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イスラエルの核機密暴いた男、刑期18年終え釈放へ
【エルサレム=佐藤秀憲】イスラエルが進めているとされる核開発に関する機密情報を英紙に暴露し、国家反逆罪などで投獄された技術者モルデハイ・バヌヌ氏(49)が18年に及ぶ刑期を終え、21日釈放される。
「新しい人生を反核運動家として生きたい」と表明しているバヌヌ氏の釈放を契機に、イスラエルの独特の核政策に世界の注目が改めて集まるのは避けられない。政府は、バヌヌ氏の行動を厳しく制限する構えで、「核保有を否定も肯定もしない」自国の核政策へ風当たりが強まるのを回避しようと必死だ。
ポラズ内相は19日、バヌヌ氏の出国を1年間禁止すると発表した。地元紙によると、イスラエル政府はこのほか、バヌヌ氏が電話やインターネットを使って外国人と接触することや、許可なく国内を移動することも禁ずる方針。政府は、一時は自宅軟禁措置も検討したと説明しており、法治国家を標ぼうするイスラエルが、刑期を終えた者に、これだけの制約を課すのは異例だ。当局が、いかにバヌヌ氏のこれからを警戒しているかをうかがわせる。
バヌヌ氏釈放にあたっては、イスラエル中西部アシュケロン近郊の刑務所に世界各国から平和団体や反核団体関係者らが駆けつけ、盛大に迎える計画だ。
バヌヌ氏は、イスラエル南部ネゲブ砂漠のディモナにある原子力研究センターで9年間技師を務めた後、1986年、英紙サンデー・タイムズに、盗み撮りした写真や見取り図とともに「同センターが原爆秘密工場になっている」と暴露。これをもとに同紙は、同年10月、「イスラエルは100発以上の原爆を保有している」などと詳報した。
同紙への証言の直後、バヌヌ氏は、知り合ったばかりの女性に誘われて訪ねたローマのホテルの部屋でイスラエルの諜報(ちょうほう)機関モサドによって拉致されてイスラエルに連れ戻され、国家反逆罪およびスパイ罪で有罪判決を受けた。
「イラクの原子炉が(81年にイスラエル軍の空爆で)破壊されたように、イスラエルの原子炉が破壊されることを望む」。イディオト・アハロノト紙によると、バヌヌ氏は、3月に行われた治安当局者との面会でこう述べるとともに、英紙への機密情報の暴露についても「正しいことをした」と言い切り、イスラエルの核開発に反対していく立場を鮮明にした。
中東では、リビアが核兵器を含むすべての大量破壊兵器計画の放棄を宣言、イランも核査察受け入れを決めるなど核管理体制の強化が進んでいる。その中で、核拡散防止条約(NPT)にも加盟しないイスラエルの異質ぶりは際立っている。
ヘブライ大学のエイタン・バラク講師(軍備管理・軍縮学)は、「政府は、バヌヌ氏が世界の反核運動を主導したり、イスラエルの核政策批判キャンペーンを展開したりすることを阻止したいのだ」と、バヌヌ氏の扱いに困惑するイスラエル政府の苦悩ぶりを解説している。
◆イスラエルの核開発=南部ネゲブ砂漠にある原子力研究センターで秘密裏に進められたとされる。フランスから供給された原子炉が1964年に運転開始。使用済みウラン燃料から抽出できるプルトニウム量から換算して、核爆弾100―200個を保有していると見積もられている。イスラエルは、核拡散防止条約(NPT)未加盟で、政府は核兵器の存在を否定も肯定もしていない。
(2004/4/20/15:02 読売新聞 無断転載禁止)
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20040420i406.htm