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満州に遺された肉声 (JanJan)
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投稿者 月読 日時 2004 年 9 月 18 日 09:17:24:ydTjEPNqYTX5.
 

満州に遺された肉声 2004/09/17

 8月14日に放送されたNHKスペシャル「遺された声〜録音盤が語る太平洋戦争〜」は秀作であった。

 満州時代のラジオ放送の録音盤2,200枚が中国に残っていた。それを復元作業し、そこから当時の開拓移民の声や特攻隊員の遺言などを、再生すると同時に、生存する関係者に聞かせて感想を求めた映像によるドキュメントである。

 開拓移民として渡満したのは農民ばかりではなかった。日本国内で事業に失敗した人や教師もまた慣れない手で耕作に従事し、さらに鉱山での労働をした。彼らの話は、「お国のためにがんばっています」という決まり文句で結ばれる。「放送の取材に対してはそうとしか言えない」時代であったことを生存者が証言する。だが、そうした基調であっても、いかに辛い生活であったかが言葉とは裏腹に伝わってくる。

 また、移民と共に鉱山で働いていた中国人が現地に立って、強制労働者たちがいかにひどい扱いを受けていたか、今も彼らの遺体を投げ込んだ「死の谷」がそのまま遺されていることを証言する。

 3人の旧兵士たちは仲間であった特攻隊員の声を聞きながら、本人が特攻隊に選ばれた夜泣いていたことを証言し、特攻隊が無駄死にであったかどうかを巡って意見の対立が生じ、沈黙する。

 さらに、満州より最初の特攻隊員として玉砕し、英雄に祭り上げられたのは朝鮮人兵士であったことを私は初めて知らされたが、その遺族である兄弟にインタヴューできたのがこのドキュメンタリーの見せ場であった。

 比較的落ち着いて当時を客観的に振り返って語る次弟とは対照的に、末弟は気持ちをあらわに、日本軍兵士となった長兄の選択を今も悔やみ、日本軍をうらんでいることを、取材者にそっぽを向きながら語る。

 関係者にたどり着けなかった多くの録音もあったと思われる中で、この数分の映像は貴重であった。

 NHKお手のものと言える素材とはいえ、正攻法のドキュメンタリー手法は、今なお関係者の間に走る亀裂をも伝えていた。

 SP録音の肉声には独特の生々しさがあり、五族協和の政策下、満州においては「自分が他の民族より優秀と感じる」と語る市民や、鉱山労働者の妻の座談会には、どこか高揚した気分がスピーカーから流れる。こうした放送が日々繰り返される中で、満州移民はついに最後まで過ごしていたのであろう。

 番組は「この時代、ラジオは人々の生活の苦しみや悲しみを伝えることはありませんでした」と結ぶ。番組制作者の放送人としての反省が、静かに抑制がきいた全体構成の中で視聴者に伝わった。

(水沢健彦)

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