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ケニアのマサイ族が、100年前に英政府に明け渡した「先祖の土地」の返還を求めている。当時の土地契約は失効したとし、白人が所有する大農場への不法侵入や街頭デモを繰り返し、英政府を相手に返還請求訴訟を起こす構えも見せている。白人農場主の多くは協定の存在すら知らず、新たな事態に戸惑っているようだ。
ケニア最高峰のケニア山(5199メートル)の西側にライキピアと呼ばれる農耕地帯がある。四国の半分ほどの面積に、大農園や牧草地が広がる。
最大規模の農場の一つ「ロルダイガ・ヒルズ」は南北20キロ、東西10キロ。敷地内の草原にはライオンやキリン、象などの野生動物もいる。昨年、米アカデミー賞の外国語映画賞を受賞したドイツ映画「名もなきアフリカの地で」のロケ地にもなった。
8月17日、この農場の北側のさくが約5キロにわたって壊され、1万5千頭の牛や羊を連れた200人のマサイ族が侵入した。西側からも6千頭の家畜とともに100人が押し入った。侵入者たちは退去を求める警官隊に銃やヤリなどで抵抗。逮捕者は100人を超え、死傷者も出た。
その後、同農場がマサイ族の牛や羊など約千頭の放牧を受け入れることに同意し、事態は沈静化した。農場にいたマサイ族のモイヤレ・シャドコリさん(45)は「今年はひどい干ばつで、農場の外では牛に食べさせる草がない。100年前の約束は終わったのだから、豊かな土地を返してほしい」と話した。
一方、ロルダイガ・ヒルズを所有する英国系ケニア人ロバート・ウエルズさん(44)は「土地契約の話は聞いたことがない。これまで、マサイ族からも訴えはなかった」と話す。
75年前、英国から入植してきた祖父は、半乾燥地帯での厳しい農業経営に挫折した他の入植者から土地を買い集め、規模を10倍にした。祖父の死後、81年に農場を継いだウエルズさんは、獣医学者で生態系にも詳しい日本人妻の文美さん(46)と、苦労して緑を増やしてきた。マサイ族が土地を奪われたというのは納得できないという。
ライキピアでは、約10カ所の農場が不法侵入された。ライキピア周辺やナイロビなどでデモ行進や集会も行われた。運動が盛り上がった背景には、大農場がエコ・ツアーなどの外国人客受け入れで潤い、マサイ族との経済格差が広がることへの不満もある。
マサイ族を支援するNGOの一つ「オシリギ」幹部のジョン・レタイさんは「我々の祖先は法律によって土地を追われた。同じように法律に従って土地を奪い返す」と話した。英政府はマサイ族側の訴えを無視しているという。
ケニアではほかにも多くの部族が同様の権利を主張している。マサイ族の今回の行動は国内で大きく報道された。ケニア政府は「(英政府とマサイ族の)協定について関知しない。私有地への侵入は違法だ」(キムニャ土地・住宅担当相)と慎重な姿勢をとっている。 (10/17 14:03)
http://www.asahi.com/international/update/1017/002.html