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「民間衛星も攻撃」――米軍の宇宙軍事戦略【hotwired】
http://hotwired.goo.ne.jp/news/news/technology/story/20041004301.html
2004年10月1日 2:00am PT
Noah Shachtman
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米軍が宇宙における戦闘に備えて構想を練り始めたことが、空軍の報告書によって明らかになった。報告書によると、民間の人工衛星や、中立国のロケット発射台、果ては気象衛星までもが標的になり得るという。
『対宇宙戦略』と題された空軍ドクトリン・ドキュメント2-2.1(PDFファイル)は、敵対勢力の宇宙における軍事力を排除し、軌道上にある自国の情報網を保護するために、米軍が講じる可能性のある措置を明らかにした初めての文書となる。空軍参謀総長のジョン・ジャンパー大将が署名し、機密扱いとはされていないこの報告書には、宇宙における戦闘の際の指揮系統、米軍が使用する武器、潜在的な攻撃対象などについての概要が記されている。
この報告書は、ある意味で、米国防総省が保管している他の数多くの資料と同様のものだ。ただし報告書には、略語や組織図に交じって、特筆すべき2つの主張が含まれていると、アナリストたちは指摘する。まず、万が一その必要が生じれば、米空軍は、やむを得ず他国の宇宙プロジェクトを攻撃すると明言している。さらに報告書は、敵国のものではない衛星や地上管制局でさえも、米軍の攻撃の対象となる可能性があると述べている。
『防衛情報センター』の副所長を務めるテレサ・ヒッチェンズ氏は、「戦争とまったく関係のない企業や国に、大きな損害を与えることになるかもしれない。そしてそれが反感や外交上の悪影響を招く可能性が大きい」と、この報告書の内容について警告する。「結局、われわれの同盟国や、果てはわが国自身の軍事力を損なう事態にもなりかねない」
だが実際問題として、空軍には選択肢はあまりないのかもしれない。米国を含め世界のほとんどの軍隊が、情報の伝送や画像の入手、爆弾の誘導のために民間の衛星を利用しているからだ。たとえば、イラク侵攻作戦中には、米軍の衛星通信のうち、実に80%を商業衛星に頼っていた。
今回の報告書の冒頭には、空軍は新たな使命を担っていると述べられている。米国の「宇宙における優位性」――軌道上における「攻撃の回避のみならず攻撃する自由」――を維持することだ。報告書によると、この新たな使命は、制空権の掌握と同じくらい重要なものとなっているという。この2つの領域をコントロールすることは、「いかなる軍事作戦においても、重要な第一歩となる」と報告書は記している。
「宇宙における優位性」の維持は、具体的には3つの任務により達成されると空軍は説明する。まず空軍は、太陽フレアから敵の衛星、スペースデブリ(地球を回る衛星などの残骸など)に至るまで、宇宙空間におけるさまざまな状況を把握する必要がある。次に、空軍の宇宙関連システムへの攻撃を防御しなくてはならない。昨年もイラクがGPSを妨害しようとした事件があり、空軍は、こうした行為が今後も起きると予想している。そしてさらに、宇宙空間を利用しようとする敵の能力をいつでも打破できるような態勢を作る必要がある。
また報告書は、ここでいう敵国とは「宇宙開発国」とされるほど技術の進んだ、一握りの国々だけを指すのではないと明記している。今や、その能力のない国家でも、日常的に他の大国の衛星を利用し、衛星写真を撮影したり通信を行なったりしている。ローテクのテロリストですら、衛星電話を使って通話している。そこで空軍は、ほぼすべての国や反政府グループを、宇宙において敵対する勢力になり得るととらえているのだ。
報告書の中で空軍は、まったく疑う余地はないといった調子で、率直にこうした見解を述べている。だがワシントンのシンクタンク『戦略国際問題研究所』(CSIS)のアナリスト、ジム・ルイス氏は、この報告書は空軍にとっての一種の覇権争いを象徴したものだと指摘する。
「空軍は、この覇権争いで1つ駒を進めようとしている。空軍には、長い間抱いてきた目標がある――宇宙空間における戦争を望んでいるのだ。この報告書はその意図を公にするためのもので、誰がこれをはねつけようとするのか見ようというわけだ」とルイス氏は分析する。
今回の報告書は、8月にひっそりと公開されたものだが、宇宙での戦闘に関する既存の空軍による報告書をふまえて作成されている。今年に入って空軍は、『トランスフォーメーション・フライト・プラン』を発表し(日本語版記事)、地球周回軌道を巡る奇妙な兵器に関する数々の計画について論じた。そうした兵器の中には、軌道上から巨大な金属棒を落下させ、地上の目標物を破壊するといったものもあった。
だがフライト・プランでは、「どのような兵器システムが計画されており、宇宙戦争という使命を担うにあたって、空軍がどのような兵器を保有したいと考えているのか」を検討するにとどまっていたと、ヒッチェンズ氏は説明する。「(今回の報告書のような)政策を示した文書は、任務の具体的な内容や、任務遂行に際してとられる手法について、詳細に説明している。その意味で『ウィッシュ・リスト』の色合いが強かったフライト・プラン以上に、今回のものは重要だ。この報告書は、空軍の実際の意図を、公式に表明したものだ」
この報告書が明らかにしているのは、仮に敵対勢力の助けになっていると見なされれば、空軍は、あらゆる種類の商業衛星、または中立的な国の衛星についても、その運用を停止させる意志があるという点だ。この戦略における攻撃目標には、「多くのユーザーの要求に応じて通信サービスを行なう」衛星も含まれる可能性がある。そして、そうしたユーザーの中には、「敵対する勢力が含まれている可能性もあるし、友好的あるいは中立的な人々もいるかもしれない」のだ。
さらに、「第三国に存在していたとしても敵対する勢力を支援」しているロケットなどの発射台も、格好の標的になる。あるいは気象衛星の動きを止めることも視野に入れているという。報告書は、「敵対勢力の宇宙における気象情報収集能力に対する作戦」についても記しているのだ。
こうした攻撃は、戦時国際法の下では合法とされる可能性がある。1907年に制定されたハーグ条約には、戦闘員が「部隊と情報伝達を行なう目的で、無線電報基地やあらゆる種類の装置を設置するために……中立港を使うことを禁止する」とある。こうした規定は、宇宙についても適用されると思われる。
とはいえ、このよう攻撃を行なえば、大勢の人が天気予報も、衛星を使ったナビゲーション・システムも、緊急時の通信も利用できなくなる可能性があり、外交的に大変な問題になると、ヒッチェンズ氏は考える。
空軍自体、中立的な立場の衛星を攻撃することで、厄介な問題を引き起こしかねないことは認めている。そのため、衛星を破壊するのではなく、敵の宇宙へのアクセスを一時的に妨害するのが得策だと考えている。
空軍の宇宙軍団に所属するアンディー・ローク中佐は、「われわれは、復旧が可能でかつ効果のある作戦に注力している。航空機や軍用飛行場は爆破されても、修理したり、新しいもので代替できる」と話す。これは宇宙関連のシステムには当てはまらないと、ローク中佐は指摘する。
さらに中佐は、「しかも、宇宙空間にある物体を爆破してしまえば、無数の破片が生じ、自国の部隊も脅かされることになる」と付け加えた。
それでも空軍は、衛星の破壊にも使える兵器の開発を進めたいと考えている――だがそれも、議会が許せばの話だ。メリーランド大学の研究者、ジェフリー・ルイス氏が作成した報告書(PDFファイル)によると、来年度の対宇宙システムの予算は要求額のほぼ3分の1にまで削られ、最終的には2640万ドルになったという。
[日本語版:長谷 睦/多々良和臣]
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