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なぜ ビラ配布で 拘置75日
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20040514/mng_____tokuho__000.shtml
東京都立川市内で、防衛庁官舎に反戦ビラを配っただけで逮捕され、拘置が続いていた市民団体のメンバー三人が十一日夕、七十五日ぶりに保釈された。国際人権擁護団体「アムネスティ」が日本初の「良心の囚人」と認定、憲法学者も相次いで抗議声明に名を連ねた。比較は失礼かもしれないが、拘束期間はイラク邦人人質の十倍以上だ。「なぜ」の声も上がる中、事件から透けて見える時代の“息苦しさ”とは−。
マンションのチャイムが続けざまに鳴り、ドアが激しくたたかれた。枕元の時計は午前六時半を指している。「開けろ、コラ」「開けないと壊すぞ」。ドアののぞき穴から見ると、五十代の男性ら数人がいた。
防衛庁官舎の新聞受けにビラを入れ、二月二十七日に住居侵入容疑で逮捕された市民団体「立川自衛隊監視テント村」メンバー三人のうちの一人、障害者介助者の高田幸美さん(31)は逮捕当日の様子をこう話す。
■ドアチェーンを切断し家宅捜索
「立川署の者だ。家宅捜索だ」。高田さんは同じ団体の一員である家主に連絡するとことわり、ドアチェーンをかけた上で、扉を開けた。電話する背後でチェーンが切られる音がした。
捜査員は五、六人。別にマンションの入り口を制服警官が取り囲んだ。家主にもなかなか連絡がつかない。傍らの捜査員が「家主は来られない。あそこもガサ(家宅捜索)だからな」と話す。この日、同じ容疑で計六カ所が一斉捜索された。
約三時間続いた家宅捜索の最後に、捜査員がこう告げた。「実はもう一つ見せるものがある」。高田さんへの逮捕令状だった。家宅捜索も逮捕も予想していなかった。もちろん、双方とも初めての経験だった。
高田さんたちが、同市内の自衛隊官舎に月一回のビラ入れを始めたのは、昨年十月。トラブルらしきことと言えば、一月に住民の男性から「配ったビラを回収しろ」「こういうのは困る」と言われたことだけだ。だが、その後、追起訴を経て、拘置は立川署、八王子拘置支所合わせて七十五日間に及んだ。東京高裁が地裁八王子支部の保釈許可を支持したため、外に出られたが、保釈金は三人合わせて四百五十万円に上る。
調べは一日六時間から八時間。「運動なんかやめろ」「この寄生虫」「自転車で立川を走れないようにしてやる」「おまえは鉄砲玉。ほかの連中は責任を押しつけるつもりだ」。高田さんが覚えている取調官の言葉だ。実家にも「娘さんはヤクザの使い走りをしている」と電話があったという。
途中、接見した弁護士が警視庁に取調官の暴言などを抗議し、監察官が訪れたこともあった。「その後、調べは少しはおとなしくなった」。同時に逮捕された介助者の大西章寛さん(30)は振り返る。「逮捕に対する憤りはあったけど、拘置がいつまで続くのかを考えると正直、不安でした」
逮捕された中では最年長の地方公務員大洞俊之さん(47)は逮捕の理由をこう考える。「調べの中で検事は『この問題は双方(市民運動、政府)にとり大きい。チラシを入れている団体が増えているかどうか、調べてみろ』と話した。長期拘置やそれに伴う生活破壊で全国の運動体や個人を委縮させるのが狙いだろう」
確かに、今回の逮捕は、自衛隊のイラク派遣などに反対する市民運動に有形無形の影響を与えたようだ。
神奈川県横須賀市で、基地や核のない街を、と運動している市民グループ「非核市民宣言運動・ヨコスカ」も、イラク派遣で自衛官や家族へのアンケート、官舎へのビラ配りなどを行っている。メンバーの新倉裕史さんは、今回の逮捕について、明らかな運動つぶしとした上で、「活動は慎重にしなければ、と考えていた」と話す。
「私たちの場合は、ビラを受け取る自衛官の立場になる、ということから、戸別ではなく中央ポストに入れるなど、配慮、工夫をしている。しかし、今回の問題が起きて、委縮した部分があるのは事実。ビラをダイレクトメールにするなどした。いずれにしろ、こうしたことで自衛官への働きかけそのものが衰退してしまうことが、一番の問題」
一方で、三人の初公判で弁護側が主張したように、ビラは「市民が自分の思想や経験を他者に伝える数少ない手段」でもある。
派遣命令が出された一月末、連合加盟の労組員らが「派遣中止」を訴えるビラを、北海道・旭川駐屯地周辺の自衛隊官舎をはじめ旭川市内全域に配った。今回の事件同様、官舎へは戸別配布も行った。
連合北海道上川地域協議会の小黒修司会長が説明する。
■旭川での配布に「批判なかった」
「約十万枚のビラを配ったが、官舎を避ける必要はないと判断した。実際に隊員や家族を含め、『こんなものを入れるな』という批判の声はなかった。むしろ、ビラや街頭行動を見て、自衛隊の方々からの意見や問い合わせが多い。『本当に行かなければいけないのか』『非常に不安だ』という寄せられた声を見る限り、政治的な背景は抜きにして、少しでも情報を知りたい、派遣の理由を知りたいという切実な思いが伝わってくる」
立川のニュースは旭川市でもすぐに広まった。小黒会長は「ビラは郵便受けに入れるという常識の範囲内で、それを捕まえるというやり方が怖い。必要がなければ、皆さんは見ずに捨てる。逆に隊員や家族の不安、疑問を官舎の中だけに閉じ込めるという発想がおかしい。私たちはイラク派遣反対にとどまらず、年金問題も含め、これからもどんどんビラを配り、いろいろな意見があることを知ってもらおうと思う」と話す。
■「戦時体制下の言論の封殺だ」
日常的にピザやすしの宅配業者などのチラシは配られる。しかし、ビラの内容次第で逮捕、長期拘置される時代の訪れなのか。
「天皇の玉音放送」などの著書がある東京大学大学院の小森陽一教授は「今回の行き過ぎた事件は、単なる時代の空気ではなく、はっきりと自衛隊のイラク派遣と連動している」とした上で、こう危惧(きぐ)する。
「イラク人質事件で明らかになった一連のバッシング社会も、バッシングする側が自分たちがよからぬことをやっている意識を持っているからこそ攻撃が過剰になった。狙われるのは社会的に弱い相手や、脅しでひるむとみられた市民だ。テレビ、大手新聞社が対抗的な言論で報道できないため、イラク派遣の正当性を問う声は小さくさせられている。むしろ、草の根の反対、抗議は報道しないというメディア側の意識も垣間見える。戦時体制の中の言論の封殺が始まり、沈黙が沈黙を呼ぶ社会にはまりこんでいくのではないか」
<メモ>反戦ビラ逮捕事件
起訴状などによると、3人は1月17日、立川市の防衛庁官舎の新聞受けに「自衛隊のイラク派兵反対」というビラを配布。うち2人は2月22日にも同官舎にビラを配布した。東京地裁八王子支部で開かれた6日の初公判では、ビラ配りの正当性をめぐり、検察、弁護側が対立。被告側は「ビラ配布は正当な表現行為」と主張した。「アムネスティ・インターナショナル」(本部・ロンドン)が思想信条を理由に拘禁された「良心の囚人」に認定した