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イスラム過激派によるとみられるイラク邦人人質事件で政府は9日、自衛隊の撤退要求を拒否するとともに、人質全員の救出に全力を挙げる方針を明確に打ち出した。犯人の脅迫をはねつけ、同時に人質を解放するという困難な課題に、政府はどう取り組もうとしているのか。犯人グループを特定し、人質の居場所をつかんだとしても、日本の警察や自衛隊が独自に活動できる範囲は極めて限られている。最終的には米国の特殊部隊などによる救出作戦に頼らざるを得ないとの見方が有力だ。【邦人人質事件取材班】
◇いかに犯人と接触するか
9日午前の記者会見で川口順子外相は、犯人側との接触状況について「誠に申し訳ないが、今後は人質の安全の問題があるので、この点のコメントは控えさせていただきたい」と答えた。政府の現時点での最優先課題が、犯人との接触であることを十分にうかがわせる言い方だった。
人質3人の救出に不可欠なのが情報だ。外相はイラクに軍を駐留させている関係各国に電話で協力を要請。8日夜には、米国のパウエル国務長官にも電話を入れ、「何でも言ってほしい。出来る限りのことは協力したい」との回答を得た。
犯人像について、外務省には米英占領当局(CPA)やイラク人警察などを通じてさまざまな情報が入ってきている。しかし、外務省幹部は「スペインの列車テロ事件では、スペイン政府が犯人を早く特定しすぎて間違えたため、政権がひっくり返ってしまった」と語り、情報の扱いに神経質になっている。
一方、外務省の高島肇久外務報道官は9日午後3時半から、人質の映像を伝えたカタール衛星テレビ「アルジャジーラ」の東京支局長のインタビューに応じ、「自衛隊は人道復興支援が目的で、撤退はできない」などと政府方針を約10分間、日本語で訴えた。犯人グループとの交渉ルートが開けない中、マスメディアを通じて何らかのパイプが開けることを期待しているためだ。
また警察庁は9日、逢沢一郎副外相に同行する形で塩川実喜夫・国際テロリズム対策課長ら数人の「国際テロ緊急展開チーム」(TRT)を現地に派遣した。TRTは、96年のペルー日本大使公邸占拠事件を踏まえて98年4月に設置され、過去6回海外に派遣された。
今回は、ヨルダンで、イラクの治安情勢について情報収集を行った上、イラク国内でテログループの実態把握や犯人側との接触ルート開拓など、実際の交渉支援を行うとみられる。ただし、警察庁幹部は「現地に到着してみなければどのような活動が出来るか分からない」と手探りの作業であることを認めた。
◇交渉難航は必至
仮に犯人グループを特定できたとしても、交渉による人質救出の展望が開けるわけではない。今回の犯人は身代金ではなく、自衛隊の撤退という政治的要求を突きつけているためだ。
ペルー日本大使公邸人質事件当時にペルー大使だった青木盛久氏は9日、毎日新聞の取材に対し「最大の急務は、一刻も早く犯人と直接コンタクトをとることだ」と語る一方で「私は頭に銃を突きつけられ、東京から日本語で電話がかかってきても、犯人グループがスペイン語以外を禁止したため、通話できなかった」と人質との接触の難しさを強調した。
また青木氏は「脅しに屈服して自衛隊を撤退してはいけない」と政府の対応を評価しつつ、事件解決に向けて「彼らの言い分を聞き、政治的メッセージを受け止めることを通じて、自主的に人質を解放する条件を作り出すべきだ」と提言した。
犯人の所在が分かった場合、政府は第三者を介した「裏交渉」に持ち込むことも検討しているようだ。しかし、犯人グループが自衛隊の撤退以外の妥協を拒んだ場合、交渉による人質解放というシナリオは成り立たなくなる。与党幹部は「テロリスト相手に交渉での解決は困難」と語る。
中東情勢に詳しい軍事評論家の神浦元彰さんは、イラク国内のイスラム教スンニ派武装勢力が犯行にかかわっているとの見方を示したうえで、(1)米英軍の情報網に頼る(2)部族長や聖職者、旧フセイン政権時代の有力者に仲介を頼む(3)誘拐事件解決のための国際的な組織に依頼する(4)政府が直接交渉をする−−などの解決策を指摘した。「最も大切なのは犯人側とパイプをつなぐこと。交渉にはカネも必要になるだろうが、日本には救出手段がなく、緊急の場合はやはり米英軍に頼るしかない」
一方、日本大の大泉光一教授(国際テロ対策)は、犯人像について「日本の世論を動かして日米同盟に亀裂を入れる強い決意を感じる」と分析。「日本政府は現地のテレビ局などを通じて交渉のテーブルに着くよう訴えるしかない」と話す。
◇最後は米軍頼み
人質解放交渉が決裂した場合、政府は米軍による救出作戦に望みを託す可能性が高い。陸上自衛隊の部隊約550人がイラク南部サマワにいるが、イラク復興特措法は自衛隊に人質救出の権限を与えていないからだ。ヨルダンに派遣された警察庁のチームも、情報分析を主任務にしている。
邦人3人が拘束されたのはヨルダン国境からバグダッドに向かう反占領軍感情の強い危険地帯。米陸軍が治安維持のため展開しており、犯人グループと人質の居場所を特定できれば、特殊部隊や海兵隊が電撃的に突入して人質救出を図るシナリオが想定される。
米政府は人質の救出に向けた情報収集・分析活動をすでに本格化させている模様だ。米政府高官は8日、「奪回のためにできることは何でもする」と言明しており、人質の拘束場所が特定できれば米特殊部隊による救出作戦も念頭に置いているとみられる。
旧フセイン政権の残存勢力やアルカイダと関係するイスラム過激派の実態について、駐留米軍は、イラクの治安当局者から情報を吸い上げるとともに米中央情報局(CIA)の係官を要所に配置し、情報の収集・分析にあたっている。人工衛星や通信傍受による情報も集約し、まず人質の拘束場所の特定に全力をあげているとみられる。
交渉による解決が困難な今回のようなケースでは、人質の拘束場所が確認でき次第、軍事的な救出作戦が必要になるとの見方が専門家筋では有力だ。イラク戦争中の昨年4月には、南部ナシリヤの戦闘で行方不明になっていた上等兵のジェシカ・リンチさん(当時19歳)を、デルタフォース(陸軍)やシール(海軍)などの特殊部隊の混成チームで「電撃救出」した例もある。しかし、今回は犯行グループが「3日間」との期限を指定していることから、人質の安全確保は予断を許さない緊迫した状況だ。
◇ 軍事問題に詳しい英ジャーナリスト、ポール・ビーバー氏
小泉純一郎首相は非常に重大な状況に立たされていると思う。日本政府がどう対応するかは、日本が引き続き(米国を中心にした)国際的な連合の一員としてとどまるかどうかを立証することになる。自衛隊を撤退させないとした日本政府の対応はまったく正しい。他の国と同様に、日本もテロリストとの交渉に応じることはできない。
政府にとっては一番重要な義務は、国民の生命を救うことだ。米英両国も何としても日本の助けになりたいと考えるだろう。日本政府からみれば今回は「見返り」の時だ。つまり、日本が示したブッシュ米政権に対する政治的支援は今こそその「見返り」を受けるべきだと考える。
こうした錯そうした事態において単純な解決方法はない。教科書などはない。人質救出には多くの方法があるし、生命を救うことは可能と思う。ただ事前にテロリストに手の内をさらすことはすべきではない。彼らだって日本からのあらゆる情報を読むのだし、敵の拠点を見つけてたたく適切な時まで待つことだ。
これはイラクにおける戦争の新たな転換点であり、我々がこれまで見てこなかったようなことが起きている。【聞き手・ロンドン小松浩】
毎日新聞 2004年4月10日 1時46分
http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/jiken/news/20040410k0000m040158000c.html