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不明の米ハミル氏、借金苦と妻の手術費のためイラクへ
2004.04.15 -AP
http://www.cnn.co.jp/usa/CNN200404150019.html
ミシシッピ州ジャクソン――イラクで武装グループに拘束される映像が世界中で放送された米国人トマス・ハミルさん(43)は、ミシシッピ州メイコンの元酪農家。そのメイコンの住人は口々に、ハミルさんが危険を承知でイラクへ向かったのは、家族を支えるためだったと話す。ハミルさんは親から引き継いだ酪農場をたたんで、長年の借金を返し、妻の心臓手術の費用を工面するため、危険だが高給の仕事を選んだのだという。
古くからの住人のひとりは、「ここは小さな町。みんな辛い思いをしてます。彼はただ、家族の生活を支えたかっただけ」と訴える。
ハミルさんの友人らによると、ハミルさんは家族が30年来続けてきた酪農業を維持するため、毎日身を粉にして働き、農協銀行に借金を重ね、その借金を返すためにまた夜遅くまで働いていたという。しかし13歳と11歳の子供を育て、妻ケリーさんに心臓手術を受けさせるには、いくら働いても足りなかった。
ついに酪農場をたたむことを決心したハミルさんは昨年9月、乳牛を売り、搾乳機などの機材を売り、イラクで石油を運ぶタンクローリーの運転手になることを選んだ。石油会社ハリバートンの子会社ケロッグ・ブラウン&ルート(KBR)が提示した報酬は、年間12万ドル(約1300万円)。しかも非課税だ。
ハミルさんは9日、石油運搬の車列を襲った武装グループに拘束された。グループは、イラク駐留米軍が中部ファルージャの包囲を11日までに止めなければ、ハミルさんを殺害すると脅迫した。期限は過ぎ去り、ハミルさんの安否についての消息はない。また13日には、米国人とみられる4人の遺体がバグダッド郊外で発見されている。しかし身元の特定がされたという情報もまだない。
親族たちによるとKBRは家族に対し、犯行グループを刺激しないためにも、マスコミとの接触を控えるよう指示してきたという。しかし妻のケリーさんは13日、夫と犯人に呼びかける声明を読み上げた。
「まず最初に、夫のトミーへ。みんなあなたを愛しています。あなたがいなくてとても淋しい」とケリーさんは夫に語りかけ、続いて犯人たちに「できるだけ早く夫を無事に解放してくれるよう願っています」と解放を呼びかけた。さらに国中から寄せられた支援や解放を祈る声に感謝した。
ハミルさん一家が暮らすノクスビー郡は、肥沃な黒い土がなだらかに丘陵をなす一見のどかな土地だが、住民は貧困にあえいでいる。平均年収は2万2000ドル(約240万円)に過ぎず、失業率は11%に上る。
同郡当局によると、この地区の酪農場の数は1991年以来、20軒から9軒に激減した。農政担当のレジネリさんは「私たちはいつも、農産品物価の低迷や、天候不良と戦っている」と話す。
ハミルさんが遂にたたむことになった酪農場「グレードAデイリー」は、ハミルさんの父と叔父が始めたものだった。40ヘクタールの緑地が、松林を背に広がる。
しかし借金がどうしようもなくなったハミルさんは、乳牛30頭を売り払った。「イラクに出発するまでの間は、牛乳配達のパートをしていた」とノクスビー郡当局のコールマン氏は話す。
このハミルさんにKBRは、最低年収8万ドル(約880万円)を保証し、残業をこなせば12万ドルも十分可能だと条件を提示した。しかも非課税だ。働く場所がイラクだということさえ承知すれば、一般民間人がそれほどの高給を得られる機会はそうはない。
拘束の数日前、メイコンの地元紙メイコン・ビーコンが妻ケリーさんに、ハミルさんの仕事の危険を取材。緊急電話「911」の電話交換手をしているケリーさんは「(夫から)数メートル先に砲弾が落ちたり、トラックの窓にレンガを投げ込まれたりしている」と状況を説明している。数週間前にケリーさんが心臓手術を受けた際、ハミルさんは一時帰国した。それ以来、家族はハミルさんに会っていない。
ハミルさんのような民間人をイラクの危険地帯に派遣する際、ハリバートンはどういう事前訓練を施しているのかと、同社に質問してみた。ハリバートン広報担当のホールさんは、「採用前に全員が必ず、戦争地域で働くことの危険性について極めて具体的な説明を受けている」と答えるに留まった。