正体
600万円から1000万円程度の年収を得てきたサラリーマンが
リストラされると年収300万円程度の再就職先しかない。
再就職しないでパート・アルバイトだと年収100万円程度。
不良債権処理は、仮に再建の道が選択されたとしても、
必ず厳しいリストラが断行される。
金持ち、大企業には減税するが、
庶民には増税する。
規制緩和は、弱肉強食の競争を引き起こし、貧富の格差を拡大させる。
歳出カットは、公共事業カットで、地方経済を疲弊させる。
痛みを伴う改革の正体は、
それまで600万円から1000万円程度の年収を得てきた人々を
年収300万円以下の層に転落させて、
しかも、その階層をさらなる増税で痛めつけるというもの。
こんなにひどい悪政が行われているのに、
2003年9月20日の自民党総裁選挙で、小泉首相が再選された。
日本経済は暗黒の3年間に突入してしまったようだ。
--------------- ● 4つの改革
2003年1月の第156国会での施政方針演説では、
「日本経済を再生するため、歳出・税制・金融・規制の
4つの改革を加速させます」と小泉首相は述べた。
2003年9月の自民党総裁選挙で掲げた公約では、
「民間の活力と地方のやる気を引き出す金融・税制・規制・歳出
の改革を推進し、デフレ克服、経済活性化を実現します」と述べている。
金融改革とは、不良債権処理の加速化、
税制改革とは、大衆増税、
規制改革とは、規制緩和、
歳出改革とは、公共事業カット、
である。
こうした政策を取れば、普通に考えれば、
景気は悪化し、デフレが一層ひどくなるのは明らかだ。
小泉首相が、これを経済活性化策だと主張することは、
「清算主義」を前提としていると考えれば、すっきりと理解できる。
--------------- ● 清算主義
デフレの原因は、需要不足・供給過剰である。
需給をバランスをさせる方法は、2つしかない。
一つは需要を拡大すること、もう一つは供給を削減することである。
公共事業拡大による景気対策は典型的な需要拡大によるデフレ脱却策で、
小泉首相が行っているのは、供給削減によるデフレ脱却策だ。
小泉型のデフレ対策を経済学者は「清算主義」と呼ぶ。
効率の悪い企業や労働者を市場から退出させ、
経済の担い手を生産性の高い企業に集中させることが
清算主義の主要な常套手段だ。
弱い者を片っ端からつぶして、強いものだけを残していく。
--------------- ● 株価回復の理由
日経平均株価は、2003年4月28日の7607円の底値から、
7月9日の9991円までわずか2ヶ月あまりで
31%の上昇となった。
日本経済の基礎的状況が大幅に改善されたとは言い難いのに、
この株高は何が原因だったのだろうか。
米国経済の好調に引っ張られたという要因はあるが、
一番大きな要因は、日銀の金融政策により
デフレ脱却期待が広がったことである。
政府・日銀は、2003年5月から6月に
4兆5000億円もの円売り・ドル買い介入に出た。
為替介入による円安誘導は大きな効果を持った。
この介入によってアメリカに渡った円資金が、
日本の株式市場に戻ってきて、
株高がもたらされたといのが、一般的な解説になっているが、
それは本質的な問題ではない。
これまで日銀は、ドル買い・円売り介入で市場に供給された円資金を、
手持ちの国債等を売却することによって回収する
「不胎化」と呼ばれる政策を取ってきた。
しかし5月から6月の介入ではそれをしなかった。
その結果、マネタリーベース(日銀券発行高+貨幣流通高+日銀当座預金残高)の
対前年比伸び率が4月の11。5%から20。3%へと2ヶ月で倍増したのである。
お金をたくさん供給すればお金の価値は下がる。
つまりデフレから脱却できるという極めて単純な期待が生まれた。
しかしそんな単純な仕組みが、一般国民や国会議員には分からない。
だから小泉内閣でも経済はなんとかなるのではないかという錯覚を与えてしまった。
そのことが小泉再選への最大の追い風となったのだ。
つまり、株高をもたらした日銀の量的緩和は、
小泉首相再選への援護射撃だったのだろう。
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この量的金融緩和を続けてくれれば、
日本経済の景気回復の足取りはしっかりしたものになったに違いない。
しかし、マネタリーベースの伸び率は、7月、8月、9月と横ばいにされ、
株価も1万円台のボックス相場になってしまった。
株高と景気回復の芽は、小泉再選を支えるための期間限定商品だったようだ。
--------------- ● デフレからの脱却チャンスがつぶされた3つの理由
(1) アメリカへの遠慮
資金供給を増やして金融緩和をすると為替は円安に向かう。
円安は日本のメリットになるが、アメリカにとってはデメリットになる。
(2) 財務省や日銀のお家事情
物価が上がれば、国債金利が上がる。
国債金利が1%上がるだけで、
国の財政に毎年1兆4100億円の金利負担が余分にのしかかってくる。
もちろん、デフレから脱却すれば税収も増えていくから実質的な負担はないのだが、
財務省は生理的に支出増を嫌うのである。
2003年9月現在、日本銀行は62兆円もの国債を抱えている。
国債金利が上昇すると、国債価格が下落し、
国際価格が下落すれば、日銀に莫大な損失が発生するのだ。
国債金利の上昇は日銀にとっても好ましくない影響を与える。
(3) 不良債権処理の加速化が達成できないこと
2002年10月に策定された「金融再生プログラム」は、
その名のとおりに金融再生をめざすものではない。
金融再生プログラムの目的は、
メガバンクの融資先で調子の悪そうな企業を生体解剖して、
ハゲタカファンドの投機マネーの皆さんで食べましょう、
そして最後はメガバンク自体も食べてしまいましょう、ということ。
政府はメガバンクを狙っていたが、
金融再生プログラムの適用第一号はりそな銀行だった。
メガバンクは、増資をして、2003年3月期決算を乗り切ってしまった。
しかも、2003年5月以降の株価上昇で、メガバンクの経営は
生き返ってしまった。
金融再生プログラムを実行するためには、
デフレ不況のままの方が都合がよい。
--------------- ● 小泉悪政に、なぜ誰も立ち上がらないのか
一つの原因は、国民の勉強不足。
「財政政策や金融政策は効果がない。構造改革をしなければ日本経済は立ち直れない」
という議論が完全な誤りであることは、きちんと経済学を勉強すれば
すぐに分かるはずだ。しかし、国民の大部分は経済学に興味などないし、
そんな時間もない。
テレビ、ラジオ、新聞に登場する有識者が口をそろえて
「構造改革」を叫ぶから、国民はそれが本当のことと騙されている。
構造改革論の本質を見破りそれを批判している良心的な学者は実はたくさんいる。
しかし、彼らは、テレビ、ラジオ、新聞などのメディアに出ることは少ない。
弱肉強食を推進しようとする政府が、
弱肉強食に反対する学者を登用することがあるはずはないし、
テレビ局や大新聞の社員というのは、
いまや大手銀行の行員を上回る処遇を手にする日本の富裕層の一角なのである。
不況が続き、生活がだんだん悪くなっていくと、
大衆は英雄を求めるようになる。
独裁者が登場するのにクーデターは必要ない。
ヒトラーも、当然、小泉首相も選挙で選ばれている。
独裁者の下で、経済が一層悪化していくと、
独裁者は権力の誇示と国威発揚のために戦争を始めることが多い。
そして戦争で負けて、大量の市民の命が失われ、国土が焼け野原にならないと、
国民は独裁者の本質に気づかない。あるいは気づいたときには手遅れで、
もはや独裁者を倒す民主的なルールは失われているのである。