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浮気:脳の遺伝子操作で止まる ネズミの実験 毎日
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投稿者 たくげん 日時 2004 年 7 月 22 日 18:42:47:ZeS7i/LK.kz92
 

浮気:脳の遺伝子操作で止まる ネズミの実験
http://www.mainichi-msn.co.jp/kagaku/science/news/20040722k0000e040071000c.html

 たった一つの遺伝子操作で浮気な男が誠実で家庭的になる−−。こんな論文が英科学誌「ネイチャー」に掲載され、話題を呼んでいる。男といってもネズミの雄の話だが、人間でも……。この実験結果、どのように受け止めればいいのか。【山田道子】

 ■一緒にいる時間が倍増

 注目の論文は、米アトランタ・エモリー大のミランダ・リム教授らによるもので6月17日号の同誌に掲載された。

 ほ乳類には雄が複数の雌と交尾する「乱婚型」と、ペアボンド(つがいのきずな)によって両親で子供を世話する「一夫一妻型」があり、一夫一妻型は5%足らず。リム教授らは今回の実験で、一夫一妻型のプレーリーハタネズミと、乱婚型のアメリカハタネズミを使用した。

 この2種類のネズミについては▽プレーリーハタネズミの雄は「バソプレッシン」という脳内ホルモンが前脳腹側領域で働き、ペアボンドの形成をつかさどっている▽プレーリーハタネズミは前脳腹側領域でバソプレッシンの一つであるV1aの受容体発現量が、ハタネズミより多い−−ことが既に分かっている。そこで実験では、V1a受容体の遺伝子をアメリカハタネズミの雄の前脳腹側領域に入れて受容体の量を増やしたところ、ほかの領域に入れた同種の雄などと比べ、パートナーの雌と寄り添うようにして一緒にいる時間が2倍以上長かったという。

 論文は「一つの遺伝子が脳の特定の領域に出現するだけで、種の社会的行動に明らかな影響を与えた」と結論づけている。

 ■発見場所がポイント

 西森克彦・東北大教授(分子生物学)は以前から論文執筆者らと共同研究を行っており、バソプレッシンと近縁で生殖社会行動に関係するオキシトシンとその受容体の研究をしている。西森教授は、今回の実験、論文について次のように指摘する。

 「バソプレッシン受容体が脳内のどの場所で発現するかで“浮気っぽいか、そうでないか”の行動が大きく変わることが分かったのがポイントだ。実は遺伝子上のほんの小さな配列の有無でこの遺伝子の発現する場所は大きく変化することも分かってきている。ヒトの脳でもバソプレッシン受容体は発現しており、すぐ心が動くとか惚(ほ)れやすい傾向があることを、わずかな血液から取れるDNAの配列を調べることで予測できる可能性は十分あると思う。しかし、ヒトを含め動物の社会行動を支配する遺伝子は1つではないことと、ヒトは環境や教育などにも大きく影響されるので、遺伝子一つでその社会行動が予測できる可能性は少ない。あくまでも傾向が分かる程度に過ぎない」

 さらに、「浮気がいいか悪いかは立場によっても異なる。むしろ、たった一つの遺伝子の発現を変化させ、複雑な社会行動を変えられることを示した意義が大きい。あくまで可能性の範囲だが、他者との関わりに障害を持つような深刻な心の病でも、遺伝子レベルで改善できる可能性を動物で示したという点でも大変興味深い」としている。

◇突然変異で配偶システム変化

 さまざまな動物の雌雄の違いを研究している長谷川眞理子・早稲田大教授(動物行動学)に聞いた。

 −−ハタネズミの実験についてどのように考えますか?

 ◆動物の雄と雌が何匹の相手と配偶し、どんな関係を持つかを「配偶システム」というが、人間に近い類人猿でもそれは異なる。チンパンジーは雄も雌も複数の相手と配偶する乱婚型で、夫婦の強いきずな(ペアボンド)はほとんどないが、ゴリラは一夫多妻型で雄がハーレムを作る。

 これに対し、人間にはペアボンドがある。ほぼ必ず1人の相手に熱をあげ、一緒に居たいという気持ちはチンパンジーにはないでしょう。私は配偶システムが人間のようになったりチンパンジーなどのようになった背景には、「突然変異」というものがあったと考えていた。今回の実験は、脳内ホルモンとその受容体の突然変異で配偶システムが変わることを示した。約600万年前に人間のような配偶システムの種が生まれたのは、遺伝子の違いが大きいということです。

 バソプレッシンが夫婦のきずな形成や子供の世話に関わっていることについては従来から証拠があったが、受容体だけでここまで変化させたのはすごい。このたぐいの脳内ホルモンの働き方はほ乳類一般でほぼ同じと考えられている。ネズミに当てはまるが、人間には当てはまらないことにはならないと思う。

 −−配偶システムはどんなな要因で決まりますか?

 ◆基本的には生態学的な条件によって決まります。雄も世話をしないと子供が育たないような条件にいる種では、雄は出産後も雌と一緒にいるし、雌だけで十分育てられる種では世話をしない。そこで、雄も世話をした方が子供がよく育つ種で、なぜ実際に雄が子育てをするかというと、実験で明らかになったような脳内のメカニズムが働くからです。雄が子供のもとにとどまる直接的な引き金を解明したものだといえるでしょう。

 人間の場合、子供の成長には長い時間がかかるし、教えるべきことが多いので、生態学的には雄はいた方がいい。加えて、生物学的な両親だけでなく祖父母や友人というネットワークの中で育つのが人間の特徴です。

 −−人間の男性には「浮気をしたい」という傾向があるのでしょうか。

 ◆「浮気」がどのような意味かによります。イスラム社会など一夫多妻の社会にいる男性は浮気をしているわけではなく、複数の妻を養っている。一時の遊びで女性と付き合い、捨てることを浮気とするなら、そういうことをしたがる男性もある割合で存在します。それが女性より男性に多く現れる理由は、妊娠、出産、授乳をする女性の方が子育てに対する“投資”が男性より大きいので、男性は複数の女性と配偶した方が繁殖の成功度が上がるからです。

 でも、すべての男性にその傾向があるということではありません。ペアボンドがある人間という種では、女性に受精だけして次々に捨てることが繁殖成功度のアップにつながるほど単純ではないからです。
毎日新聞 2004年7月22日 14時26分

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