投稿者 バルタン星人 日時 2004 年 12 月 03 日 20:00:05:akCNZ5gcyRMTo
朝日新聞 12月1日朝刊(紙版)から
ありのままに生きる
精神障害者ら集う「浦河べてるの家」
精神障害を体験した当事者が集う「浦河べてるの家」(北海道日高支庁浦河町)が全国から熱い視線を浴びている。不況でリストラの嵐が吹き荒れる中、「頑張らない」「自分に正直に生きる」といった、べてる流の"脱力系"の生き方に世の中の関心が高まっているためだ。講演依頼
も殺到し、今年の講演回数は研修会での発表も含めると計100回に。精神医学以外の分野からも注目が集まっている。そんな「べてる」が社会に問いかけるものを、11月に東京大学で開かれ
たシンポジウムにも触れながら考えてみたい。
(松本一弥)「病気したことで充実」
大学院で機械工学を専攻した「べてる」のメンバー山根耕平さんは昨年12月、ジュネーブで開かれた国連世界情報社会サミットに出席。約250人の聴衆を前に、「障害者がお互いの悩みを相談できるように」と「べてる」が全国各地の作業所や大学などと連携しながら取り組んでいるテレビ電話会議システムについて英語でスピーチし、拍手を浴びた。同サミットの市民社会
局の一員として活動している国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所の河村宏さんが昨年10月に「べてる」を訪れ、障害者のためのより良い環境作りに熱意を見せる山根さんの姿勢に共鳴。「べてる」と国連との橋渡し役となって実現した。テレビ電話システムは市販されているものを改良し、例えば具合が悪くて寝ている障害者が急に誰かと連絡癒取りたくなった時などにもすぐに対応できるようにと、高速回線を使って常時接続するなどの工夫をしている「『国連で発表する』と言われた時、最初は近所のスーパーのホクレンかと思った」。山根さんは当時を思い出しながらふり返る。
昨年10月には「ベてる」メンバーの溝水里香さんが皇居に招かれ、両陛下と言葉を交わした。
福祉分野に貢献した団体などに贈られる賞を「べてる」が受賞したからだ。
「ご苦労されて、頑張っていらっしゃるのですね」。天皇陛下からそう語りかけられたという清水さんは「ハイ、病気をしたことで充実して過ごさせていただいております」と元気にあいさつ。陛下は一瞬きょとんとされた後、「これからも頑張って下さい」と言葉をつないだという。
「べてる」と東大が11月5日、東京大学医学部鉄門講堂で開かれたシンポジウムで初顔合わせをした。シンポのタイトルは「べてるに学ぷ-おりていく生き方」。
「べてる」側からは統合失調症の当事者3人に加えて、ソーシャルワーカー2人と医師が出席。東大側からは司会を担当した教授(社会学)の上野千鶴子さんらが参加した。
立ち見が出るほど盛況だったシンポのハイライトを紹介すると−。解決せず悩み語らせる やけくそで信じる感覚
■医者という問題
東大教授の上野千鶴子さん
「ソーシャルワーカーは医者と患者さんの中間にあって難しい立場だと思います」
ソーシャルワーカーの伊藤恵理子さん
「ドクターのプライドとつきあうのは大変です(笑い)。全国のソーシャルワーカーが集まって悩みを話してみると、医者のプライドをいかに傷つけずに患者さんを良い方向に持っていくか。そこに莫大なエネルギーと時間が費やされていることがわかりました。『配慮され続けてきた不幸』とでもいいましょうか」
上野「この言葉が聞きたかった。すべての女性が男性に対して感じている悩みと同じです」
■「治す」とは何か
浦河赤十字病院精神神経科部長の川村敏明さん
「二十数年前に初めて浦河に来た時、自分が病気を治せば次々にプラスのことが起きると考えていました。ところが現実は単純なものではなかった。」
「そんな時、ソーシャルワーカーの向谷地生良 さんに出会いました。彼は当事者が相談に来ても解決しようとしない。むしろ悩むことを手伝っている。その結果、自分の言葉で自分の悩みを語る人たちが増えてきた。そういう経験を重ねるうちに『治す』以上に大事なものが私にも伝わってきて、医者の力よりもみんなで考えていくというスタイルの中から生まれてくるものの方が手応えがあると感じるようになったんです」
「浦河べてるの家」代表の早坂潔さん
「川村先生は病気は治さないで、僕を生かしてくれる。僕は浦河赤十字以外の精神科に入ったら一生出られません。川村先生は僕を一人の人間として浦河の 町に出してくれたんだなと思いました」
川村
「今、浦河に研修に来る若い精神科医は大変です。べてるのメンバーが先生方に『あんまり無理するな、先生も病気なんだから』と言うからです」(笑い)
■配慮と尊重
「べてる」の最大の特徴は患者に対する配慮のなさだという。
伊藤「ほかの社会福祉施設も病院も配慮のしすぎ。本人が自分の力で解決策を見いだしていくことをいかに信じられるか、つまり人を人として当たり前に尊重するという姿勢が『べてる』にはあると思います」
上野「その『当たり前のこと』がなかなか広まっていかない理由は何でしょう」
東大助教授(医療社会学)の市野川容孝さん
「日本でも精神医療を良くしようという動きはあったし、例えばドイツでもそうした動きはありました。ただ遠目で見て日本とドイツとどこが違うのかを考えでみると、日本には良いごとをやろうというお医者さんがどんどん孤立していくような風土があるのではないでしょうか」
ソーシャルワーカーの向谷地生良さん
「私たちが『人を信じる』とか『尊重する』と言う時は、『やけくそで信じる』『やけくそで尊重する』という意味なんです。『悪いけどこっちは勝手に信じちゃっているからね』といら具合に、ポケットに入っているものを『ハイ』と手渡すような感覚。その方が役に立っ。あまり美しい物語にしないのが、べてる流です。ぜひ使ってみて下さい」
「弱さに秘めた可能性」開花
シンポ参加者や「べてる」にかかわる人々の話に耳を傾けてみると、精神医療という特定の枠を超えて伝わってくる「ありのままに生きる」という、べてる流の生き方への共感があることがわかる。同時に「人問は本来弱いもの」という事実にきちんと向き合い、「弱さ」という情報を開示することで逆に「弱さが秘める可能性と底力」(向谷地さん)を開花させる場=関係性を作り上げてきたことへの驚きも感じられる。それらは不況にあえぐ今の社会の気分にもフィットして強まってきてもいるようだ。札幌から高速バスで3時間半かかる現地を訪れる見学客がこの数年増え続け、今年はすでに2500人を数えることからもそのことがうかがえる。
そんな「べてる」には哲学や倫理学などの分野からも注目が集まっている。哲学者レビナスなどの研究を通じて他者論に取り組んでいる東京大学助教、授(倫理学)の熊野純彦さんもその一人だ。熊野さんは「『役に立つ』とか『お互いに利用し合ろ』といった人間関係ではない、人と人の関係がどうあり得るのかを考えさせられる。60年代後半にあった共同体論が素通りしてしまった経済的自立の問題にも自覚的に取り組んでいる点を含め、べてるの存在自体が社会に対する問題提起になっている」と話している。
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