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5月23日付・読売社説
[日朝首脳会談]「国交正常化を焦ってはならぬ」
◆遠い拉致の全面解決◆
小泉首相が再訪朝して、金正日総書記と行った会談には、どれほどの成果があったのか。極めて疑問である。
拉致被害者の家族八人のうち五人が帰国したことは、一年七か月もの間、再会を待ち望んでいた被害者と家族にとって大きな喜びだろう。
曽我ひとみさんの家族三人の帰国・来日が課題として残されたが、政府は引き続き、一日も早い帰国の実現に力を尽くさねばならない。
横田めぐみさんら、安否不明の十人の消息について、金総書記は、「再調査する」と言うのみで、新たな情報はまったく示さなかった。拉致された疑いのある「特定失踪(しっそう)者」の問題も、進展はなかった。不誠実極まりない姿勢である。
拉致は日本の国家主権と日本国民の人権を侵した国家犯罪だ。北朝鮮には、その罪を償う義務がある。本来、被害者の家族の帰国も即時・無条件で実現すべきものだ。首相が出迎える形で訪朝したこと自体も、首をかしげさせる。
「再調査」には、日本側も加わると言うが、北朝鮮主導の調査では、信用できる調査結果は期待できない。日本側が直接、調査に当たることも含め、強い姿勢で全面解決を迫る必要がある。
拉致被害者の家族の帰国とともに、二〇〇二年九月の日朝平壌宣言を「日朝関係の基礎」と再確認し、国交正常化交渉の再開で合意した。拉致と核・ミサイルの包括解決を目指す立場から、核の全面廃棄を求め、ミサイル発射のモラトリアム延長の言質も得た。
首相とすれば、最低限の成果は上げたという思いなのかもしれない。
だが、拉致も、核・ミサイルという安全保障の問題も、解決への道筋はまったくつかなかった。これでは、成果があったとは、言えないのではないか。
◆制裁カードは必要だ◆
それでいて、二十五万トンの食糧や一千万ドル相当の医薬品など、人道名目の支援を約束した。日本はこれまで、約百十八万トンの食糧支援を、人道名目で実施している。いずれも日朝関係改善の“環境整備”のためなどとされ、実質的にはほとんど政治的配慮による支援だ。だが、事態の改善につながることはなかった。
今回の支援の約束も、家族の帰国問題を外交カードに利用され、“見返り”を与えるのに等しいのではないか。
「日朝平壌宣言を順守する限り」という前提をつけたとはいえ、「制裁措置を発動しない」と約束して、事実上、「圧力」のカードを放棄したのも問題だ。
北朝鮮は現に、日朝平壌宣言で、「核問題に関するすべての国際合意を順守する」と約束しながら、これに反して核兵器の開発を進めている。
相手は、自分勝手な理屈で行動する独裁国家だ。常に制裁措置を発動できる態勢を整えておくのは当然のことだ。北朝鮮船舶を想定した特定船舶入港禁止法案を今国会で成立させねばならない。
◆核兵器の廃棄を迫れ◆
国交正常化交渉は六月にも再開される見通しだ。経済が疲弊する北朝鮮は、国交正常化後、日本から大規模な経済支援を得ることに強い期待を抱いている。従来の交渉でも、国交正常化と経済支援の協議を優先させるよう求めていた。
だが、日本として、拉致と核・ミサイルの包括的かつ全面的解決なしに、国交正常化はできない。核・ミサイルの問題は、日本や北東アジアの安全保障に直接にかかわる問題だ。
北朝鮮は、核燃料棒を再処理しプルトニウムを生産している。ウラン濃縮を行っている疑いも濃厚だ。
北朝鮮は、日本全体を射程に入れるノドン・ミサイルの増強を進め、約二百基を配備している。核弾頭のミサイル搭載が可能になれば、日本の安全にとって極めて深刻な脅威となる。
六か国協議のテーマとなっている核問題について、北朝鮮は、米朝間の問題だとして、日朝間で協議することには反対している。ノドン・ミサイルには、直接の脅威とはならない米国の関心はそれほど強くない。
だからこそ、日本は、日朝平壌宣言に従って、日朝間で核・ミサイルの問題をきちんと取り上げ、全面的な廃棄を迫らなければならない。
◆原則の堅持が大事だ◆
北朝鮮は、日本の首相に二度も足を運ばせたことで、メンツを保ったと、考えているだろう。
本格的な経済支援を早く引き出そうと、国交正常化交渉の進展を急ぐことが予想される。交渉を通じて、北朝鮮に対する日本の姿勢を軟化させ、日米の連携の分断に利用する可能性もある。
今後も、北朝鮮は様々な揺さぶりをかけてくるだろう。
日本政府は、拉致、核・ミサイルの包括解決という原則を堅持して、国交正常化交渉に臨まなければならない。日朝が突出することのないよう、米国や韓国との連携を一層強めることも大事だ。国交正常化を焦る必要はまったくない。
(2004/5/23/01:29 読売新聞 無断転載禁止)
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20040522ig90.htm