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生体細胞から培養した「本皮」ジャケット【hotwired】
http://hotwired.goo.ne.jp/news/news/culture/story/20041014206.html
Lakshmi Sandhana
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自分自身の皮膚を素材にした半分生きているジャケットがあったら? 実は、そんなジャケットが登場するのも、そう遠くないのかもしれない。
『組織培養とアート・プロジェクト』を実施中のオロン・キャッツ氏とアイオナット・ズーア氏は、「動物を犠牲にしない革」を作るため、半分生きているジャケットを育てている。2人は、動物を殺さずに革製品を身につけられる可能性を示したいと考え、生きている組織で革に似た素材を培養し、縫い目のない小さなコートの形へと育成中だ。
「われわれの研究は生きている皮膚の形となって結実した。これはある意味で、次のような問いかけを突きつけている――外見上は生きているようにも見えるものが、実は生物ではないとわかったとき、人々はそれをどのように受け取るのか?」とキャッツ氏は問いかける。
マウスとヒトの細胞を組み合わせて培養したこのジャケット(写真)は、現在はかなり小さく(丈が5センチ、幅が3.6センチ程度)、マウスに着せたらちょうどいいほどの大きさだ。ジャケットは、生分解性ポリマーの基体をマウスの3T3細胞[無限に分裂する性質を持つ培養細胞]で覆って結合組織を作り、さらに表面を強化するためにヒトの骨の細胞をかぶせる方法で作られた。現在、人体と同じ環境になるよう特別に設計されたバイオリアクターの中で成長している(写真)。基体のポリマーが分解すれば、ジャケットがそのままの形で残るはずだと、プロジェクトでは考えている。
このプロジェクトでは、「テクノサイエンティフィック・ボディー」――動物を犠牲にしないユートピアを作るという目的のもと、半生命体を育成する人工的な環境――を構築する一環として、さらに大きなジャケットを育てる計画だ。ここでは、「動物を犠牲にしない」というところに力点が置かれている。現在、プロジェクトに使用されている細胞は、いわゆる不死化細胞株から作られている。こうした細胞株は、もとになる動物あるいは人から切り離された後も永久に分裂を繰り返し増えていくため、リニューアブル(持続的利用可能)な資源と言える。
「こうした細胞株の面白いところは、多くの場合、培養をはじめると、採取元の組織よりも量が増えることだ」とキャッツ氏は言う。「たとえば、世界中の研究所でひろく使われているマウスの3T3細胞を全部合わせると数トン、あるいは数十トンになるが、これらはすべて1970年代に1匹のマウスから採取された細胞を起源にしている」
「動物を犠牲にしない革」の研究と開発は、芸術と科学の協働の可能性を探る西オーストラリア大学の研究室『シンビオティカ』において、人工軟骨の臨床応用を専門とする独ベリゲン社の協力のもと進められてきた。このジャケットは今年4月に西オーストラリアで行なわれた展覧会『ザ・スペース・ビトウィーン』に出品され、制作者たちの予想を超えた反響を得た。
「最もひんぱんに耳にし、ある意味で意外だったコメントの1つは、生きた細胞を使って生きた布地を育てることが倫理的にひっかかるというものだった。皮を剥がれる動物については何の配慮もなく、動物の皮を使うことは受け入れられているというのに」とズーア氏。
さらにキャッツ氏とズーア氏は、別々の身体からとった組織から構成される半生命体『メタボーイ』を作ろうとしている。これについては、自分の顔を使って実験を行なうフランスのパフォーマンスアーティスト『オーラン』氏と協力していく予定だ。オーラン氏は、ビーナス、ディアーナ、エウローペー、プシューケー、モナリザといった、名画に描かれた美女の顔からパーツを選んで自分の顔を整形し、究極の美人になり変わるプロジェクトを続けている。
2 人はオーラン氏自身の皮膚を培養し、皮膚の色が違うさまざまな人種の人の皮膚と組み合わせ、ミニチュア版の道化師の服を作ろうとしている。これらの組織を身体の免疫システムから引き離して一緒に培養し、1つの半生命体にすることで、個人の、ジェンダーの、人種の、種のアイデンティティーを打ち破ろうという試みだ。
また2人は、人工器官による身体の拡大の可能性を探るオーストラリアのアーティスト『ステラーク』氏の顔から採取した組織も培養している。鼻、唇、さらに目の周りを縁取る皮膚を培養し、つなぎ合わせて、顔そのもの、あるいは顔の変異体としての生きたマスクを作る計画だ。
「われわれはオズの魔法使いだ」とズーア氏は冗談交じりに述べる。「オーラン氏やステラーク氏と協力し、多くの意味でオズの魔法使いと同じことをしている。さらに、われわれにはもっと大きなアイディアがある。幸福感を高めるためにはどの組織を培養してほしいか、人々に聞いてみるつもりだ。言われた通りに培養して、本当に幸福感が高まるかどうかをみる」
完璧な生きたジャケットを作るには、まだ多くの研究が必要だが、キャッツ氏とズーア氏は、商品の制作、さらには科学的な研究をさらに進めることにさえも興味がないと断言した。2人は、自分たちは機能を持つ試作品を作るコンセプチュアル・アーティストであり、生き物を自らの目的のために道具にしていることの哲学的な意味に光を当てたいのだと話す。
「最近の、生命に対する人間の態度には空恐ろしいものがある。人間のことだけを考えて生命を操作することが増えるにつれ、人間はこういった生き物をどれだけ思いやれるのだろうかと思う。われわれの仕事は、『これはすばらしい、どんどんやろう』と言うのではなく、そうしたものについて疑問を投げかけることだ」とズーア氏は語った。
[日本語版:鎌田真由子/長谷 睦]