現在地 HOME > 掲示板 > 戦争55 > 649.html ★阿修羅♪ |
|
Tweet |
社説:小泉再訪朝 5人の帰国では終わらない
とにかく家族5人が帰国できてよかったが、これで納得するわけにはいかない……。国民の多くはこんな複雑な気持ちではないか。
22日の小泉純一郎首相の再訪朝によって、蓮池薫さん夫妻の長女と長男、地村保志さん夫妻の長女と長男、二男の帰国が実現した。
曽我ひとみさんの夫で元米兵のジェンキンスさんと長女、二女は帰国せず、曽我さん一家は近く北京で再会することになった。
拉致被害者5人が帰国して1年7カ月。こう着状態が続いていただけに、今回、彼らが帰国したことを心から喜びたい。
曽我さんの家族が一緒に帰国できなかったのは残念だ。ジェンキンスさんは脱走罪で米政府に訴追されることを恐れている。来日するかどうか、北京で曽我さんと話し合うことになったが、その際、互いの自由意思が完全に保証されなければならない。
小泉首相と金正日(キムジョンイル)総書記は「死亡・不明」とされていた拉致被害者10人の安否確認について再調査することで合意した。
02年9月17日の首脳会談で金総書記は日本人拉致を認め謝罪した。だが、北朝鮮は10人について余りにもずさんな調査結果を示し、「拉致問題は決着済み」との態度をとってきた。それが日本の国民に北朝鮮への強い不信感を植え付けた。再調査が本当に誠実に実施されるよう、首相は責任を負わなければならない。
核問題は進展せず 拉致問題の解決はいうまでもなく日朝国交正常化の前提だ。両国民の相互理解を深めるための条件でもある。だから家族5人の帰国で拉致問題の幕引きにはならない。金総書記も約束した以上、10人の真相究明を実現してほしい。
日朝平壌宣言に立ち戻り、中断していた国交正常化交渉の再開の動きが出たことは一歩前進だと受け止めたい。
国交正常化は日本にとっては残された最大の戦後処理である。だからこそ平壌宣言では日本の植民地支配で朝鮮半島の人たちに与えた「多大の損害と苦痛」に対し「痛切な反省と心からのおわびの気持ち」を表明したのだ。
一方で平壌宣言には朝鮮半島での核問題の包括的な解決を目指し両国が「すべての国際的合意を順守することを確認した」とうたっている。核問題やミサイル問題など安全保障上の問題について対話を促進し問題解決を図ることの必要性も明記した。
金総書記が本当に平壌宣言に基づいて正常化交渉を進めようというのであれば、主体的に核問題の解決に取り組まねばならない。自らに向けられている疑念をぬぐい去るべきだ。
もともと北朝鮮は自分で疑惑のタネをまいた。ウラン濃縮による核開発を認めたのは、日朝首脳会談で両首脳が平壌宣言に署名した翌月のことだ。さらに03年1月には核拡散防止条約(NPT)からの脱退と国際原子力機関(IAEA)の保障措置協定の義務を放棄する旨を表明した。こうした行為は、軽水炉を建設し代替エネルギーを供与する代わりに核関連施設を凍結・解体するなどとした94年の米朝枠組み合意に反することは明白である。北朝鮮は核問題で国際社会に対して背を向け続けているのだ。
核問題をめぐる協議の主舞台は6カ国協議に移ったが、今回の会談で首相は「北朝鮮にとって最も利益になるのが核の完全廃棄だ」と説得したという。だが金総書記からは核の廃棄に向けた明確な言質を引き出すことはできなかった。
にもかかわらず小泉首相は国際機関を通じて25万トンのコメ支援と1000万ドル相当の医療支援を約束した。首相は「各国も人道支援を行っている」と釈明するが、家族の帰国の見返りではとの疑問はぬぐえない。核問題やミサイル問題の解決の見通しがつかない中での支援の拡大には懸念を抱く。
コメ支援批判に説明を 小泉首相が、平壌宣言を順守していく限り日本は制裁措置を発動しないと金総書記に伝えたことも納得できない。「対話と圧力」の政府の対処方針を変更するというのだろうか。
与党は万景峰(マンギョンボン)号の入港阻止を狙った特定船舶入港禁止法案を国会に提出し、民主党も同様の法案を作成している。首相は経済制裁という外交手段を放棄したのかどうか、国会と国民に明らかにしなければならない。
国交正常化交渉の再開については今後、両国の担当者で決めるというが、金総書記本人から十分に言葉を引き出せなかったのも残念である。北朝鮮の最高指導者である金総書記の発言は絶対だ。時間を十分にとり、拉致問題だけでなく核問題やミサイル問題などについてもっと踏み込んだ話をすべきだった。
拉致被害者の「家族会」代表の横田滋さんは安否不明の10人の再調査について突っ込んだ話がなかったことやコメ支援を約束したことなどを批判し、「最悪の結果となった」と厳しい見方を示した。拉致議連の平沼赳夫会長も「安易な妥協だ」と批判した。
小泉首相には「北朝鮮への譲歩が過ぎた」「10人の問題が棚上げされた」などという批判や疑問にきちんと答えてもらいたい。
「近くて遠い関係は、20世紀の遺物になると思う」
2年前の首脳会談で金総書記は小泉首相にこう語った。
小泉首相は今回の再訪朝に際して「両国の敵対関係を友好関係に変えていく」と語った。
だが、現実には両国はなお「近くて遠い関係」にあるといわなければならない。首相再訪朝という切り札を切ったにもかかわらず、これだけの結果しか得られなかった。日朝関係はまだほんの入り口に立ったにすぎない。
毎日新聞 2004年5月23日 1時58分
http://www.mainichi-msn.co.jp/column/shasetsu/news/20040523k0000m070135000c.html