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戦争報道 メディアの危うさとは [New York TIMES紙の記者に聞く]東京新聞
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投稿者 スーパー珍米小泉純一郎 日時 2004 年 3 月 28 日 16:34:56:k5Ki8ZfJP9Ems
 

戦争報道 メディアの危うさとは

▲ピュリツァー賞記者 ヘッジズ氏に聞く

 イラクでは大量破壊兵器未発見のまま戦争が一年以上続き、イスラエルとパレスチナでは暗殺とテロの応酬が止まらない。時の権力の主張を無批判に受け入れ、結果として戦争遂行に加担したメディアにも厳しい視線が向けられる。戦時下で報道が陥る危険性は何か−。世界各地の戦場を渡り歩いた米紙ニューヨーク・タイムズのクリス・ヘッジズ記者(47)に聞いた。 (聞き手=ニューヨーク・寺本政司)

■高揚感は『麻薬』

★ ――八年近く中東の特派員だったと聞くが、現地の反米感情は根強いか。

 「当たり前だ。米国がイスラエルに武器と金を与えて、パレスチナの抑圧に手を貸しているのだから。彼らの批判は正しい。ショッピングセンターで自爆テロを行う人たちは抑圧され、打ちのめされ、懲らしめられている。責任の一部はわれわれにある。しかし、米メディアはその事実を無視するか、知っていても伝えようとしない。だから米国民はなぜ、自分らが非難されているのか分からない」

★ ――イラク戦争では、米国防総省が「エンベッド方式」と呼ばれる、一線の兵士と寝泊まりする従軍取材を認めたが、戦争の事実をゆがめたとの批判もある。

 「従軍記者は、戦場で独自の交通・防衛手段を持たない。米軍が望んだり、見せたいと思う所に連れていかれ、それを全体像であるかのように伝えた。疑問や批判は起きず、結果的に米軍を応援する報道になる。米軍の圧倒的な力や戦略、兵器の能力などだ。米国民や前線の兵士の利益ではなく、戦争を仕掛けた人間の利益にかなうことだ」

 ――湾岸戦争直後にイラク警備隊に拘禁され、セルビアでは狙撃手に襲撃されたそうだが。

 「戦場で陸軍や海兵隊と多くの時間を過ごすと、自分を守ってくれる彼らを助けてあげたいというごく自然な気持ちが出てくる。うそは書かないが、多少のことには目をつむる。他の戦争記者もきっと同じ気持ちだと思う。しかしそれは、事実を封印する非常に危険な考えだ」

★ ――なぜ、戦場取材を続けたのか。

 「弾に当たらずに、銃撃される経験ほど刺激的なものはないからだ。『今度こそ死ぬのではないか』という恐怖に駆られながら、覚せいし、そのスリルを味わう。三十分か一時間の戦闘が終わると、恐怖は冗談に思えて、思考のゲームに勝った気分になる。人々が危険なカーレースに熱狂するのと同じ理屈だ」

★ ――イラク戦争には行かなかったのか。

 「戦争に長くかかわり過ぎた。精神がぼろぼろになり、自分の生命が危険にさらされることにようやく気付いた。もう戦場はごめんだ。今、こうして生きていることが幸運だ」

 ヘッジズ氏は「反戦主義者」ではない。戦争に魅了された者の一人だ。敵、味方に分かれて殺し合う単純さと、日常生活では味わえない高揚感は「まるで麻薬のよう」だという。しかし、戦争によって心身をむしばまれた体験をもとに、そのまやかしを告発する。

 「国が脅威にさらされている時、指導者たちは恐怖を利用して権力を強めようとする。イラク戦争では二〇〇一年九月の米中枢同時テロの恐怖があった。国民は権限を政府に与え、メディアは市民や兵士の士気を高めることに力を注ぐ。どの戦争も同じだ。メディアは、不明な点や違った見方を確実に議論できる仕組みをつくるべきだ。残念ながら、信頼すべきでない指導者を積極的に支え、盲目的な愛国主義を生む手助けをしてしまった」

■一種の連帯感 恐怖和らげる

★ ――「テロとの戦い」は日本も同じ。罠(わな)に陥る可能性はないか。

 「戦前の日本軍国主義、アルジェリア侵攻時のフランス…。米国同様、盲目的な愛国主義が国をゆがめた例は過去にもたくさんある。戦時下では現代社会で味わえないような一種の連帯感が生まれる。個々人ではなく、集団として死と向き合うから恐怖が和らぐ。そこに戦争を受け入れる土壌が生まれる」

 「戦争は、人々に、刺激的で奇妙な世界に生きることを可能にする。緊張と熱狂は、ちっぽけだと思っていた人生を意味あるものに変え高尚とすら感じる。戦争がなくならないのは、誰もが魅了される『ダーク・ポイズン(暗い毒)』だからだ。われわれはこの誘惑に対して、強い警戒心を持たなければならない」

★ ――イラク戦争の大規模戦闘終結宣言直後、イリノイ州の大学で講演した際に、反戦的な内容だとして学生や父母から強い反発を受けたそうだが。

 「『米国の占領はいけない。イラク自らが改革すべきだ』と言ったと思う。この発言に怒った出席者らが突然立ち上がって国歌を歌い、壇上から私を引きずり降ろそうとした。講演を途中で切り上げ、警察の護衛で退場しなければならなかった。米国民の多くが戦争の勝利に酔っていた中で、発言は水を差した。開戦前、欧州の同盟国は米国を支援しなかった。考え直すきっかけにすべきだった。ところが、米国の行動はフランスの人間性や文化を非難することだった。熱狂と無知は人種差別と同じだ」

■『神話』でっち上げ加担

★ ――メディアが「戦争の英雄」をつくり出し、正当化に手を貸しているのか。

 「湾岸戦争ではシュワルツコフ司令官、イラク戦争では女性のジェシカ・リンチ上等兵がそうだった。戦争は残酷で、汚くてうんざりするものだ。そんなものは誰も見たくない。栄光や名誉、英雄が登場すると、戦争は途端に、神聖で力強くて、立派な行為にすり替わる。人々は思考を停止し、でっち上げの神話に自らを納得させる。メディアは商業的な理由から、そうした読者の期待に応え、戦争の神話化に加担している」

★――どうすればいいか。

「イラク戦をめぐり、米報道機関の内部から反省の声が聞かれる。メディアが政権の代弁者に過ぎなければ、いずれ国民の信頼を失い、社会的に弱い立場となるだろう。同じ過ちを繰り返したくなければ、政府の言うことを疑ってかかることだ。批判めいた報道が出てくるのは戦争に対する国家の考えが変わろうとする時だけだ。ベトナム(戦争)がそうだった」

▲クリス・ヘッジズ バーモント州ジョーンズバリー出身。米ハーバード大神学部で修士号取得。ダラス・モーニング・ニュース、クリスチャン・サイエンス・モニターなどの記者を経て、1990年から現職。15年間にわたって取材した戦場は湾岸戦争、イスラエル・パレスチナ紛争、ボスニア、コソボ、ニカラグア、エルサルバドルなど10以上。2002年、ニューヨーク・タイムズの国際テロリズム取材班の1人として米ピュリツァー賞受賞。同年、優れた人権報道に贈られる国際アムネスティの国際賞を受賞。著書に「戦争の甘い誘惑」(河出書房新社)など。47歳。

http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20040328/mng_____tokuho__000.shtml

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