現在地 HOME > 掲示板 > 戦争55 > 341.html ★阿修羅♪ |
|
Tweet |
記者の目:イラクの治安悪化 米軍残留なら統治困難
イラクは変わってしまった。極度に治安が悪化した4月にイラクで取材した実感だ。イラク人はもはや米軍をはじめ、外国人を信用していない。刑務所の虐待も一つの契機だが、それ以前に米軍は、罪もないイラク人に銃を向け、信頼を失墜させてしまった。このままでは「米軍が治安を維持し国連主導で政権樹立」という多くの外国人が理想とするシナリオは崩れてしまうと思う。
イラク人の心が以前と違うと思ったのはバグダッドの病院を訪ねた時だ。「米軍には知られませんね」。米軍が攻撃していたバグダッド西方ファルージャから運ばれた負傷者を探していた私に、米海兵隊の「無差別射撃」で負傷したという女性(18)はおびえた表情で、念押しした。米軍が病院で、ファルージャのけが人を拘束していたからだ。
病院職員が見せた女性のカルテの住所欄にはバグダッドの地名があった。「米軍から守るためだ」と職員は話す。米軍の捜索に居合わせた別の職員は「病院を管轄する保健省はイラク人に移譲されたのに、米軍は制止も聞かず、負傷した住民を連れ去った」と憤る。
攻撃は3月末、米警備会社の職員4人が惨殺された事件に端を発する。米軍は4月5日から同市を包囲し攻撃した。無関係な子供や女性が多数殺され、イラク人の怒りに火をつけた。
米軍はファルージャを「テロリストや外国人勢力の巣窟(そうくつ)」と断定した。しかし、バグダッド市民は米軍の目を盗み、数万人とも言われる避難民をひそかに迎え、無償で部屋、食事、衣類を提供した。22人を引き取ったバグダッドの男性(30)は「彼らは自衛しているだけだ。米軍は罪もないイラク人を無差別に殺している」と話した。外国軍から同胞を守るという強い連帯意識を感じた。
米軍はイスラム教指導者ムクタダ・サドル師の民兵組織とも交戦している。直接会見した経験から言えば、同師に自信は感じられず、影の薄い存在だった。それが今やポスターが至る所に張られ、人気は絶大だ。同師は過激派ではあるが、フセイン政権下で弾圧されたシーア派の指導者だ。「解放」の対象だった同派住民に銃を向けた米軍への不信が同師の人気の背景にある。シーア派はスンニ派の多いファルージャで協力。両派は「反占領」で近づきつつある。
イラクの刑務所での虐待問題でブッシュ米政権への批判が高まっている。怒っているイラク人も多いが、「無差別攻撃」の後では「何をいまさら」という冷めた反応も国民の中にある。
小学生のムーフィ・カーボン君(8)は、4月上旬、イラク南部アマラの住宅地の広場で、友達とサッカーをしていて米軍の戦闘車両に攻撃され、右手を負傷。友人2人は即死した。サドル派への攻撃に巻き込まれたらしい。「許せない」と母親(33)は激怒する。
血のりで汚れた米軍の顔をイラク人は見せつけられてきた。米国は虐待疑惑という鏡で自分の姿を初めて見て、あわてているかのようだ。一部の軍人が裁かれても問題は解決しない。
日本人人質事件もファルージャ攻撃が引き金になった。同市の避難民からは何度も「なぜ友人だった日本は市民を虐殺する米国を助けるのか」と詰問された。スペイン軍に負傷させられた男性(33)は「同軍の撤退を歓迎する。もう外国軍はいらない」と話す。
イラク派兵を拒否するドイツの外務省幹部が昨秋、「イラクは外国軍を必要としない」と話したのを思い出す。当時私は「米軍しか治安維持はできない」と考え、復興協力をイラク人警官の訓練だけとするドイツの姿勢は甘いと思った。
しかし、イラク人の心が変わった今、彼の言い分は正しくなった。ファルージャの戦闘は、米海兵隊が撤収し、元イラク軍兵士が前面に出て、あっという間に収束に向かいつつある。
米国も国連も米軍駐留継続の意向であり、日本など外国軍の多くも撤兵しない、としている。だが、米軍や外国軍が際限なく影響力を行使し続ければ、反占領で結束しつつあるイラク国民のさらなる反発を招く。
「米軍と外国軍はイラクから去る」。そう宣言し、全員解雇した元イラク軍兵士を大量に再雇用するなど「イラク人がイラクを名実ともに統治する」状況を作らないと、暫定政権、総選挙などのシナリオはとても実現できないと思う。【ベルリン支局・斎藤義彦】
毎日新聞 2004年5月18日 0時31分
http://www.mainichi-msn.co.jp/kokusai/afro-ocea/news/20040518k0000m070153000c.html