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特報
2004.05.24
地方の『非核』も危機
有事7法案 議論なく衆院通過
年金問題、小泉首相訪朝の陰で今月二十日、戦後を画期する重要法案が衆院をあっさり通過した。有事関連七法案と、それに関係する三条約締結承認案だ。「改憲先取り法案」という批判に加え、従来の専守防衛を踏み越え、米国の先制攻撃戦略に国民を巻き込む恐れすらある。にもかかわらず、国会論議は低調だ。民主主義の機能不全が危ぶまれている。 (田原拓治)
「実際に個々の状況で議会と相談するしかない」。日本の海の西玄関、神戸港を管理する神戸市みなと総局海務課の石橋正好係長は戸惑いを隠さなかった。
神戸港は一九七五年の市議会決議以来、寄港する船舶に核を持っていないという非核証明提出を義務づけている。「非核神戸方式」で知られるが、米軍艦船はこれを拒んでいるため、議会決議以来、寄港していない。同市内には米国領事館があるが、「歴代領事たちは米軍艦船を神戸港に入れるのが夢、とあいさつで語るのが習わし」(石橋氏)という。
しかし、この方式も有事七法案が決まれば、崩れかねない。地方自治体の港湾管理権は憲法の「地方自治の本旨」に基づく。だが、七法案の一つ、特定公共施設利用法案には、この管理権を覆せる政府権限が記されているためだ。
神奈川県横須賀市。ハワイ沖からアラビア湾までを守備範囲とする米海軍第七艦隊の司令部がある。近い将来、予想される原子力空母配備に市を挙げて反対しているが、ここでも神戸市に似た悩みがあった。
「原子力空母の横須賀母港問題を考える市民の会」共同代表の呉東正彦弁護士は七法案と母港化反対運動の絡みをこう語った。
「微妙に悪い影響を与えかねない。今までは市長の(横須賀港への)管理権限を盾に政府に対し反対運動をつくってきたが、成立後はその盾が弱まるだろう」
■悲惨な歴史の繰り返し懸念
この特定公共施設利用法案には、政府権限での船舶の移動命令も新設された。全日本海員組合(四万人)の福岡真人政策教宣局長は「船の安全は気象や水深などを把握する船長の専権事項。それが奪われ、危険なところに追いやられる恐れがある」と懸念する。「戦前の船舶保護法の復活ともいえるが、この法律で千隻の船と六万人の船乗りが死んだ。その悲惨な歴史を繰り返したくはない」
だが、同法案成立前から既成事実化の動きもある。ことし三月中旬、名古屋港金城ふ頭に第七艦隊の旗艦「ブルーリッジ」が寄港した。同船はテロ対策として半径百五十メートルにオイルフェンス状の進入禁止機材を敷いた。地元海運業者の一人は「邪魔だったし、前例がなく驚いた」と話すが、名古屋海上保安部は「周辺の航行に支障なし」とこれを許可した。
■改憲先取り 米の戦争担う
「今回の七法案は改憲先取り法案、あるいは憲法で禁じられた集団的自衛権の行使法案と命名してもいい」。東京国際大の前田哲男教授はこう指摘する。
「一連の法案では戦前の国家総動員法に当たる国民保護法案が中心のようにみえるが、そうではない。その中身は、すでに災害対策基本法など他の法律で整えられている。中心は米軍との集団的自衛権の行使に、地方自治体や民間を組み込む国内法の整備にある」
先述の地方自治をめぐる憲法破りの可能性に加え、七法案全般に「改憲先取り」の要素は多くあると前田教授は指摘する。
「自衛隊法改正案で平時から米軍に物品や役務を提供できるようになる。さらに日米物品役務相互提供協定(ACSA)改正案で、自衛隊の後方支援の範囲を有事(武力攻撃予測事態を含む)のみならず、米軍の対テロ戦争全般に広げている。この結果として、例えば支援中の自衛隊がインド洋上などで攻撃されれば、昨年の福田前官房長官の発言では有事と認定される。その時点で、これまで禁じられてきた武器弾薬の供給や、米軍支援措置法案で国民に協力が課せられる。有事を本土攻撃と想定しがちだが、実際は違う」
これが憲法解釈上の個別的自衛権を超えることはいうまでもない。外国軍用品海上輸送規制法案にも問題は潜んでいる。
「武力攻撃を受ける前に公海上でも臨検や拿捕(だほ)、相手船への射撃も可能と定めている。政府答弁では自衛権というが、こうした行為は戦時国際法で定められ、憲法で禁じた交戦権の承認だ。外国軍用品等審判所を防衛庁に設けるという点も、これは憲法七六条で禁じた特別裁判所の設置に通じかねない」
■専守防衛型が『常時有事』に
こうした問題点を抱えつつも、一方で国民の間には「テロは身近」という懸念もある。これに対し、前田教授は「本末転倒で、米国の大義なき対テロ戦争に追随した結果がテロ懸念を生んだ」と反論する。
「一連の法案の根はアーミテージ国務副長官が就任前に記した対日報告書にある。日本の集団的自衛権の禁止が同盟協力の制約になっておりこれを解除しろと迫った。七七年の福田政権下での有事研究は専守防衛型だったが…」
法案は成立寸前だが、すでに既定とする動きも出ている。国民保護法案では、県市町村レベルで避難などに関する「計画作り」が定められる。成立に先行する形で、昨年六月までにすでに十七都県市の担当部署に現職自衛官やOBが防衛庁の周旋で就任している。
横須賀市では昨年十一月四日、米軍基地内の十二号バースの延長工事で国が市に必要書類を提出した当日にくい打ちが始まった。市職員の一人は「管理者である市との協議など念頭にないという感じだった。法案成立後は国に対して一層、ものが言いにくくなるのでは」と地方自治体に対する委縮効果を指摘する。
■随所にあいまい表現
今回の法案には、随所に「等」という文字や「行動関連措置」「円滑かつ効果的に実施される措置」(米軍支援措置法案)といったあいまいな表現、さらに政府に一任する政令委任条項がちりばめられている。こうした拡大解釈されかねない点を規定するのが国会の役割だが、衆院ではスピード審議されてしまった。
法案の分量も国民保護法案だけでも百九十七条に及ぶ。前出の呉東弁護士は法律家ながら「なかなか読み切れない」とこぼす。「七法案に重要な点を分散させて、わざと分かりにくくしている感じすらある」
憲法学者八十人が連名で反対アピールを出せたのも今月十二日で、日本弁護士連合会は「人権と民主主義にかかわる重要な法案が、十分な国民的論議の時間を保証されることなく次々に国会提出される事態は極めて異常」と批判した。
残るは参院審議。呉東弁護士は「今回の法律には予想もされていない点が多く含まれていそうだ。解釈を確定させるだけでも意義は大きい」と「良識の府」に期待を寄せるのだが…。
■有事関連7法案・3条約締結承認案の主な問題点
◇米軍支援措置法案、自衛隊法改正案、日米物品役務相互提供協定(ACSA)改正案
「自衛権の行使」を超えて「国際平和への寄与」のため、平時から恒常的に米軍への物品・役務の提供が可能。有事と認定した際は弾薬・武器の提供も。憲法で禁じた集団的自衛権に抵触する恐れがある。米軍による私有地・家屋の収用も
◇外国軍用品海上輸送規制法案
有事の際、公海上でも相手船の同意なく、臨検や拿捕(だほ)が可能に。拒めば、危害射撃も。憲法解釈上の「自衛のための最小限度の実力行使」を超えた「交戦権」に踏み込む恐れ
◇特定公共施設利用法案
地方自治体が持つ港湾管理権限を奪う規定も。「地方自治の本旨」を定めた憲法に抵触する可能性
◇国民保護法案
協力は「国民の自発的な意思」としつつも、生産・流通業者らが医療品、食料や寝具などの保管命令に従わなければ、懲役も
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20040524/mng_____tokuho__000.shtml