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ヴァンダナ・シヴァ「世界社会フォーラム──持続可能な経済と平和を築く政治を求めて」
http://www.asyura2.com/0403/war49/msg/213.html
投稿者 安濃一樹 日時 2004 年 3 月 09 日 05:50:30:gmtaOzuBDmsKE
 

ヤパーナ社会フォーラム
http://japana.org/start.html


ヴァンダナ・シヴァの記事は、直接に原稿を依頼して書き下ろしてもらいました。原文は末尾のリンクをたどってください。

**以下本文**

世界社会フォーラム
持続可能な経済と平和を築く政治を求めて

ヴァンダナ・シヴァ 

2004年1月6日

世界経済フォーラムは「ダボス族」の望みどおりに世界を作り上げました【1】。すべてが資本を中心に動く世界、男性と企業が支配する世界です。ですからダボス族がいう自由とは資本の自由を意味します。この自由を手にするために推し進められた計画が企業グローバリゼーションでした【2】。

企業グローバリゼーションは資本主義の中に残された家父長制が生み出したものでしょう。世界銀行と国際通貨基金(IMF)が途上国への融資条件として構造調整を要求する手口に、世界貿易機関(WTO)の歪曲と偏見に満ちた非民主的なルールに、さらには新自由主義という経済パラダイムのあらゆる面に資本主義の家父長制がよく表れています【3】。

制限なく自由に資本を動かせるようになり、商取引にかかる規制が緩和されて貿易の自由化が進みました。その結果として、何が起きたでしょうか。人びとが安心して働き暮らすことができなくなり、地球の生態系が破壊され、社会の倫理と文化が衰えてしまいました。もっとも大きな被害は、資本の力を規制する社会や政治の仕組みが失われたことでしょう。民主主義の制度が崩れて民主的な手続きが取れなくなったからです。

資本中心の世界では、あらゆるものが売りに出され、すべてが商品になります。生物の多様性や、すべての生命体と遺伝子、あらゆる種子が、特許登録できる知的財産となります。生命の源泉そのものである水でさえ商品として取引されています。もう水はすべての生き物が分かち合うものではありません。水を得ることは、人に認められた当たり前の権利でもなくなりました。

私たちの生活を支えてきた食品と農業は、いまやアグリビジネス(農業関連産業)が手にする利益の元にすぎません。企業の支配によってグローバル化し工業化した農業が盛んになるにつれて、生物の多様性が失われ、農民たちが姿を消してゆきました。歪んだアグリビジネスが、健康で安全な食品にかえて遺伝子組み換え作物を売りつけ、狂牛病を招き、肥満を増やしています。

今の経済システムでは、基本的人権や市民としての権利が軽視され、生きていくのに必要なものさえ奪われ、あるべき生態系が踏みにじられていきます。このような経済システムがもたらす当然の結果として、宗教では原理主義が盛んになり、テロや暴力が増え、軍事化が進んで戦争が起きました。

シアトル[で99年に開かれたWTO閣僚会議]では、さまざまな職業や経歴を持つ市民が世界の隅々から集まり、企業グローバリゼーションを推し進めようとする計画に反対しました。グローバルに連帯した市民の挑戦です。

これに先立ちインドでは、WTOの前身であるGATT(関税と貿易に関する一般協定に基づく事実上の国際機関)に反対して、より大きな運動が起きています。93年、バンガローレに50万人の農民が集まってデモ行進をおこない、ウルグアイラウンドが農業に与える脅威【4】について話し合うために国際会議を開きました。

しかしシアトルは市民運動にとって大きな転換点となりました。市民の力が企業グローバリゼーションという強大な力を打ち砕き、WTO閣僚会議を閉会に追いやったのです。まさに地殻変動でした。シアトル以来、多様な人びとの連帯する非暴力の運動が社会と政治を変える勢力の中心となり、大資本に追従する国際機関である世銀・IMF・WTOや巨大企業群がふりかざす権力を抑え、その正当性に疑いを投げかけ、企業グローバリゼーションを支えている暴力や抑圧や反民主的な制度に抵抗することに成功しています。

シアトルでは、「荷車の御者」と「カメ」が肩を並べてデモ行進しました。[御者(チームスター)は、馬車で荷物を運ぶ労働者が団結したことから始まった労働組合の象徴で、ここではすべての労働者を表す。カメは、海ガメの衣装を着てデモに参加した環境活動団体のことで、環境や平和・人権・福祉・貿易・農業など多様な問題と取り組み、資本主義と企業グローバリゼーションに反対する多くの活動家を代表する。]労働者と活動家が、たがいを隔てていた壁を乗り越えて、まったく新しい連帯関係を作り出しました。

さまざまな目的を持つ人びとが連帯して、自然にひとつの運動を組織し、暴力に訴えることを拒んで抵抗する。社会運動の誕生です。歴史に新たなページが加えられました。権力に立ち向かう人びとの闘いは、いつの時代でも変わることなく続いています。この闘争によって未来が築かれることを、人びとはシアトルではっきりと示しました。そして2003年2月15日、イラク戦争に反対するデモが世界中で繰り広げられたとき、かつてない壮大な規模で連帯した市民社会は第二のスーパーパワーと認められています【5】。

他に選択の余地がないという前提のもとに企業グローバリゼーションは進められてきたけれど、こんな決めつけはもう成り立ちません。シアトルの後に準備され01年にポルトアレグレで開かれた世界社会フォーラムでは、新しいスローガンが唱えられました。「もう一つの世界は可能だ」。それ以来、このスローガンは世界中の市民運動に伝えられ鳴り響いてゆきます。

04年1月16日から21日まで、第4回世界社会フォーラムがインドのムンバイで開かれます。グローバルな市民運動が集うこの機会に、ひとつ思い起こしておきましょう。シアトルやカンクンでともに闘い、2月15日には世界中の街で抗議の声を上げ、世界社会フォーラムの運動を進めてきた市民は、世界経済フォーラムの「ダボス族」に、どんなメッセージを伝えようとしたのでしょうか。

最初のメッセージは社会フォーラムという名称に表れています。市民と社会を優先するのが社会フォーラムです。世界経済フォーラムは企業と資本を市民や自然より上においている。シアトルやジェノバ、ポルトアレグレ、カンクンで世界の市民は「利益を追い求めるよりも地球と人を守れ」と訴えました。

次のメッセージは社会フォーラムという組織のあり方に表れています。世界経済フォーラムは資本に支配されていますが、世界社会フォーラムは何千というグループが自然に集まってできました。さまざまな目的を持ち、ことなる活動をつづけるグループが自然に連帯してゆく。これが新しい政治の姿です。

市民から権力へ向けられた三つ目のメッセージは平和と非暴力です。欲望に突き動かされ、独占と支配を目指し、武力を背景とする経済システムでは、暴力は手段にも目的にもなります。市民が選んだ道は、非暴力を手段とし目的とすることです。

企業グローバリゼーションは武力主義を必要としてきました。兵器で攻撃することだけが武力ではありません。インドでは2万5000人もの農民が自殺に追い込まれています。カンクンでは韓国の農民イ・ギョンヘが、バリケードの上で「WTOは農民を殺す」と訴えて自らの命を犠牲にしました。企業グローバリゼーションが兵器を使わない戦争だということは明らかでしょう。そして、イラク戦争で本当の勝利者となったのはハリバートン社とベクテル社でした。この事実がわかったとき、戦争が企業グローバリゼーションのもう一つの姿であることも明らかになりました。

さまざまな運動がたがいに認めあって連帯すること。企業が主導するグローバル経済に代えて持続可能で公正な経済システムを創ること。平和を築くこと。三つのメッセージで示されたことは第4回世界社会フォーラムの中心課題となるはずです。ムンバイでは、連帯の原則を立て、新しい経済のパラダイムを創り、平和への道のりを示す必要があります。

これから運動を続けてゆく上で、世界社会フォーラムは二つの危機に直面するでしょう。ひとつは世界社会フォーラムが内部に抱える問題です。シアトルとカンクンで成功したのは、さまざまな市民が連帯し、一つの運動として組織していったからでした。しかし世界社会フォーラムの創設に関わった活動団体の中には、世界社会フォーラムを中央集権型の巨大な組織にしようとするグループがあります。これでは市民が闘いを挑んできた支配体制の真似をすることになる。さまざまな運動をまとめ、ことなる文化を受け入れて育んでいく場を創ろうとせず、中央に権力を集めてコントロールしようとするなら、世界社会フォーラムを窒息させることになります。

シアトルの成功をもたらした民衆の運動はそれぞれの国で生まれ育った運動です。地域ごと国ごとの闘争にグローバルな問題が反映されているからこそ、私たちの抵抗は真にグローバルな運動になります。地域での運動に根づいていないグローバルな抵抗運動は砂の上に建てた家のようなものです。やがて倒れてしまう。

同時に、地域の運動がグローバルな連帯を持たず、地球や国際社会について考えないなら、その運動は視野が狭くなり、いつも守りに追われて心細い思いをすることでしょう。市民が築く政治では、グローバルな連帯はローカルな運動から生まれ、ローカルな運動はグローバルな連帯から力を得ます。

世界社会フォーラムを制度化する必要がないという理由はここにあります。活動資金を無駄にするだけです。小さな場所を見つけて、そこに生きる人びとの自由を取りもどす。運動はそこから始まります。新しい運動は活力に溢れ、斬新な活動を生み出すエネルギーを手にするでしょう。

権力は巨大な組織によって守られています。しかし、市民運動が巨大な組織を作っても、かえって力を失うだけです。小さな組織、多様な運動こそが市民の力となる。逆に、小さな組織がいろいろと集まっても、権力が強くなることはありません。

世界社会フォーラムはインドのクンバメラ祭のようになるべきです。クンバメラ祭は世界の創造を祝う地上最大のお祭りで、3000万もの人びとが集まってガンジス川で沐浴をします。沐浴は毎日するものですけれど、クンバメラは12年に一度だけ行われる大祭です。同じように、私たちが毎日する政治の「沐浴」は地域ごと国ごとで行う活動ということになります。世界社会フォーラムは10年に一度か二度だけ開かれればいいでしょう。

世界社会フォーラムを制度化して機械的に繰り返すなら、私たちの運動は古くさい政治形態と似たものになってしまう。家父長制の原理に基づき、暴力を讃え、社会を分断する政治形態です。実は、これが世界社会フォーラムを脅かす第2の危機につながっています。

「ムンバイ・レジスタンス2004」という大会が組織され、世界社会フォーラムの日程に合わせて開催されます。この運動は、暴力に訴え人びとの対立を招くという昔の政治形態を体現したものです。過去10年間、企業グローバリゼーションに反対する運動は「共に生きる」という思想のもとに、さまざまな目的をもった運動を受け入れ平和を築く政治を求めてきました。「レジスタンス」の運動はこの努力をないがしろにするものです。

私たちの運動が成果を上げてきたのは、抵抗を平和裏に行い、けっして暴力に訴えることがなかったからです。ことなる目的を持った運動を排除することなく、ともに活動してきたからです。シアトルから始まり、ジェノバ、カンクン、マイアミまで【6】、各国の政府やメディアが私たちのことを暴徒と化した群衆だと決めつけたくてやっきになっていましたが、結局できなかった。非暴力の運動こそが私たちの力です。体制側の権力をもってしても、私たちからこの力を奪うことはできませんでした。しかし私たちの非暴力という力が、暴力を戦略の中心にすえて改革を目指す運動によって脅かされています。

ムンバイで開かれる世界社会フォーラムは、私たちにとって大きな挑戦ですが、限られた場所で行うほんの数日間の活動にすぎません。資本主義に対する人びとの挑戦は生と死を賭けた闘いとなりました。この壮大な闘いはまだ始まったばかりです。世界は「歴史の終わり」を迎えたと信じる人びと【7】がいる。私たちは違う。いま人類の歴史に新たな一章が記されようとしています。

Vandana Shiva, "The World Social Forum: Building Economies of Permanence and Politics of Peace," (Jan. 6, 2004). Originally witten for The Shizen to Ningen Magazine and published in its February 2004 issue.

原文は月刊『自然と人間』のために書き下ろされ、2004年2月号に訳文が掲載された。

【1】1971年に始まった世界経済フォーラムは、毎年1月にスイス・アルプス東部の山村ダボスに世界から政界・財界代表者を集めて開かれる。今年の参加者には、ネスレ、コカコーラ、ソニー、マイクロソフト、ファイザーなどの企業代表者、個人では、アナン、アシュクロフト、クリントン、ゴーン、ソロスなどの名が見える。理事長はジュネーブ大学のクラウス・シュワブ教授。2000名を超える参加者は「ダボス族」と呼ばれる。

【2】情報や活動が世界規模に広がるグローバリゼーションは、市民にとっても望ましい。これに対して企業グローバリゼーションは、利潤の極大化を目指す資本の活動が世界規模に広がることを求めている。世界社会フォーラムの運動は、資本が主体の企業グローバリゼーションに代わって、人間が主体となる連帯のグローバリゼーションを模索するものといえる。

【3】第二次大戦中の1944年、戦後体制を見込んで連合国が、アメリカでブレトンウッズ協定を結んだ。これに基づいて、世銀(国際復興開発銀行を中核とする国際金融公社など5つの機関の総称)とIMFがアメリカとイギリスによって設けられた。世銀とIMFではG5(米・英・仏・日・独)が投票権を独占しており、途上国の経済的な救済という建前をとりながら、現実にはアメリカを中心とする先進諸国が経済支配を進めるための道具となっている。国際貿易機構を設立しようという構想もあったが、アメリカが反対したために見送られた。その代わりに、47年のジュネーブ会議で、関税と貿易に関する一般協定(GATT)が調印された。GATT(ガット)は法的根拠を持たなかったが事実上の国際機関となってゆく。GATTは貿易の自由と無差別を原則として、数年にわたるラウンド(多角的貿易交渉)を何度も重ねていった。GATTを発展させたWTOは、ウルグアイラウンドが94年に終結したときに設立が決まり、95年に発足した。WTOでは、すべての加盟国が同じ権利と義務を持つと定められ、施策などは加盟国の合意に基づいて決定されることになっている。しかし現実には、先進国が一部の途上国と秘密交渉をして、その合意事項を他の諸国すべてが追認するように迫り、あるいは後進国に対して脅迫や買収まがいの交渉を仕掛けてきた。WTOが目指す貿易の自由化は、先進国の利益を確保して後進国に不利益を押しつける。この意味で、世銀・IMF・WTOの本質は等しく、三つの機関はブレトンウッズ体制の中に組み込まれている。

【4】ウルグアイラウンドはGATT(注3参照)によって88年から始められた多国間の交渉。農業協定では、先進国の政策に批判が集まった。先進国は途上国に市場の開放を迫りながら、自国の市場を途上国に解放しない。先進国の農産物が補助金によって不当に安くなり途上国の農産物が市場で競争できない。アグリビジネスの大企業による農作物の輸出はダンピングに等しい。さらに、企業がパテントを持っているハイブリッド種子や遺伝子組み換え種子が途上国の農業に進出して、生態系を乱すだけでなく農民に大きな経費の負担を強いている。農民は収穫した作物を売っても借金がかさむばかりとなった。インドでは借金に苦しんだ農民が2万数千人も自殺に追い込まれた。

【5】2月16日、米ニューヨークタイムズ紙が次のように報じている。「イラク問題で西側諸国の同盟がぐらつき始め、週末には壮大な反戦デモが世界中で繰り広げられた。世界にはまだ二つのスーパーパワーが存在しているのかもしれないと私たちは気がつく。アメリカ合衆国と世界世論である」。世界の平和運動に関する主流メディアの報道はおおむね低調だったため、パトリック・タイラーがタイムズ紙に書いた論説は注目を集めた。世界中の活動家がこの一節を引用し、市民運動を「第二のスーパーパワー」と呼ぶようになった。

【6】米欧や日本の主流メディアは世界社会フォーラムの運動を適切に報道しない。シアトルのWTO閣僚会議(99年)、ジェノバのG8サミット(01年)、カンクンのWTO閣僚会議(03年9月)、マイアミのFTAA閣僚会議(03年11月)で行われた運動の報道では、警察隊と衝突したり窓ガラスを割って暴れる一部の人びとばかりが取材された。

【7】直接には、89年にフランシス・フクヤマが米ナショナル・インタレスト誌に発表した論文 "The End of History?" と、ベストセラーとなった92年の著書 The End of History and the Last Man のことを示唆している。フクヤマはリベラリズムに基づく民主主義が政治の最終形態であり、社会の進化プロセスとしての歴史は終局を迎えたと主張した。フクヤマの説を支持する知識人は数多い。チョムスキーによると、「歴史の終わり」を唱えるのはフクヤマに始まったことではなく、時代を隔てて過去に何度も繰り返し提唱されている。アメリカでは20年代と50年代にも、当時の社会体制に満足するエリートたちが「歴史の終わり」を論じていた。いずれの場合でも「終わり」は長く続かなかった。大恐慌(29年から)とベトナム戦争(65年から)を分岐点として、世界の体制は政治体制の改革を迫られた。


著作権(2004年)
原文に関するすべての権利はヴァンダナ・シヴァが留保する。

( )は原文の挿入語句。または英文略称名の和訳。
[ ]は訳文の補助語句。
【 】は訳者による注釈。

翻訳/荒井雅子・安濃一樹・別処珠樹
編集/安濃一樹
ヤパーナ社会フォーラム
http://japana.org/start.html
mailto: kazuki@japana.org


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