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特報:『小泉言語』混乱に拍車 イラク3邦人解放
「事件の特殊性にかんがみ、取材には一切応じない」(福田官房長官)。イラク邦人人質事件で人質三人は、無事解放された。だが政府は、この事件への事実上の取材規制をしていた。「解放に悪影響を与えないため」だったが、背景には犯行グループを「テロリスト」呼ばわりして反発を招いた小泉首相の発言が影響したとの見方もあった。この発言が解決を遅らせなかったか。「小泉言語力」の危うさとは−。
「最初のうち、人質事件にしては情報がぽつぽつ漏れていると感じたが、十三日以降は何も出てこなくなった。もともと“情報管理内閣”だったがより鮮明になった」
各社の取材記者は、人質事件で官邸の事実上の取材規制をこうぼやいた。
政府は、十三日開いた人質事件の対策本部幹事会で、この事件についての取材に一切応じないことを申し合わせた。福田官房長官は記者会見で「断片的な情報が出ていくと混乱を招くもとになる。人質の安全、生命を考えると中途半端な説明は害あって一利もない」とその理由を説明した。
取材規制の直接のきっかけはその前日、防衛庁幹部が会見で「人質が解放されたと、(カタールの衛星テレビ)アルジャジーラが放送する話がある」と述べたが、放送はなく訂正を迫られた失態だった。昨年末、自衛隊のイラク派遣時期をめぐる情報漏れで官邸が取材規制に乗り出したのと同様の構図だ。
規制は当然、小泉首相の発言にも現れた。十三日の会見では、事件の見通しなど質問に終始「分からない」を連発。報道陣をけむに巻いた。
小泉首相は、それ以前から「貝」になって発言を控えてきた。誘拐の犯行グループへ呼びかけるためにアルジャジーラへの出演が検討されたが、見送られた。人質家族が面会を求めたが、拒否してきた。
政治評論家の森田実氏は「人質の家族が会ってほしいと言ったら、会って『できる限り一生懸命やります』の一言で皆が救われる。どんな理由であれ政府が国民を見捨てることがあってはいけないのに、小泉内閣は歴代で一番冷たい」と小泉首相の言葉に誠意がないことを批判。さらに「今回の事態は、小泉内閣の過剰な自己防衛。自分の政治生命が一番かわいいというのは最低なことだ」と取材規制の理由が人質の人命優先ではなく、内閣延命のためと言い切った。
小泉首相がだんまりを決め込む背景には、実は自身の「テロリスト」発言が影響しているようだ。
首相は人質事件発生直後の九日、記者団に「テロリストの卑劣な脅しに乗ってはいけない」と発言。これが「二十四時間以内に日本人人質三人を解放する」としていた犯行グループを心変わりさせ、解放を発覚から一週間後に遅らせた背景にあるとみられる。
犯行グループに解放を呼びかけたイスラム教スンニ派組織「イスラム聖職者協会」幹部が「小泉首相が彼らをテロリストと呼んだことが、人質解放にかかわる事態を複雑にしたと思う」と批判したからだ。
拓殖大学の立花亨・助教授(中東政治)は「(一般的に)武装勢力は自分たちの行動をテロと見ていない。人質事件の犯行グループにしてみれば、米国がやっていることこそテロであって、日本からテロリスト呼ばわりされたことに怒ったことは不思議ではない」と指摘する。
日本のメディアで「自爆テロ」といわれる過激な活動も、アラビア語メディアでは「抵抗」という言葉で表現される。「テロ」の定義について都立大学の大塚和夫教授(中東人類学)によれば「学術的な定義はない。テロと呼ぶか、抵抗と呼ぶかは、その言葉を使う人の政治的立場による」という。
つまり「小泉首相がテロリストと呼んだことで、犯行グループは首相が米国と同じ見方をしていると理解したはずだ。犯行グループとの仲介役とみられるイスラム法学者(ウラマー)は元来、アルカイダのテロには反対だが、他方で米国にも批判的な立場だ。人質事件の解決の糸口がつかめたのに、首相が無神経な言葉を使ったために、ウラマーは反米意識を持つイラク国民が侮辱されたと受け取った」と言う。
アラブ社会相手にどう語りかければよかったのか。それを判断する小泉内閣の情報収集能力についても「中東のように情報が統制されている地域では、人によって見方がさまざま。われわれが調査に入っても、信頼できる情報は百のうち一つ程度」(立花助教授)で、しかも「アラブ社会はどういう人脈がどこにつながっているのかよそ者には分かりにくい社会。情報を得るためにはさまざまなルートを開拓しなければならない。日本政府に米軍情報以外にどれだけのルートがあるのか」(大塚教授)という疑問はぬぐえない。
静岡県立大学の宮田律・助教授(イスラム地域研究)は「イラクの人たちは米軍による占領の枠組みを変えたいと思っている。小泉首相が『情勢が安定すれば自衛隊は撤退させる』という言い方をしていれば、犯行グループを納得させられたかもしれない。せめてファルージャ情勢について『多くの死者が出ていることを遺憾に思う』と言えば、イラク人の心の機微に触れる。何の譲歩も見せないのでは交渉する余地もない」と話す。
脅しに屈して自衛隊を撤退させないという点では、民主党も首相の方針に同調する。
しかしアラブ社会に対する無理解から発せられる「小泉言語力」に今後も不安はつきまとう。
それだけに、政治評論家の小林吉弥氏は「小泉さんの歯切れがいいワンフレーズは、中身が乏しいだけならまだよいが、言葉が走りすぎて相手を無用に刺激する恐れがある。本人は、自分の感覚で何かしゃべりたくてしょうがないはずだが、周囲が止めてきた」と寡黙に努める理由をこう推測する。
前出の森田氏は「小泉首相は米国が喜ぶような発言ばかりを意識してきたから、今回も最初に『テロに屈しない』と強硬発言した。犯人グループを挑発する発言で、本来ならもっと非難されてよかった。小泉首相は高い支持率を背景に何を言っても通ってきたが、後先を考えない発言に対し、さすがに政界にも不満がたまったため、逆に首相は穴の中に閉じこもろうとしている」と指摘し、こう注文を付けた。
「本来なら、国民に安心感を与えながら人質解放に努める。いわば複雑な方程式を解くような取り組みが必要になるのだが、小泉内閣にはできなかった。『テロに屈せず』『自衛隊は撤退させず』では、戦争をやっている国と同じ対応にしか見えない。人道支援だというのならば、国民への説明を含めてオープンにできるはずだ」
◇邦人人質事件の経緯と小泉首相の主な発言◇
8日・カタールの衛星テレビ局アルジャジーラが「3邦人拘束」を報道
9日・(犯行グループからの3日以内の自衛隊撤退要求を受け記者団に)首相の責任を問われ「まず無事救出だ。私自身の問題じゃない、国全体だ。イラクの復興支援にどう取り組むかの問題だ。テロリストの卑劣な脅しに乗ってはいけない。テロリストはどういう意図があるのか分からない。事実確認をして、しかるべき国々に協力を求める」
・自衛隊の撤退については「ありません。(3日間の期限後も撤退はないか−に)早く救出されるよう全力を挙げる」
10日・政府がアンマンに現地対策本部設置
・人質家族の面会要望を「会っても話すことは何もないだろう」と拒否。これを菅直人民主党代表が「冷たい政治」と批判
11日・アルジャジーラが「3人を24時間以内に解放」と犯行グループの声明報道。だが解放されずこう着状態になり、政府の対応も右往左往
13日・政府の対策本部幹事会が取材拒否申し合わせ
・(その直後の会見で記者団の質問に)事件解決の見通しを「分からない点が多い」、こう着の理由を「分からないんですよ。実に分からない点が多い」、長期化するかについて「それも分かりません」と連発
14日・邦人人質犯行グループをテロリストと呼んだ自らの発言が現地で批判を受ける。これに対し「誘拐は許されざる犯行で、その言い方に味方するような言動は慎むべきだ」と反論
・(その後の党首討論で菅代表の質問に)サマワは非戦闘地域とはもはや言えない状況で、撤退を含めた検討を行うべきという見方に「人質が誘拐されている状況で、仮にそのようなことを検討すると言った場合、犯行グループはどう取るか」と「テロリスト」から「犯行グループ」に呼び方が変化
・人質家族と会わない理由をあらためて問われ「会うことがいい結果に結びつくかどうか判断しているところだ。今は会う状況にないと判断している」
15日・3人が解放され、あらたに2邦人がイラクで行方不明に