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自衛隊ニュース2004年5月1日号
<論陣>
6月末のイラク人への主権移譲
われわれは冷静に見詰めよう
6月末の主権移譲を目前にして、イラクの人達は荒廃した国家、国土の復興を選ぶのか、戦争への道を選択するのか、その心底が見えなくなってしまった。イラク国民を長い間、圧政と弾圧の下に苦しめてきた独裁者サダム・フセイン政権が米英軍を中核とした連合軍によって倒されたときには、フセインの銅像を引き倒し、肖像画を焼いて狂喜乱舞した。進駐してくる連合軍には国旗を振り、笑顔でこれを迎えた。テレビ映像は連日、こうした映像を繰り返し放映した。世界の人たちは「これでイラクにも自由がきた」と心から思った。
あれから1年強。イラクは再び戦場と化してしまった。どうしてそうなってしまったのだろうか。旧フセイン政権残党、イスラム原理主義的テロリスト、反米スンニ派などが、復権や主権の主導権(将来の)などを狙って陰に陽に手をとり合って連合軍を攻撃し始めたのが主な原因である。特にバクダットに近いファルージアで4月はじめ展開された戦闘以来、一時的に休戦が行われたが、中旬以降再び激戦となった。それに職を失った若者が民兵組織を作り、参戦している。それでなくても"目には目を、歯には歯を"のイスラム教徒は、激化しやすい。米軍や民間の車両に火を付けて、群衆が燃え盛る車に投石しているテレビの映像などを見ると"大衆の激情心理"がよく分かる。
戦闘が激しくなるに従って、イラク戦闘集団に新しい戦術が現われた。"人質作戦"である。日本人も捕われた。イタリア人、アメリカ人、ロシア人、中国人、韓国人など、まるで民間人達が見境いなく捕えられ、人質となった。ある者は解放され、ある者は殺害された。地元の子供たちから尊敬されているボランティア女性、フリージャーナリスト、商人、石油会社社員、だれも"武装"しているものはいなかった。なにかの駆け引きや取り引きに使い、連合軍の鉾先を鈍らせるためだろうが、純粋な民間人を人質にするのは許せるものではない。もっとも、この人達も各国政府の渡航自粛要請などを無視してイラク入りをしているふしが強い。あくまで"自己責任"意識をもっと持つべきだったと思う。
反連合軍武装勢力も、イラクに派遣されている各国軍隊や自衛隊の派遣目的、任務については"相当"研究しているようだ。例えば米、英、伊、オランダなどイラク国内の治安維持にも当っている軍隊は、武装勢力は、もちろん"民衆の敵"とまで位置付けていると思われる。一方、6百有余人の陸上自衛隊の場合は「自衛隊は戦争しにイラクに来たのではない。彼らは給水、道路、病院、学校の修復、医療活動が任務だ」と、はっきり"味方"として見ている。現に部族長などは「亀のようにサマワ宿営地内に閉じ込らず、仕事を進めてもらいたい」と語っていたという。
対米強硬派でイスラム教シーア派若手指導者といわれているムクタダ・サドル師(推定年齢30歳)などは、民兵組織「マハディ軍」を率いてバグダット北東部のサドルシティなどで米軍と激戦をくりひろげていたが、4月10日過ぎあたりから、その態度が次第に変化を見せ始め、「連合軍やイラク人暫定評議員との話し合いによる一時停戦、イラク全土の平穏化」を口にするようになってきた。というのは、サドル師は当初、武闘派と見られたが、実は「政治家である可能性が大」なのである。いま国連主導で米英などがバックアップすることを考えている6月末日のイラク人による暫定機構にはシーア派、スンニ派、クルド人、地方族長、女性代表、などから幅広く民衆の声を聞き、これに応える人達によって構成しようとしている。
この機構が出来ると今年いっぱいを目処に「暫定国民会議」が組織され、予定では来年1月ごろ「暫定政権」=内閣=が選出されることになっている。
シーア派も、スンニ派も、宗教代表者会議、教育者なども、とにかく6月末月の主権移譲のときに作られる暫定組織に「一人でも多く自派からの委員を送り込み、発言力の強大化を狙う」のが目的である。いまの"激戦"も「イラクから占領軍を追い出す」ことを名目とした"自派の強さ誇示作戦"の一面もある。
http://www.mil-box.com/news/2004/20040501_3.html