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灼熱のイラク戦場日記 4月12日【フライデー】高遠さんとストリートチルドレン
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投稿者 天地 日時 2004 年 5 月 20 日 19:35:06:IVYNMLFehyE6c
 

4月12日 バグダッド
高遠さんとストリートチルドレン

 目玉焼き醤油かけ、ちょっと飽きてきました。
 朝から原稿を書くなどして、インターネットでニュースをチェック。昨日、ナビールにアルジャジーラで人質についての声明を読み上げたドレイミ氏の連絡先を調べるように伝えていたので、今日にはわかるはずです。
 あとはどこで取材できるか……。
 今朝も大きな爆発音で目が覚めました。ここから700〜800mほど先のCPA(連合国暫定当局) が狙われたようですが、爆撃や小競り合いが連日続くなか、たとえバグダッド市内とはいえ、むやみに街中をまわるのは危険になってきました。そのため、事前に向かう場所を決め、取材をしたらすぐに戻るという方法をとる必要があります。
 午前中はまず高遠さんの立ち回り先を当たることにしました。当初、アンダルスパレスホテルにほど近い場所を訪ねたのですが誰も居ず、情報を集めた結果、次に向かうことになったのはなんと自分のいるホテルから100mも離れていない場所でした。
 そんな場所にストリートチルドレンが住んでいる廃ビルがあるなどということは、何も意識していませんでした。まさに「灯台下暗し」であります。
 その一角に行くと、ボロボロの衣服をまとった中学生くらいの子供がシンナーを吸っていました。日本と同じでビニール袋に入れた白っぽい液体を口に当てては虚ろな目をしています。
 ナビールが何かを話しかけました。
「ナホコ……」

 高遠さんの名前を口にしているのが聞き取れました。
「彼らはみんなナホコを知っているそうです」
 アドナンが言います。
 ビデオカメラを持っていたため、すぐに子供たちが集まってきました。
「あそこにマットが見えるだろ」
 子供の一人が路上に置かれたマットを指差します。
「いつもあそこで寝ている知り合いが病気になったんだ。そうしたらナホコが病院に連れて行ってくれて、手術も必要だったんだけど、すべて面倒を見てくれたんだ」
 その時、シンナーを吸っていた少年の一人が、わたしに詰め寄ろうとしました。ラリっている彼の目は血走っています。ナビールが笑顔で黙ったままその少年の腕を掴みました。
「ナホコ、ナホコ!」
 ナビールの力が予想以上に強いのでしょう。少年はまったく身動きが取れない状況で拳を振り上げてそう叫んでいます。
「ナホコはなんでいなくなったんだと言っているんです」
 アドナンが彼の言葉を訳しました。
 やがてナビールが手を放すと、少年はふたたびわたしに迫ろうとします。するとまた笑顔を崩さず間に割って入るナビール。
 少年の寂しさとともに、ナビールがわたしを守ろうとしていることが伝わりました。
 こいつは信頼できる。
 取材とはまったく関係ないことが頭に浮かびました。彼と出会って6日も経ってからそう認識するのは失礼な話ですが、事実だから仕方ありません。見知らぬ場所では、たとえスタッフであれ疑ってかかるという「肩の荷」が一つ降ろされた瞬間でした。
 話を元に戻しましょう。
 子供たちが高遠さんに寄せる信頼は、絶大なものでした。彼らはみな一様に口にします。「ナホコはいつ戻ってきてくれるんだ」、と。それがいかに大変で、大したことであるか、話を聞きながら考えていました。
 ストリートチルドレンが他人に心を開くということは、容易なことではありません。偽物の善意はすぐに相手に伝わり、拒絶されてしまいます。全身でぶつかっていかないと、このような信頼は得られないでしょう。
 聞けば、彼女は子供たちに食糧を持って来て、一緒に食べていたそうです。また、シンナーを吸っているのを見つけると本気で怒ってくれたそうです。
 30分ほどの取材を終えた時、ナビールの顔が今度は怒りに震えていました。
 どうした、ナビール?
「小野さん、私はこんなにイラクの子供のためにやってくれているナホコを誘拐した犯人が許せません。いますぐアルジャジーラに行きましょう」
 アルジャジーラ? どうして?
「いま撮ったビデオを放送してもらうのです。そうしたらナホコを誘拐した犯人も絶対に後悔して彼女たちを解放するはずです。お願いです。一緒に来てください」
 彼の真剣な表情を見て、わたしはとてもノーとは言えませんでした。
 車でアルジャジーラの支局があるホテルへと向かう途中、アルジャジーラがこのビデオを放送することはないだろうと確信していました。子供たちのインタビューで高遠さんがどんな人だったかを伝えるというのは、残念ながら同局のニュース番組の枠からはみ出していることは明らかだからです。しかし同時に、そのような冷静な判断をしている自分を情けなくも感じていました。
 ナビールが持っている「熱」を持つことこそが、本来、わたしが仕事に向けるべき態度なのではないか、と。
 それとともに、彼の「熱」に感動していました。彼の怒りの底にある深い人情に、イラク人の心根を見た思いでした。
 アルジャジーラでは担当者から「申し訳ないが放送に関する権限はすべてドーハ(アルジャジーラの本社があるカタールの首都)にあるため、我々はなにもできない」と、なかば予想していた回答を聞かされました。
「だめだな、あんな男はすぐにクビになるよ」
 帰りの車中、アドナンが担当者を揶揄(やゆ)して言います。
 ああ、その通り。どうしようもない男だったねえ。
 わたしもつけ加えました。
「ハハハ、私もそう思います」
 ナビールもやっと笑顔を取り戻し、それからは3人でアルジャジーラの悪口をひとしきり語りつつ、ホテルに戻ったのでした。
 やがて午後3時半ごろになり、アンダルスパレスホテルに行くことにしました。やはり高遠さんのことを知る日本人の話も聞いておきたかったのです。
 ホテルのロビーには先日、高遠さんの部屋に案内してくれたフロントマンがいました。現在このホテルに滞在している日本人がいないかと尋ねると、「後ろにいるよ」と指差します。へっ? と振り返ると、後方のソファに中年の男性が座っていました。
 フリーのビデオジャーナリストだというその男性から聞いたのは、午前中に取材した子供たちの話をより鮮明にしたものでした。
 なかでも高遠さんが特出しているという印象を受けたのは、ただ物を与えるだけの支援を否定していたことです。
 たとえば彼女はバグダッドだけでなく、日本の自衛隊がやってくる直前のサマワも訪ねていました。そこでサマワ総合病院の実態調査をしたようなのですが、病院の担当者は「この機材が壊れているから直してほしい」とか「トイレなどもすごく汚くなっているのでキレイにしてほしい」という要望を並べ立てたそうです。それに対して、彼女はキレました。
「壊れた機材は自分たちで修理すればいいじゃないか。汚れたトイレは自分たちで掃除すればいいだろ。なんでも人に頼っているからダメなんだ」と。
 本来、支援すべきではないことまで支援すると、人は結局「依存の心」を持つようになるという考えが根底にあるからこその言葉です。
 また同じくサマワで失業者を集めての懇談会を行った時のこと。
 仕事が欲しいと一方的に主張する失業者に対して、高遠さんはまたもやキレたそうです。
「ふざけるな。あれくれ、これくれと言ってるんじゃなく、自分たちで主体的に動かなくてどうするのよ。今のあなたたちは物乞いと一緒よ」と。
 その言葉に失業者たちは目覚めたといいます。
「そうだ、僕たちは物乞いじゃない」
「僕たちは自立したいんだ」
 などの意見が上がり、最後はみんなで頑張ろうと変わっていったのだそうです。
「高遠さんは、人間のプライドを大事にしながら自立を勧めていくんですよ……」
 そのビデオジャーナリストは語りました。
 高遠さんの支援方法は、ただ物資を与えるだけの自衛隊の対極にあります。いったいどちらがより彼らのためになるだろうかは、言うまでもありません。
 夜はふたたび片野田さんの部屋でチキンエスカラップを。飽きませんなあ、この味。渡辺さんと某新聞社のFさんも途中から参加してビールを飲みながら語り合います。ちなみにこのベランダは「クラブ片野田」と命名されました。夜な夜な、寂しいことが嫌いな男たちが集っております。

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