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社説
05月26日付
■ブッシュ演説――誰がこれで納得するか
ブッシュ米大統領がイラク政策について演説した。暴力と混乱のイラクを民主主義と平和のイラクに変えてみせる。来月末の主権の移譲から選挙の実施までの五つの段階を着実にこなしていく。テロとの戦いには必ず勝つ。
「困難な日々はあろうし、混沌(こんとん)とした状況が時に生まれるかも知れない」が、強固な国際連帯とたゆまぬ努力があれば敵をくじくことができる、と。
しかし、イラクやイラクをめぐる国際社会の現実に照らして、この演説はどれほどの説得力を持ったろうか。むしろ、イラク人虐待の舞台となった刑務所を取り壊すということ以外に新味を出せなかったことに、ブッシュ氏の本当の苦境を感じた人が米国にも少なくあるまい。
反占領勢力の抵抗が収まる展望はあるのか。世界は米国を助けるのか。米軍はいつ帰還できるのか。誰もが知りたいそうした疑問への答えはなかった。
イラク側には立法、司法、行政や石油の管理などの権利まで渡すのかどうか。占領終結後も米政府と軍による実質的な占領が続くことはないのか。主権移譲まで40日を切ったというのに、そのこともはっきりしなかった。むしろ、米軍の駐留は「必要な限り」続けるとしたブッシュ氏の強気ばかりが際立った。
イラク情勢は、もはやブッシュ流の「テロリストか味方か」という2分法では対処できないほど複雑である。
反占領活動は、当初侵攻を歓迎したシーア派にも広がった。敵として解体したスンニ派の旧軍幹部やバース党員を、治安維持に役立つからと復権させたのは、ほかならぬ米軍だ。軸足の定まらない米国の政策にこんどはシーア派やクルド人が反発する。そんな構図だ。
大統領演説を前に、米英両政府は、主権移譲後の多国籍軍の任務と権限を定めた新たな決議の草案を、国連安保理に提出した。
だが、大前提は多国籍軍の指揮権を米国が握り続けることだ。これでは、国際的な合意は難しかろう。
イラクの再建にとって、治安は最も重要な課題だ。今のままでは国連が活動できず、国連中心の再建は絵に描いたもちになってしまう。だが、かといって治安維持を名目に米軍が駐留し続ければ反米活動は収まらず、再建も進まない。
このジレンマを解くには、米国が暫定政府に権限を名実ともに渡し、イラクと国連を側面から助けることだ。治安も含めて、イラク政府が自分の意思で国づくりをする環境の整備こそ、いまや米国にとっても最優先の課題ではないのか。
重要な大統領演説は3大ネットで中継されることが多いが、今回は選挙戦術臭が濃いとして中継されなかった。
ブッシュ氏の支持率は最低を更新している。秋の大統領選挙を考えれば由々しき事態に違いないが、そうであればなおのこと、突っ張るばかりでなく、イラク政策の総括と新たな針路を聞きたかった。残ったのは深い失望である。
http://www.asahi.com/paper/editorial20040526.html